連載小説「やりなおし」(53)
Added 2020-09-27 09:41:33 +0000 UTC2-1.露見 (8) 振り返った歩実は、祐奈が広げている服に目を丸くする。 「そ、それ……!」 「えへへ、歩実ちゃんにぴったりだと思って選んだの! どう?」 「う、うん! か、可愛い服を選んでくれて、ありがとう、祐奈ちゃん」 精いっぱいのお愛想を言いながらも、歩実は緊張に喉を鳴らした。 シンプルな白のセーラー襟がついた、ピンクのパフスリーブカットソー。 白を基調にしたサロペットスカート。左右のポケットのフラップ――上にたされがっているふたのような部分は、淡いピンクの小花柄切替えになっている。 どちらも自分では買った覚えがない――おそらく母親が買い足したもののひとつだろうが、改めて見ると小学校高学年の少女が着るには幼すぎる。ましてや、男子高校生の息子に着せるものではない。 (うう、お母さん、やっぱりこういう服ばっかり――) そんな歩実の内心を知る由もなく、祐奈はほっと笑顔になって、 「よかったー! あ、お着換えも手伝おっか?」 「う、ううん! 着替えは一人でできるから! 気持ちだけありがとう」 「そう?」 まだ物足りなさそうな表情の祐奈に、背後から千絵が言う。 「歩実ちゃんがいいって言ってるんだから、いいんでしょ。それに、あたしたちより上の6年生なんだし」 「あ、それもそうだね! じゃ、他には何か――」 「ううん、もう大丈夫。ありがとう、祐奈ちゃんも、千絵ちゃんも」 改めてお礼を言うと、 「はーい! ごめんね、歩実ちゃん」 「じゃ、祐奈ちゃん、行きましょっか」 ふたりは口々に言って、ようやく部屋を出て行った。 部屋を出る二人にほっとしつつ着替え 「ほーっ……」 今度こそ入り口に鍵をかけなおし、歩実は大きく安堵の息を漏らした。 「何とか男だってことや、射精したことはバレずに済んだけど……はぁ、着替えかぁ……」 用意してもらったカットソーとサロペットスカート。いま着ているセーラーワンピースももちろん恥ずかしいのだが、だいぶ慣れてきたところで着替えとなると、また恥ずかしさが新たになる。 「まぁ、いつまでもぐずぐずしていられないし、早く着替えてぼくも説明を受けよう」 歩実はワンピースを脱いで、紙おむつ一枚とキャミソール、ソックスのみの姿になる。 「うぅっ……本当におむつが取れない女の子のお着換えみたいで、恥ずかしい……!」 暴発という、中途半端な射精のせいで満足するほど出し切っていないペニスが、逆に疼く。しかし改めて抜きなおすわけにもゆかず、歩実は少女たちに用意してもらった服に着替えた。 どちらも可愛らしいデザインが恥ずかしかったが、特にサロペットスカートはセーラーワンピースよりさらに丈が短く、膝はもちろん、太ももも半ば以上が見えてしまっていて、 「こんな格好で過ごさなくちゃいけないのか……ま、まぁ、ちょっと生地は薄いけど、タイトな感じだから、めくれておむつが見える心配はない……かな」 それにしても、と歩実はため息をつく。 「合宿所に来てそうそう、おもらしした上に、恥ずかしい思いをすることになるなんて……」 ぼやきつつ、歩実はドアを開けて廊下に出ると、レイカのいる大部屋へと向かうのだった。恭子もいるかもしれないと思うと、ますます気が重い。 着替え完了、合宿の説明へ (これなら、失禁改善の方法だけ教えてもらって、自分でやるような感じにすればよかったかな) そんな考えすら起こしてしまう歩実だったが―― 「――ああ、それは難しいね」 大部屋でダイニングテーブルに向かい合って座り、「説明」が始まってすぐにそれを口にしてみたところ、白衣の美女からあっさり一蹴された。 「今回のプログラム、要するにおしっこを我慢することで膀胱の容量を拡張しようというものでね。素人が下手にマネして無理に我慢したら、膀胱炎をおこしたり、下手すると膀胱が破裂してしまう」 「そ、そうですか……」 「まして君の場合、膀胱容量自体もそうだが、心理的ストレスによるところが大きいようだからね。ここで恥ずかしい思いをした方が、いい治療になるんじゃないかな?」 「はい……」 言われてみればその通りで、返す言葉もない。1年半前の失敗も、「告白」という一世一代の緊張感から起きた失敗なのだ。 「というわけで、だ。今後は水分量、排尿量などをモニターさせてもらうから、そのつもりでいてほしい。排尿の時はコップに出して容量を、おむつの時ははかりに載せて重量を――それぞれ細かく報告するように。いいね」 「は、はい」 「また、尿意を感じでもすぐに出さないように。10分我慢したうえで、トイレに行くこと。今更だけど、参加者におむつを当ててもらっているのは、万一漏らしてしまった時のための保険なんだ」 「なるほど……」 紙おむつを着用するように言われていたものの、理由は明かされていなかった。歩実はようやく納得する。要するに、治療法だけ聞いた参加者に勝手に真似されないように――という配慮だったのだろう。 ちょうど話が終わったところで、大部屋に少女ふたりが入ってきた。彼女たちは歩実のそばまでくると、 「あ、歩実ちゃん! うんうん、可愛い~!」 「いいじゃない。先生、歩実ちゃんへの説明はもう終わったの?」 「ああ、ちょうど済んだところだ。用があるなら、連れていくといい」 レイカは立ち上がり、 「そうそう、私は1階の保健室に詰めているから、用があるからそこに来なさい。それじゃ」 言いおいて、今度こそ立ち去った。 「え、えっと、ふたりとも、さっきはありがとう。で、どうしたの?」 「どういたしまして! あのね、ここって幼稚園でしょ? だから、お庭の遊具で遊ぼうってことになって」 「ま、幼稚園のだからあたしたちにはちょっと小さいかもしれないけど、遊べないことはないと思ってね」 「幼稚園の、遊具で――」 こんな可愛い女児服で遊んだら、本当に体の大きい幼稚園時みたいになりそうだ――恥ずかしさが湧き上がるが、誘いを断るのも悪いし、他にすることもない。当たり前の話だが、男子高校生としての遊びや勉強道具はまったく持ってきていないのだ。 「う、うん! 一緒に遊具で遊びましょう!」 (続く)