「あたしの彼氏はベビーガール」(10)
Added 2020-09-09 10:39:23 +0000 UTC(10) 「かぐや姫」から歩いて一分足らず。雑居ビルの中に取り残されたように、小さな児童公園がある。 砂利を敷いた敷地に小さな砂場とブランコ、鉄棒、スプリング遊具が置かれているだけ。ここで遊ぶ子供はいるのだろうかと、ちょっと疑問に思ってしまう。 もっとも、いまのあたしたちにとってはいないほうが好都合だ。 「さ、歩実ちゃん。ここならいっぱい遊べるわよ」 「うん……」 空色のブルマードレスを着た歩実は、恥ずかしそうにうなずく。 幼稚園児の描いた絵のようなチューリップが並ぶチュニックのデザインといい、ブルマーのお尻にたっぷりと重なったフリルといい、服装そのものは完全に女児ベビーなのだから、無理もない。 カメラを提げた美弥子さんも嬉しそうに笑って、 「ふふ、確かにここなら、なかなかいい写真が撮れそうね。歩実くん、まずはブランコに座ってくれる?」 「は、はーい」 美弥子さんに指示されるまま、歩実は公園で「遊んで」行く。 ブランコに座って、ゆっくりと漕いだり。 下りた状態で、こちらにふりふりブルマーに包まれたお尻を向けて振り返ったり。 鉄棒を握って構えたり。逆上がりしたり。 スプリング遊具に座って、まるで赤ちゃんのようにはしゃいだり。 ほかにも、走ったり、しゃがんだりと、いろいろなポーズの写真を撮影していった。 「うんうん、これなら商品紹介にも、じゅうぶんすぎるくらいね」 美弥子さんもご満悦だ。 ちなみにお店のほうは、普段は奥で事務作業をしているという新人アルバイトに任せてきたとのことだった。それと、持ってきた紙袋に何やら入っているようだけど――その中身については何も言わないあたり、後のお楽しみにといったところね。 もちろんあたしも、たっぷりと楽しませてもらっている。 「くすっ、ママと遊びに来た赤ちゃんみたいなお写真が、いっぱい撮れたわね」 「うんっ」 あたしの言葉に、彼は「娘」の演技で元気いっぱいにうなずく。 もちろん小柄とはいえ男子高校生、こんな格好で遊んでいるところを写真にとられて、恥ずかしくないわけがない。ほっぺたは、チークでも塗っているのかというくらい真っ赤にそまっていた。 さらに言えば、ここで撮影した写真は「商品紹介」として「かぐや姫」のホームページ上に掲載されることになっている。それで特別割引してもらっているからこそ、高校生のあたしたちでもそれなりの数の服を買いそろえられるんだけど、歩実は実利と恥ずかしさの間で板挟みだった。 もっとも――そんなのが建前に過ぎないことを、あたしも美弥子さんも、そして歩実自身もわかってるんだけどね。安く買えたうえに、ベビー女装の写真をホームページに掲載されるという羞恥プレイで、二度おいしいというわけだ。 「さて――」 撮影も終わってベンチに集まったところで、美弥子さんが持ってきていた紙袋を手にした。早くもその中身が明らかになる――っていっても、まぁ予想はついているんだけど。 「ね、歩実くん。せっかく公園に来たのに、一着だけで撮影をやめたらつまらないでしょ?」 「え、えっと、それは――はい……」 恥を忍んで――という感じでうなずく歩実。 「ふふ、素直でよろしい。じゃあ、そんな歩実くんにこのお洋服をプレゼントしてあげる」 そう言って、美弥子さんが紙袋の中から取り出したのは――やっぱり――先ほどお店で見せられた今夏の新作、ピンクのエプロンドレス風ブルマードレスだった。 「え、え……!?」 歩実のほうは予想外だったのか、目を丸くしている。それは服そのものに対してというだけではなく、 「ま、まさか――ここで、着替えを……!?」 いかに雑居ビルに囲まれた人けのない公園とはいえ、白昼の屋外である。まだまだ常識的なところが残っている歩実が難色を示すのは当然だったけれど、 「大丈夫よ、歩実」 あたしは安心させるように、彼の体をぎゅっと抱きしめる。 「歩実は赤ちゃんなんだから、お外でお着換えしてても何にもおかしいことはないんだから。ほら、ちっちゃい子がお外で裸になって水浴びしてても、誰も騒いだりしないでしょ?」 「そ、それは――いや、でも、ぼくは、高校生で……!」 「くすくすっ、それも大丈夫。まぁ、裸におむつカバーだけで駅前を歩き回ったら通報されちゃうかもしれないけど、ちょっと着替えるくらいなら通報されたり、まして逮捕されたりする心配なんてないわ。ねぇ、美弥子さん」 「ええ。このあたりのビルの人たちだって、いちいち通報するほどヒマじゃないし、ましてお巡りさんだっていちいち来るようなことじゃないもの。万一見つかったとしたって、ベビー服を着てるのは犯罪でも何でもないし、ね」 そう。 あたしが遠慮なしに彼をベビー服で連れまわしたのだって、それは別に犯罪でも何でもないからだ。肌を露出しているわけでも、見苦しいわけでもない。奇抜なファッションといえば、それまでなんだから。 「で、でも……」 しかし歩実はまだ抵抗があるらしく、太ももをこすり合わせながらもじもじしていたが―― 「くすっ、難しいことは考えなくていいのよ、歩実」 あたしはその耳元で、イヴをそそのかす蛇のように、誘惑の言葉をささやく。 「美弥子さんが持っている、あのピンクのエプロンブルマードレス――今ここで、着たいでしょ?」 「……………………、うん」 彼は真っ赤になってうつむきながら、それでもはっきりとした声で答え――あたしはにんまりと、笑うのだった。 (続く)