連載小説「やりなおし」(46)
Added 2020-09-19 09:06:26 +0000 UTC2-1.露見 (1) 雑踏の中で、ピンクのセーラーワンピースはひときわ目を引いた。 夏物の、ノースリーブのワンピースである。2本の白いラインが入ったピンクのセーラー襟は、細やかなレースに縁どられ、前立ての左右に並ぶピンタックや、ウエストに結ばれた深紅のベルト、そこから大きく広がるボックスプリーツなどとともに、さわやかながらも少女らしい印象だった。 小物類もそれに合わせて、ボブカットに切りそろえられた頭には白いリボンのついた小さな麦わら帽子をかぶり、肩には藤編みのバッグ、足元はジュートウェッジのついたグラディエーターサンダルと、いかにも「夏のお嬢様」といったいでたちである。 ――東京都西部の地方都市・大六津市。 その中でもさらに外れにある、西大六津駅の雑踏にあって、そんな「夏のお嬢様」が目立つのは、致し方のないことだった。 「やっぱり、もうちょっとおとなしい格好で来ればよかったかな……」 「お嬢様」――いや、男子高校生の川島歩実は、周囲からの視線にうつむきそうになるのを必死にこらえつつ、目的地に向かって歩いていた。 すでに合宿当日。恭子との関係や、他の参加者に男バレしないかなど、懸念材料は山積みである。とはいえ、祐奈からの励ましもあって参加を決意した彼は、もっか指定された集合場所に向かっているのだった。 駅から北口改札を出て、階段を下りる。集合まで10分前――何事にも慎重な歩実にとっては、心に余裕を持って動ける時間だ。 (早く着いたとしても、誰もいないってことはないだろうし) 案の定、集合場所であるロッカー前に、すでに3人が待っていた。 パンツスーツを着た、美貌の女医――レイカ。 白と紺の夏セーラー服を着た、ポニーテールの女子高生――恭子。 長袖Tシャツに杢グレーのキャミソールを重ね着し、オリーブグリーンのハーフパンツをはいた、ハーフアップの少女――祐奈。 (恭子、中学の時のセーラー服を着てる……) 中学当時よりずっとプロポーションはよくなり、特に急成長した胸元はややきつそうなほどだったが、見ていると懐かしくなってくる。まるであの頃に戻ったような気分――と言うには、セーラーワンピースを着た今の自分の姿が邪魔をしていたが。 それでも3人に近づいて、挨拶を交わす。 「おはようございます、レイカさん。恭子――お姉さんと、祐奈ちゃんも」 真っ先に反応したのは祐奈だった。目を輝かせて歩実の服を見ると、 「おはよう、歩実ちゃん! わぁ、今日も可愛い格好してる!」 「う、うん。ありがとう、祐奈ちゃん。祐奈ちゃんも、オシャレで似合ってるよ」 「えへへ、ありがとー!」 「やぁ、おはよう、歩実くん。早め行動とは感心だね」 「おはよう、歩実――ちゃん」 続いてレイカと恭子も、挨拶を返す。 「みなさん、早く来てたんですね」 「ああ。私はもちろん主催者だし、恭子くんにも手伝いの関係で同行してもらった。で、妹の祐奈くんも一緒に来ているわけだ」 「なるほど……」 「あとは千絵くんだけ――と思ったら、ちょうど来たみたいだね」 レイカの声に促されて北口階段を見ると、黒にピンクドットのフリル袖Tシャツと、デニムのショートパンツをはいた少女――最後の参加者である五十嵐千絵が下りてくるところだった。もしかしたら歩実と同じ電車に乗っていたのかもしれない。 彼女はショートカットを揺らしてやってくると、 「おはよう。お待たせしちゃったかしら?」 「いや、ちょうど歩実くんもいま着たところだし、待ち合わせの時間前だから問題はないよ。じゃあ、ちょっと早いけどみんな揃ったところだし、車まで移動するとしようか」 「はい」 レイカの言葉に、恭子と参加者3人はわずかに緊張した表情でうなずいた。 車に向かうレイカと恭子に先導されつつ、歩実と祐奈は、千絵とあいさつを交わす。 「おはよう、千絵ちゃん」 「千絵ちゃん、今日もカッコイイね!」 「おはよう、2人とも。くすっ、歩実ちゃんは今日もまた、あたしたちの中でいちばん可愛い格好をしてるのね。似合ってるわよ」 「う……あ、ありがとう……」 祐奈と千絵はそれぞれ、小学4年生と3年生。対して自分は6年生の設定で――しかもそれすらも本当ではなく、実は高校2年生の、それも男子なのだ。女子小学生たちに交じって、いちばん可愛い服を着ていると言われても、素直に喜べるものではなかった。 しかし逆に言えば、可愛いと言われてうれしい気持ちも確かに存在するわけで。 (うう、これじゃおもらしを治せたとしても、女の子の格好をするのにハマっちゃいそう……) 不安を抱えつつ、歩実は2人の少女とともに、レイカたちの後についてゆく。 到着したのは、駅近くのコインパーキングだった。そのうちの一台、やや大きめの乗用車の前で、レイカは前後のドアを開け、 「清算してくるから、先に乗り込んでおいて。恭子くんは助手席、3人は後ろにね」 「はい」 言われたとおり、歩実たちは車に乗り込んでゆく。 後部座席へは、ちょうど車に近かった祐奈が最初に乗り込み、歩実がそのあと――という順番になったのだが。 「きゃっ!?」 車の天井と側面に手をついて乗り込もうとしていた祐奈がふいに手を滑らせ、宙に手を泳がせながら、車内へと倒れこみそうになった。 (続く)