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短編「JS落第いじめ」(2)

  (2)  声を上げて立ち上がったのは、教室の前方中央にいる少女だった。  小学生とあって顔立ちそのものはやや幼さを残していたが、表情は毅然として年齢不相応だ。髪は左右でひっ詰めて、赤いギンガムチェックのリボンがついたヘアゴムでくくり、ゆったりと波打ちながら肩まで垂れている。  着ているのは附属女子小学校の制服である、丸襟のブラウスに紺のジャンパースカートと、グレーのダブルボタンボレロ、深紅のリボン。更科女学園附属女子小学校が近隣地域の少女たちから人気を博するゆえんの、上品な制服だ。胸元はクラスメイト達よりもやや大きく、窮屈そうだった。  彼女の異議に、起きかけていた拍手はぴたりとやみ、黒板の前にいたふたり――担任教師と編入生の少年は動揺する。 「片瀬先生、本気ですか? 女子小学校のクラスに、男子高校生を入れるなんて」 「え、ええ。そのとおりよ、東堂さん」 「そんな話、私たちはぜんぜん聞いてません。保護者会は通したんですか?」 「いえ、その、急な話だったから、説明する暇が――」 「少なくとも、昨日の始業式の後に、あたしたちに話をすることはできましたよね? なし崩しに認めさせようとしたってことですか?」  煮え切らない担任の片瀬教諭に、東堂と呼ばれた女子は鋭く指摘する。  教室の空気は一変していた。少女の指摘通り「なし崩し」に決まろうとしていた流れは完全に断ち切られ、担任教諭への不信と、不満――そして男子生徒への不安が再燃する。 「東堂さん、それは――」 「彼のことを受け入れるかどうかは、あたしたちが決めます。先生は口を出さないでください」  ぴしゃりと言って自らの担任を黙らせたうえで、少女は改めて編入生に目を向けた。 「はじめまして。あたしは東堂秌子。秌子って呼んでちょうだい」 「は、はい。よろしくお願いします、東堂さん」  秌子は薄く笑って、 「あなた、中津川さんっていったかしら? ちょっと言いにくいわね。これからは明衣ちゃんって呼ぶけど、それでいい?」 「め、明衣ちゃん……? は、はい」  いきなり下の名前で呼ばれて面食らう少年。うなずいた後で、まるで少女のような呼び名に顔を赤くした。 「じゃあ明衣ちゃん。うちのクラスの一員として、あたしたちと仲良くしたい――そうよね?」 「はい。どうか仲良く――」 「だったらまっさきに、あたしたちと同じにするべきことがあるんじゃないかしら?」 「みんなと、同じに……?」  クラスメイト達を見回して、必死で頭を働かせる明衣。  話の流れがいったいどこにたどり着くのかと、クラスじゅうが固唾をのんで見守っていると、 「決まってるでしょ。制服よ、制服。女子小学校のクラスに編入されたんだから、制服もあたしたちと一緒じゃないと。ね、みんな?」  秌子は賛同を求めるように、クラスメイト達を見回した。  戸惑ったような空気が流れたのは、ほんの一秒ほどのこと。すぐに少女たちから、 「さんせー!」 「やっぱり女子制服を着てくれないと!」 「そのままだと、男子高校生って感じだもんねー」  一斉に上がる賛同の拍手と喝采に、明衣はもちろん、担任教諭も制することができない。  アジテーションの結果に満足したように、秌子はにんまりと笑って明衣を見つめ、 「……ということよ、明衣ちゃん。まずはあたしたちと同じ、附属小学校の制服に着替えて来てくれないことには、クラスの一員として受け入れることなんてできないわ」 「っ……! わ、わかりました……」  明衣の顔が引きつる――が、震えながらもはっきりとした答えが返ってくるまでに、そう時間はかからなかった。 「じょ、女子小学校の、制服に、着替えて、来ます。それで……クラスの一員として、受け入れて、もらえるなら。でも、今すぐは……」 「制服は保健室に置いてあるはずだから、それを借りるといいわ。着替えてきたら改めて、自己紹介を聞いてあげる。――ああ、それと」  秌子は机の横にかけてある体操着袋から予備のショーツを取り出すと、それをつまんだ右腕を彼に向かって伸ばす。 「あたしの下着、あげるからそれをつけなさい。明衣ちゃんの体格なら、はけるでしょ」 「し――は、はい……」  クラスのあちこちから忍び笑いが漏れる中、明衣は秌子に近づくと、下着を受け取った。すでに何度も洗濯され、けば立ったコットンショーツ。目の前の少女が穿き古したものであることを物語る手触りに、明衣は息をのんだ。  彼は両手で隠すようにそれを持つと、 「す、すぐに、着替えてきます……」  そういって、教室を出て行った。 「ふふっ……」 「くすくすっ……」 「ねぇ、ほんとにあのお兄ちゃん、着替えてくるのかな?」 「来るでしょ。しかも下着まで……」 「でもあのお兄ちゃんなら、似合いそうだよね」 「んふふっ、東堂さんもいい趣味してるぅ」  おかしそうに笑いさざめく少女たち。  その中で、当の秌子はやや疲れたように息をついた後、 「中津川――まさか、ね……」  誰にも聞こえないように、小さくつぶやいたのだった。   (続く)


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