連載小説「やりなおし」(57)
Added 2020-10-02 09:36:50 +0000 UTC2-1.露見 (12) 外は冷えるし、園庭でおむつ一枚でいるのも恥ずかしかったため、歩実たちは地元の小学生と別れ、いったん室内に戻った。 あとは10分間計測しつつ、おしっこを我慢するだけなのだが―― 「ど、どうしてふたりとも、あたしを見てるの……?」 「えーっと……その、なんとなく?」 自分に割り当てられた年少組の教室で、段ボールいっぱいの女児服を整理をしつつ、トイレを我慢していた歩実のところに、なぜかふたりも入ってきて、じっと観察していたのである。 「な、なに?」 「えーっと」 祐奈はごまかすように視線を左右させた後、 「も、もし歩実ちゃんがおもらししちゃったら、お手伝いしようと思って!」 「だ、大丈夫だから! ぜったいにおもらしなんてしないし!」 慌てて叫ぶ歩実。いっしゅん「フラグっぽかったな」とは思ったが、さすがに10分も我慢できない状態ではない。 祐奈と一緒に入ってきた千絵はくすくす笑って、 「くすくすっ、祐奈ちゃんは、歩実ちゃんのそばにいたいんだって。ずっかり懐かれちゃったわね」 「うっ……」 茶化されて、歩実は何とも言えなくなる。仲良くなれたことは素直にうれしいのだが、できればひとりきりになりたい。何しろ前回の射精から時間がたち、下は紙おむつ一枚という状況。いつ勃起するかわからないうえに、勃起してしまったら誤魔化しようがないからだ。 「で、千絵ちゃんはどうしてここに……?」 「ひとりで別の部屋にいるのもなんだし、危なっかしくてほっとけないからよ」 「あ……うん、わかる……」 てっきり祐奈のことを言っているのだろうと思って同意する歩実に、 「もー、ふたりとも、祐奈のことこどもあつかいしないでよーっ!」 ほっぺたを膨らませてむくれる祐奈。 千絵はおかしそうに笑って、 「安心して。祐奈ちゃんのことだけじゃなくて、歩実ちゃんのこともだからね?」 「うっ……あ、あたし、6年生だから大丈夫だって……!」 「そっちじゃなくて……ま、いいわ。歩実ちゃんにも『いろいろ』、あるみたいだし」 先ほどの恭子とのぎこちないやり取り――その時のことをほのめかされて、歩実は言葉に詰まる。 「お姉ちゃんとのこと? 歩実ちゃん、お姉ちゃんと何かあったの?」 「べ、別に、何も」 歩実は精いっぱい誤魔化そうとするが、祐奈は彼の顔をまじまじと見つめて、 「そういえば――お姉ちゃんが中学の頃に、仲よくしてたお兄ちゃんがいたんだよね」 「へ、へぇ、そうなんだ……」 「うん。お姉ちゃんと仲が良くて、うちにも何度か遊びに来てたんだけど、祐奈は中学生のお兄ちゃんが怖かったから、あんまり顔を覚えてないんだよね」 「うっ……」 ひた、と自分の顔を見つめる少女の目に、歩実は背筋を凍らせる。 顔からは血の気が失せ、緊張がぎりぎりと心臓を締め上げて、鼓動が痛いほどに高鳴って―― 「ねぇ、もしかして、歩実ちゃんはそのお兄ちゃ――」 祐奈が決定的なことを口にしかけた、その瞬間だった。 「あっ……!?」 わざとではなかった。 少女の追及によって、名探偵に名指しされた真犯人のように追い詰められた歩実は、強い心理的負荷からおもらししてしまったのである。ふだんであればまだしも、ちょうどおしっこを我慢している最中だったのが致命的だった。 せせらぎのような小さな音と、股間を濡らす温度。尿道をなぞるくすぐったさと、おもらしをしてしまっている恥ずかしさに、先ほどまで青かった歩実の顔が赤みを取り戻す。 同時に歩実のおむつの前側がゆっくりと膨らんでいき、その中央に「おもらししました」の文字が浮かび上がった。 「や、やっちゃった……!」 「あらあら」 千絵は言わずもがなのことは口にせず、 「どうする? 手伝ったほうがいい? それともさっきみたいに、ひとりにしたほうがいい?」 「で、できれば、ひとりにしてくれると助かるな……」 「わかったわ。じゃあ、あたしたちは外に――」 「うー、手伝わせてほしいのに……」 不満そうな祐奈だったが、まさか彼女の前でおむつ交換するわけにもいかない。股間に生えているものを見つかったら、この合宿はご破算だ。 しかし―― 「ねぇ、歩実ちゃん。歩実ちゃんがおむつ交換を手伝われたくないのって……もしかして歩実ちゃんが、男の子だから?」 祐奈の一言に、空気が凍った。 (続く)