連載小説「やりなおし」(47)
Added 2020-09-20 10:13:48 +0000 UTC2-1.露見 (2) 祐奈のすぐ後ろに立っていた歩実は、素早く反応した。 「危ない!」 とっさに腕を伸ばし、彼女を背後から抱きとめる。軽い少女の体は、腕力のない彼でもなんとか支えることができ、祐奈は無事に立ち直った。 助手席にいた恭子も振り返って、 「祐奈、大丈夫?」 「う、うん。大丈夫……」 祐奈はまだ頭がついていかないのか、歩実の腕の中で放心したまま答える。 姉の恭子は安堵に胸をなでおろし、 「ほっ、よかった。ありがとう、歩実ちゃん」 「いえ、どういたしまして。祐奈ちゃん、立てる?」 「う……うん」 彼女はようやく我に返ると、にっこり笑って振り返り、 「あ、ありがとう、歩実ちゃん!」 「どういたしまして。危ないから、気を付けてね」 間近で微笑む祐奈に、歩実は少し顔を赤くしながら、抱きとめていた腕をほどいて離れる。 改めて、祐奈は今度こそちゃんと車内に入り、続いて歩実、千絵の順で後部座席におさまった。シートベルトを締めながら、彼女は改めてお礼を言う。 「えへへ、ほんとにありがと、歩実ちゃん。歩実ちゃんが支えてくれなかったら、祐奈、大けがしちゃってたところだった」 「うん。祐奈ちゃんに怪我がなくてよかった」 そこへ、すぐにレイカも戻ってきて、 「みんな、乗り込めたようね。なら、出発しましょうか」 「はーい」 一同の返事を聞くと、運転席に乗り込んで発車した。 「すでに説明したとおり、合宿の場所は、車だと5分くらいのところにある元幼稚園の建物だ。歩きだと、だいたい20分くらい。バスでも駅に出られるが、そっちは乗り換えが必要だから、歩くのと時間的には大して変わらなかったりするね――」 駅前から大通りへと車を走らせながら、目的地の場所について、詳細な説明を加えるレイカ。 しかし後部座席の真ん中に座る歩実は、冷静な顔を装いつつも、とても心中穏やかではいられなかった。 (はぁ、ドキドキした……まだ心臓が痛いくらいにバクバクいってる……) 歩実の身に起きていたのは、いわゆる吊り橋効果だった。 転んだ祐奈が大怪我をするかもしれないという、緊張と恐怖。それによって上がった脈拍が、性的興奮と脳に誤認されているのだ。 そして誤認であろうと、高鳴る心臓にあわせて、股間のモノも脈動を始め、 (う……ぼ、勃起しそう……) (でも、頑張って、我慢しないと……) 問題は、勃起そのものだけではない。 先ほど起きた、吊り橋効果による性的昂奮――それはとうぜん、目の前の対象に対して向けられる。 半分は、いまの彼自身の服装――ピンクのセーラーワンピースと、その着心地に対して。 もう半分は、抱きとめた祐奈の体――その、ほっそりとした抱き心地に対して。 (ま、まずいって! これから一緒に合宿生活を送るのに、祐奈ちゃんの体に昂奮するのは……!) しかもいまもすぐ隣には、少女たちの体がある。走る車が左右に揺れるたび、肩や腕、腰や太ももが触れ合い、時に密着して、落ち着かないことこの上ない。 (うう、このままだと、ほんとにロリコンになっちゃいそう……!) (なにか、なにかほかに、昂奮するようなものは――) (そうだ、紙おむつ――) 窮余の一策で、歩実はワンピースの下――すでに着用済みの女児用紙おむつに意識を向ける。 (ハーフパンツの祐奈ちゃんも、ショーパンの千絵ちゃんも、まだおむつはつけてないみたいなのに、ぼく一人だけ、合宿所に着く前からおむつだなんて、恥ずかしい……) (しかも、薄いピンクにイチゴ柄で、お尻にはラベンダーのラプンツェルシルエットがプリントされてる、女児用紙おむつ――) 少女の体から意識をそらすためとはいえ、当てている女児用紙おむつのことを考えると、さらにムラムラしてくる。 (そもそも、リアル女子小学生は2人ともパンツなのに、本当は男子高校生のぼくだけワンピースって、これじゃまるであべこべだよね――) 考えれば考えるほど恥ずかしくなってきて、紙おむつの中が余計に窮屈になる。いっそ心を無にすればいいのだが、あいにくまだまだ修行不足で、余計なことまで思い出してしまう。 (ワンピースといえば、ぼく、こんな可愛い格好で、ここまで来ちゃったんだよな――バス停でも、駅前でも、駅のホームでも、電車でも――お出かけは2回目とはいえ、たくさんの人に見られて、すごく恥ずかしくて……でも、ドキドキして……) (だ、ダメダメ! これ以上考えたら、ますます恥ずかしくて、おちんちんがおっきくなっちゃうんだから……!) すでに勃起は、紙おむつを当てていなければスカートの上からわかるほどのテントを張っているであろう程に怒張していた。今すぐスカートをめくっておむつをずり下し、しごき上げたいほどの苦痛と誘惑にさいなまれながらも、必死で両手を膝の上に置いて我慢する歩実だった。 (うう、せめて女子小学生の体に昂奮するのだけは、避けないと――) 抱きとめた祐奈の体にドキドキするあたり、すでに半分危ないところまで来ているのだが、歩実自身はまったく自覚していなかった。 そしてもう一つ、彼は重大なことに気づいていなかった。 「……………………」 隣の祐奈が、自分の胸やお腹に手を当てながら、彼の腕を、じっと見つめていることを。まるで、歩実に抱き留められた時の腕の力強さを思い出し、違和感を頭の中で反芻しているかのように。 微妙な空気がわだかまる後部座席で千絵だけが、黒猫のように平静な顔で外の風景を眺めながら、我関せずと小さく欠伸をするのだった。 (続く)