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連載小説「やりなおし」(54)

 2-1.露見   (9)  と、言うわけで――  歩実は祐奈に手を引かれて、大部屋から玄関へと続く廊下を歩く。 (そういえばふたりとも、もう紙おむつはつけてるのかな)  前を歩く祐奈の尻のラインが、よく見ると不自然なことになっているのに視線を向けていると、 「どうしたの、歩実ちゃん? あたしのお尻、ヘン?」 「う、ううん。ふたりももう、おむつをつけてるのかなって思って」 「うん。ちょっぴり恥ずかしいけど、つけてるの。ね、千絵ちゃん」 「ええ。これでおそろいね、歩実ちゃん」  千絵がほんの少し意地悪な笑みを浮かべ、歩実は赤くなる。  そんなやり取りをしながら靴を履き替えて、3人は園庭に出た。  改めて見ると、狭い庭だ。柵のそばに遊具が並んでいることもあり、とても駆けっこや鬼ごっこができるような広さには見えない。当時通っていたのとは別の幼稚園だから単純に比較はできないとはいえ、昔はあんなに広く感じたのに。  祐奈も同じ思いだったのか、 「わぁ、ちっちゃーい!」  はしゃいだ声を上げながら、まずは手近な滑り台へと駆け寄る。階段を一段飛ばしで上がり、あっという間に上までたどり着いて、 「ほら、歩実ちゃんも、千絵ちゃんも!」 「う、うん!」  祐奈に呼ばれて、歩実も階段を上がる。ステップも、段差も、こんなに小さかったのかと驚くほど。手すりをつかむことさえ苦労するほどの低さで、のぼりきっても大した高さではない。 (幼稚園の頃は、あんなに高く感じたのに――)  それだけ自分が大きくなったということだろうかと、歩実もまた物思いにふけりそうになる。  しかし服装は幼稚園児と言われてもおかしくない、ピンクのカットソーに真っ白なジャンパースカートを着ていることに、お尻がむずむずしてくる。まして祐奈はスキニーパンツ、千絵はショートパンツと、自分よりずっと大人びた格好をしているのだ。 (ま、まぁ、園児服を着せられてないだけましだから)  自分に言い聞かせる歩実だったが――何か盛大なフラグを立ててしまったような気もする。 (さすがにないと思うけど、園児服まで着せられたら――)  大きな丸襟のブラウス。吊りスカートに、水色のスモックと名札。そしてスカートの中は、可愛らしい紙おむつ。  今の体にそれらの園児服を着せられて、幼稚園児として遊具で遊ぶ自分の姿を想像し――歩実は大きく身震いするのだった。 (っていうか、ブラウスとスカートは持って来てあるんだから、あとはスモックと名札があれば幼稚園児スタイルができちゃうのか……いや、ぜったいに着ないけど!)  ふるふると首を振っていると、 「歩実ちゃん、滑らないの?」  背後からの千絵の声に顔を上げれば、すでに祐奈は滑り終え、歩実の番になっていた。  歩実は慌てて滑り台に腰をおろし、短いスロープを滑り降りて行った。  続いて千絵も降りてから、隣の鉄棒へ。  こちらもびっくりするほど低く、歩実の腰ほどの高さしかない。一番高いもので、やっとおへそに当たる程度だ。 「あははっ、ひくーい!」 「逆に低すぎて、頭を地面にぶつけないか心配ね」  少女たちは大はしゃぎで前回りをする。ふたりともパンツだから、動いても紙おむつが見える心配はないのだが―― (うう、このサロペットスカートだと、紙おむつが見えちゃいそう……)  歩実ひとりだけ、赤い顔で固まっていると、 「歩実ちゃん、どうしたの? 鉄棒苦手?」 「う、ううん。そうじゃないんだけど――その、このスカートだと、見えちゃいそうだから……」  何しろ団地の中心にあり、特に遊具のある側は道路に面している。まばらとはいえ、すぐ目の前を人や車が通る前で、おむつを見せながら鉄棒で遊ぶ勇気は出ない。  しかし千絵はあきれたように、 「別にちょっとくらい見えたって、気にすることないのに。……そういえば歩実ちゃん、逆上がりってできる?」 「う、うん」  急な話題変更に戸惑いつつも、歩実は素直にうなずく。瞬発的な筋力はないが、体は軽いし柔軟性も持久力もある。体操や長距離走は得意な部類だ。 「だったら、ちょっと教えてくれないかな? 学校で逆上がりの授業があるんだけど、なかなかうまくいかないから、練習しておきたいの」 「あ、祐奈も!」 「うん。うまく教えられるかわからないけど、ぼく――あたしでよかったら」  歩実は快くうなずいて、一番高い鉄棒で、ふたりを教え始めた。  といっても、教師でもないのだから言えることはたかが知れている。脇を絞めて、鉄棒を胸元にしっかり引き寄せ、バランスを取りながら足は上に向かって蹴り出す――言葉にすればそのくらいだ。  まず一度やってみてもらったところ、 「祐奈ちゃんは蹴りだしの角度が、前すぎるみたい。もっと上に向かって蹴りあげるようにして見て。千絵ちゃんは腕力が足りてないから、腕にもっと力を込めることを意識して」 「はーい」 「なるほどね、やってみる」  並んで練習を始めるふたりを、歩実はサポートする。千絵には、肩から背中のあたりを支え、祐奈には、下がりがちなお尻や太ももの裏を押して持ち上げてやるが――なかなかうまくいかない。 「うーん……一度、お手本を見せたほうがいいかな」 「うん! 見せて見せて!」 「お願い、歩実ちゃん」  いったんふたりを休ませて、歩実自身が鉄棒に向き合う。かなり低いが、このくらいなら大丈夫そうだ。  逆手に鉄棒を握り、重心を落として胸元に引き寄せる。助走はつけずに足を一気に蹴り上げて―― 「あーっ! あのお姉ちゃん、おむつはいてるー!」  響き渡った大声に、くるりと回り切った歩実は、青い顔で目の前を見た。  そこには3人の少女――千絵よりもさらに幼そうな子たちが、じっとこちらを見つめていた。   (続く)


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