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「あたしの彼氏はベビーガール」(8)

  (8)  駅からちょっと歩いた裏通りに、女児服・女児ベビー服専門店「かぐや姫」がある。  と言っても、普通のお店ではなかった。それは中華風の丸い窓から覗く店内のディスプレイを見れば、一目瞭然だ。  今日のディスプレイは3着。それぞれベビー、トドラー、キッズ用のデザインだった。  ベビー服――淡い水色のパフスリーブチュニックと、同色のブルマーがセットになったベビースーツ。胸元から背中にかけては、フリルのついたスクエア襟がスタイのように広がっている。大きく広がったチュニックの裾には赤白黄色のチューリップが並んでいて、まるで幼稚園児が描いた絵のようなデザインだ。背中側の大きなリボンも、いいアクセントになっている。  トドラー服――たっぷりとレースがついた丸襟のブラウスに、深紅のカーディガンと、ピンクの二段ティアードスカートのセット。カーディガンの胸元には、ピンク、白、黄色、水色、ラベンダーといったパステルカラーの小さなリボンがたくさんついていて、実に女の子らしい。裾にそれぞれ小さな白いレースがついているティアードスカートも、上がギンガムチェック、下が無地の切り替えになっている。  キッズ服――こちらはぐっとシンプルな、モノトーンの細かなギンガムチェック柄ワンピース。ただし角が丸みを帯びた白い襟と、そこに結んだリボン、前立ての左右に並んだフリルに、パフスリーブの袖口についたレース、ウエストの前で結ぶ共布リボンなど、細かなところで少女らしい意匠が施されている。  どれも、まるで女児ベビーブランドの商品のようなデザイン。  しかしそれらの服は、すべて170センチサイズのマネキンに着せられている。  そう――この「かぐや姫」は、大人用の女児服・女児ベビー服専門店なのだった。 「さ、今日も可愛いお洋服、選びましょっか」 「う、うん……」  淡い黄色の丸襟ブラウスにピンクのイチゴ柄だるまロンパースという、店頭にディスプレイされている服にも負けない格好の歩実が、それでも恥ずかしそうに――けれどちょっぴり嬉しそうにうなずく。  ドアベルを鳴らして店内に入ると、 「いらっしゃいませ」  艶やかなレザーのような声とともに、一人の美女がさっそうと現れた。  年のころは20前半から後半くらいまで。外国の血でも入っているのかと思うくらい掘りの深い美女だ。日本人離れしているのは顔立ちだけではなく、170センチ以上でハイヒールを履いているため、180センチ近く見えた。  プロポーションも、ボンキュッボン、という擬音がぴったりで、なまじあたしもスタイルに自信があるだけに、ちょっぴり負けた気分になる。 ともかく、彼女がこの「かぐや姫」の店員、美弥子さんだった。何度かこの店に来ているので、あたしたちとも顔なじみだ。 「あら、恭子ちゃんに歩実ちゃん。よく来てくれたわね。ふふっ、今日はデート?」 「はい。ね、歩実?」 「う、うん……」 「相変わらず仲がいいわね。それに――彼氏くんがうちのお洋服でおめかししてくれててうれしいわ」  美弥子さんの視線が、歩実のロンパースに注がれる。  それは最初にこの店に来た時に購入したベビー服だった。すっかりベビー服での女装に目覚めた歩実にとって、この店はまさに天国のような場所だったらしく、しばらく悩んだ末に選んだのが、このイチゴ柄ロンパースだったのである。ちなみにブラウスは、正規の女児服ショップで購入したものだ。 「は、はい。ありがとうございます。ぼくもその、このロンパース、とっても気に入ってて……恭子とのデートだから、これを選んで……」  そういって、真っ赤になる。うんうん、まだまだ恥じらいを残してるところも最高に可愛いわよ、歩実ちゃん。  美弥子さんはにぃっと、唇の両端を吊り上げて、 「あらあら、ごちそうさま。それじゃあ今日も、彼女さんに喜んでもらえる可愛いベビー服を、存分に選んでちょうだいね」 「は、はい!」  歩実は恥ずかしがりながらもはっきりと答え、さっそく視線を店内にさまよわせる。  無理もない。今の歩実は、いわば甘いものが大好きな女の子が、ケーキバイキングに連れてこられたようなもの――目の前に大好物が並んでいる空間では、気もそぞろになろうというものだ。  美弥子さんは目を細めて笑い、 「ふふっ……そうそう、もう夏も終わりだけど、最後の夏物が入ったからどうかしら? ロゴは入ってないけど『アンジェリック・ベイビー』の新作ベビー服よ」 「わぁっ、是非見せてください! 歩実も、見たいでしょ?」 「う、うん」 「じゃあ、こっちにいらっしゃい」  あたしたちの答えに、美弥子さんは満足したように笑って店の奥へと案内する。  やや開けたスペースの、とりわけ目立つ場所に置かれたマネキンの着ていた服に、 「わっ……」 「う……」  あたしだけじゃなくて歩実まで、思わずひるんだ声を上げた。  それは、白い丸襟がついた淡いピンクのパフスリーブワンピースに、白いフリルエプロンを重ねた、いわゆるエプロンドレス――しかし、後ろ側のスカートは大きく開いて、その下にはくブルマーのお尻についたたっぷりのフリルがのぞくようになった、いわばエプロンドレス風のブルマードレスだったのだ。   (続く)


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