NokiMo
jugatsu-usagi
jugatsu-usagi

fanbox


「井上くんは『衣能』力者」(2)

  (2)  宗司たちのやりとりと、彼の目の前に積まれた女子制服に、クラスメイトたちが何事かと振り返る。  ギャラリーによく聞こえるように、桐子は高らかに通告した。 「前回の期末テスト! 総合点数であたしが勝ったら、宗司は一日、女子制服を着て過ごす――この期に及んで、忘れたとは言わせないよ?」 「お、思い出したけど……なにも期末テストの日に言わなくたっていいだろ!」 「何よ。今までずっと、そうやって言い訳して逃げ回ってきた宗司が悪いんでしょ」 「うう、こっちは進級がかかってる瀬戸際だっていうのに……」 「だったらなおさらよ。もし宗司が留年することになったら、それこそ約束がお流れになっちゃうじゃない」 「鬼か!?」 「ひどいなー。むしろ今日なら半日で済むんだから、あたしのやさしさに涙してくれてもいいくらいじゃん?」 「できるか!」  叫ぶ宗司だったが、圧倒的に分が悪い。主張としては、完全に相手が正しいことは認めざるを得ないのだ。裁判だったら即敗訴である。控訴すらも棄却されるだろう。  さらに陪審員――クラスメイトたちも大盛り上がりで、 「そうだそうだ! 女装しろー!」 「約束なんだからちゃんと着ろよ、井上ちゃん」 「井上くんの女装? あははっ、似合いそー!」 「う、うるせぇ!」  叫び返すものの、もはや逃げ場はない。宗司は頭を抱えて、 「わかった、わかったよ……今日いちにち、着ればいいんだな?」 「うんうん、素直でよろしい。さぁ、時間もないし、脱いだ脱いだ」 「つつくな! っていうか、何もシャツやブレザーまで女子用にしなくても、スカートだけでいいんじゃ……!」 「やるなら徹底的に、よ。ブラジャーやショーツを着せないだけ、感謝してほしいくらいだわ」 「勘弁してくれ……」  というわけで――  あれやこれやと大騒ぎしつつ、宗司は女子制服に着替えさせられていた。  下着類とソックスは免除してもらったものの、シャツやブレザーは女子用だ。肩幅も、腕回りも、男物よりずっと細身に作られているが、身長162センチと小柄で華奢な宗司には、むしろ男子用よりぴったりなくらいだった。襟もとのリボンも、ネクタイとは違う付け心地で落ち着かない。  もちろんボトムスも、ズボンではなくスカートである。ウエストは問題なく穿けたものの、女子より身長の高い宗司がミニ丈のスカートを着せられているのだから、太ももが半分以上露出してしまう。 「うう、まるで下半身が下着一枚みたいに頼りない……なのに、動くたびにくすぐったい……! っていうか、足が丸出しだから、寒くて仕方ないんだけど……!」  生まれて初めてのスカートに、宗司が赤い顔でもじもじしていると、 「あははっ、でしょー? あたしたちの日ごろの苦労、思い知ったか」 「でも井上くん、足が細くて白いから、スカートよく似合ってるよねー」 「うんうん、羨ましいくらい」  恥じらう彼の様子が面白くて仕方ないのか、女子たちは盛んに歓声を浴びせる。  男子たちはさらに深刻で、真面目な表情で彼を見つめながら腕を組み、 「……いけるな」 「……ああ」 「お前ら……」  思わず頭を抱える宗司。もはや怒る気力もない。  そこへ、 「おはよう、井上くん。どうしたの、その格好?」  絹のように柔らかな少女の声に、宗司はギョッとして振り返り、 「お、おはよう、波多野さん。えっと、これは……」  今までとは異なる理由で顔を赤くしながら、彼女に向かってあいさつした。  波多野紗織。  宗司とは席が隣で、小動物系の顔立ちながら、どこか憂いを帯びた、大人びた表情と物腰が印象的な同級生である。ハーフアップに結い上げた髪は、やや色素が薄いのか、毛先などが光に透けると淡く金色を帯びていた。  容姿も性格も控えめながら、胸元だけは立派に主張している。桐子とは正反対だ――とは、口が裂けても言えなかったが。 「んふっ、実はね――」  恥ずかしがって答えられない桐子がこれまでの経緯を説明すると、 「ふふっ、災難だったわね、井上くん。でも、よく似合ってるから気にすることないわ。本当に女の子みたい」 「ええと……その、ありがとう……」  何の邪気もない褒め言葉に、宗司はますます赤くなってうつむき――そのため、隣の桐子が面白くなさそうな表情になっていることには気づかなかった。  そこへタイミングよくチャイムが鳴り響き、担任の鈴木教諭が入ってきて、 「はーい、テストを始めるから、みんな席について――って、あら、井上くん、いつから女子になったの? まぁいいわ、テストを始めるわよ。最初は現社からね」  パンパンと鳴らされる手に、生徒たちは自分の席に着く。  ――そして宗司は、「ミニスカートで椅子に座ると太ももの裏がほぼ座席に密着する」という、男子にとってはこの上なく不必要な知見を得たのだった。   (続く)


Related Creators