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連載小説「やりなおし」(55)

 2-1.露見   (10)  3人の少女たちは、開いている園門から幼稚園の中に入ってきた。  簡単に自己紹介した後で話を聞くと、近所に住んでいる小学生で、いずれも一年生らしい。公園に遊びに行く途中に通りかかったら、幼稚園に人がいるので様子を見に来た――とのことだった。 「あたしたちのときにはもう、このよーちえん、しまってたから」 「そ、そうだったんだ」  最年長ということで代表して、歩実が3人に応える。おむつを見られた恥ずかしさの余韻に、まだ顔が熱かった。 「あたしたち、この幼稚園で、しばらく寝泊まりしてるの。その……幼稚園を、合宿に使ってるんだ」 「がっしゅく?」 「うーん……お泊り会、みたいなものかな」 「じゃあ、お姉ちゃんたちはお友達なの?」 「お友達だけど、お友達だったわけじゃないっていうか……ええと」  少女たちの無邪気な質問攻めに、歩実はちょっと口ごもってから、正直に答えることにする。 「その、あたしたちね、おもらしを治すために、この合宿に参加してるの」 「おもらし? おねーちゃん、おもらししちゃうの?」 「う、うん。だからそれを治すために、このお泊り会に参加したの」  歩実は赤い顔で説明する。後ろでは祐奈も恥じ入り、千絵は「ふん」というように目をそらしていた。  てっきり女の子たちに笑われるか、馬鹿にされるか――そんな反応に身構える歩実だったが、 「あっそっかー! だからお姉ちゃん、おむつはいてたんだね!」 「うっ……うん……」  心を刺す言葉が思わぬ方向から飛んできて、歩実は軽く胸元を押さえる。  さらに別の少女たちも、 「ねーねー、おねえちゃん! おむつ見せて!」 「さっきチラッとしか見えなかったから、よく見たいの!」 「え、えっと、あの……」  少女たちの勢いに、歩実はたじろぐ。  見せるのが恥ずかしいのはもちろん、お願いされたからといって安易に見せていいものでもない。いっぽうで、悪意でも揶揄でもなく純粋な好奇心だけに、むげに断るのも大人げないような気がしてくる。押しには弱いのだ。  混乱と、躊躇と、葛藤の末、 「う……うん……」  歩実はサロペットスカートの裾をつかむと、ゆっくりと持ち上げていた。 「わぁっ……!」  まるで宝箱が開かれたかのように、少女たちが感嘆の声を上げる。  淡いピンクに、花とイチゴがプリントされた女児用紙おむつ。全体的にゴワゴワとした、伸縮性のあるギャザーがかかったパンツのような外見だが、中央部分に当てられた分厚い吸水パッドが、紙おむつであることを物語っている。 「もこもこしてて、可愛い~!」 「こんなに可愛いおむつなら、ユウナもしてみたいかも!」  黄色い声を上げてはしゃぐ少女たちに、歩実は真っ赤になって、スカートをたくし上げる指先を震わせる。  さらにリクエストはエスカレートして、 「後ろ側は? 後ろ側はどうなってるの?」 「う……ちょ、ちょっとだけだからね……」  おむつの中で疼くものをごまかすように、歩実は彼女たちに背中を向けて、今度はお尻側をめくりあげた。  とたんに現れたのは―― 「わぁ、お姫様だぁ!」 「これって、ら、ら……らぷん、つぇる?」 「うん。ラプンツェルのシルエットが、入ってるの……」  説明しながらも、歩実の顔は真っ赤だ。何しろここは、園の中でも何でもない。少女たちはもちろん、通行人や路上の車からさえ、歩実がスカートをめくっておむつを丸出しにしているのが見えてしまっている。  羞恥に満ちた、セルフスカートめくり。しかしようやく少女たちは満足したようで、 「ありがとう、お姉ちゃん!」 「そうだ、せっかくだから、一緒に公園に行って遊ばない? すぐ近くにあるの」 「ここより遊具もたくさんあるし、鉄棒も高いから、お姉ちゃんたちにはいいと思う!」 「おむつを見せてくれたお礼に、案内してあげる!」  少女の誘いに、歩実たちは顔を見合わせる。そして、 「う、うん。案内してくれる?」 「わーい!」 「こっちこっち!」  3人の少女は、元気よく門の方に駆け出してゆく。 「あたし、恭子お姉さんに声をかけてくるわね」 「うん。ありがとう、千絵ちゃん」  話はすぐにまとまって、6人はすぐ近く――本当に歩いて1分もしないところにある公園へとやってきた。  団地の真ん中にあるにしては意外と広く、芝生の広場にジョギングコース、遊具コーナーとに分かれている。1年組の言っていた通り、スプリング遊具にジャングルジム、のぼり棒に雲梯と、幼稚園に比べて遊具も充実していた。  滑り台も幼稚園のものよりずっと大きく、 「へぇ……これなら、少しは勢いが出るかも」  歩実は深く考えずに上り、スロープに腰掛けて降りはじめたが、 「あっ、だめ!」  少女の一人があげた制止の声は、ほんの少し遅かった。  スロープの一番下までたどり着いた瞬間、その凹みにたまっていた水にお尻をつけてしまい――サロペットスカートの後ろの裾が、びっしょりと濡れてしまったのだ。   (続く)


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