「あたしの彼氏はベビーガール」(3)
Added 2020-09-01 06:03:48 +0000 UTC(3) 一番大きいサイズは130。伸縮性を考えてもかなりぎりぎりだったけど、逆にぎりぎり着られないことはなさそうだった。 ちっちゃい女の子たちから注目を浴びつつ、彼の体に何着かあてがってみる。うん、やっぱり裾丈は圧倒的に足りていない。本来サイズの少女たちが来てもひざの半ばほどまでしか届かない衣装は、歩実が着たらチュニック程度の丈になってしまう。 けど―― 「やっぱり最初は、主人公の色がいいよね」 「う、うん」 着ない、という選択肢はない。 彼はもう真っ赤で、一刻も早くこの場から逃げ出したいというように足が震えている。まぁ、赤ちゃんみたいな恰好をした大きい「お姉ちゃん」が、プリキュアなりきり衣装を購入するのはあまりにも目立って、周りの親子連れからの視線がビシビシ突き刺さってるからとうぜんだけど。でも、嫌だとも、いらないとも、早く行こうとも言いださないのは、やっぱり着たいからなんだろう。 幼い印象の黄色とちょっと悩んだけど、結局買ったのは主人公の赤ピンク衣装だった。ふたりで混雑するレジに並び、購入する。周りのお客さんたちや、販売のお姉さんにも変な目で見られながら会計を済ませ、 「じゃ、いこっか」 「うん!」 いささかほっとした表情で、歩実は答えた。 観たばかりのプリキュア映画の感想と、歴代プリキュア衣装の中でどれが一番かわいいかを話しながら、次に向かったのは、ちょっと離れたところの雑居ビルにあるカラオケルーム。部屋が狭く、サービスもそれほど良くない代わりに、多少変なことをしてもうるさく言われない――そんな店だ。 とりあえずワンドリンク2時間で入れて、案内された一室で、あたしは彼にこう告げた。 「さ、いま着てるロンパースとブラウス、脱がせてあげるね」 といっても、ホテルまで待てないほどサカリがついていたわけではない。いや、あの格好で映画館に入り、女児向けのコスプレ衣装を見る彼の姿に興奮して、下着が濡れているのは確かだけれど、今すぐしたいってわけではないのだ。そうではなく―― 「そしたら買ったばかりの衣装、着せてあげるからね」 「うん」 彼のほうも、ふたりきりとあって素直なものだ。喜びを隠そうともせず、真っ赤な顔ではにかみながら肯く。 まずは彼を立たせておいて、ロンパースのスナップボタンをはずす。めくりあげると、ピンクのギンガムチェックに、レースに縁どられたハートがプリントされたそれがあらわになって、 「くすっ、今日はとびきり可愛いのを選んできたんだ」 「う、うん。デート、だし……」 まるで勝負服や勝負下着を褒められた女の子みたいにかわいいことをいう彼に、あたしはくすっと笑った。 もちろんそれは普通の下着じゃない。中に入れたもので前も後ろもパンパンに膨らみ、左右に一列ずつスナップボタンが並ぶそれは、布おむつを固定して、おしっこが漏れるのを防ぐためのおむつカバーだ。 「うんうん、うれしいなぁ」 言って、ポンポンとおむつの前をたたく。たっぷりとあてたおむつのおかげで、まるでお布団のような反発だ。しかしその中に、まるで芯を入れたように固いものが入っているのも感じ取れて、 「くすくすっ、お外を歩いただけで興奮しちゃうなんて、歩実ってば、えっちなんだから」 「だ、だって、こんなっ……ベビー服で、あんなたくさん人がいるところを歩くのも、久しぶりだし……おまけに、女の子たちと一緒にプリキュアの映画を見て、衣装まで、買って……!」 歩実は真っ赤な顔で言う。 まるで言い訳しているように聞こえるけど、そうじゃないことはあたしにはわかっていた。自分自身のしたことを改めて口に出すことで、さらに自分自身を辱め、興奮を高めているのだ。 もう、歩実ったら、ひょっとしたらあたし以上の変態なんじゃないかしら。 「プリキュア衣装を見て、買って、そんなに興奮しちゃったんだ?」 まるで母親が赤ちゃんにそうするように、あたしは歩実のロンパースとブラウスを脱がせながら、 「う、うん」 「ならそれだけで、買った甲斐はあったようなものだけど――」 ついに彼が、おむつカバー1枚になる。頭のボンネットはつけたままなのがいっそう赤ちゃんらしい。おそらくは彼のバッグの中に入っているであろう、おそろいのよだれかけもつけてあげれば完璧だ。 けど、今は―― 「せっかくだし、プリキュアなりきりコスチュームすぐに着てみたいよね?」 そういって、シネマのロゴが入った袋から、先ほど買ったばかりのピンクのコスチュームを取り出した。 「――うん」 歩実は恥ずかしそうに、それでもなりきり衣装を見て、しっかりとうなずいた。 色はピンクと赤を基調に、白いフリルや黄色いリボンがあしらわれた、いかにも女児向けといったデザイン。 開いた胸元の中心に飾られた、大きなリボンと、宝石のハート飾り。 大きく膨らんだパフスリーブの袖口に重なる、ピンクと白のフリル。 きゅっと細くなったウエストに、ピンクのベルトと、左腰にハート形のポーチ。 スカートは白のティアードスカートの上から、三角形の布が5枚垂れている。上から見れば、ちょうど桜の花のように。 ほかにもチョーカーや手袋、ソックスのついたそれを袋から取り出して―― 「さ、歩実。今度は歩実がプリキュアに変身する番よ」 (続く)