「あたしの彼氏はベビーガール」(2)
Added 2020-08-31 08:45:47 +0000 UTC(2) 高校生のデートらしく、あたしたちが最初に向かったのは映画館だ。 たっぷりと当てたおむつと、10センチものハイヒールのせいで歩きにくそうな彼のペースに合わせて、ゆっくり駅近くのシネマへとたどり着く。 もちろんここでも注目の的で、ロビーにいる他のお客さんたちからの視線が突き刺さるのを感じる。歩実にだけじゃなくて、並んで歩いているあたしにも、だ。 (ねぇ、あの子――) (赤ちゃんみたいだけど、どう見ても大人よね?) (だよねー。何かのプレイ?) (お尻が真ん丸だけど、やっぱりおむつも当ててるのかな) (あんなにいっぱいおむつを当てて、歩きにくそう) (隣の女子高生がママ役かしら) (くすくすっ、おっぱい飲んだりするのかな) (ねーねーママー、あのお姉ちゃん、おっきいのに赤ちゃんみたーい) (しっ、指さしちゃいけません) 囁きに交じって子供の声が多く聞こえるのは、ちょうど女児向けのアニメ映画が上映されているからだった。 あたしたちの目当てもそれで、 「プリ〇ュア映画のチケットを二枚、お願いします」 「か、かしこまりました」 大学生くらいの女性スタッフさんも困り顔だ。変な格好ではあるけれど、具体的にお断りするほどではないし――といったところ。一方で、女児ベビー服を着て女児向け映画を見るという羞恥プレイを間近で見る目が、抑えきれない好奇に爛々と輝いていて、 「娘さんですか?」 我慢しきれなくなったのか、そう尋ねてくる。 あたしは笑って、 「あら、娘だなんて、ふふっ。よかったわね、歩実ちゃん。かわいい女の子だって思ってもらえたみたいよ」 「う……」 「ち、違うんですか?」 目をみはるスタッフさんに、 「ふふっ、実はあたしの彼氏なんです。ね?」 「は、はい、そうなんです……」 小さい声で、それでもはっきり答える歩実。やや高いとはいえ男子の声を聴いて、スタッフさんの目が落ちるんじゃないかってくらい丸くなり、 「はぁ……それは――で、ではごゆっくり、お楽しみください」 「ええ、そうさせてもらうわ。ね、歩実?」 「う、うん! プリキュアの映画、楽しみ!」 私たちが立ち去るのを、スタッフさんはややひきつった笑顔で見送った。 「楽しかったね、プリキュア」 「うん!」 たくさんの親子連れたちと一緒にプリキュアを観終わった後(隣で歩実が楽しそうにしているのにちょっと興奮していた)も、あたしたちはすぐにシネマを出ず、 「歩実ちゃん、ちっちは大丈夫? おもらししてない?」 「う、うん。まだ、大丈夫……」 もじもじしながらも答える歩実。なるほど、「まだ」、大丈夫みたいね。 「よかった。じゃあ、グッズを見に行きましょっか」 そういって、物販コーナーへと向かった。 プリキュアが放映中されているため、もちろんその関連商品が多い。絵葉書やポスターなどの定番グッズのほか、ステッキやコンパクトなどのおもちゃも。とうぜん、小さな女の子を連れた親子連れが目に付く。 もっともその中で、あたしたちが一番目立っていたのは間違いないだろうけど。 「さ、せっかく来たんだし、何か買っていきましょ」 「う……アクセサリーとか……?」 「ふふっ、それもいいけど――あれなんて、どう?」 あたしが指さしたものを見て、歩実はあっと叫んで立ちすくんだ。 パステルカラーの咲き誇るプリキュアグッズコーナーで、片隅にありながらひときわ目を引く数着の服――プリキュアなりきり変身スーツだ。 元気系主人公キャラのピンク/赤。 クール系幼馴染キャラの水色/青。 おっとり系先輩キャラのラベンダー。 小動物系後輩キャラの黄色。 目にも鮮やかな変身スーツの数々に、幼稚園くらいの女の子たちが群がって、母親に買ってくれとせがんでいるのが見える。 とはいえ、間違っても高校生――それも男子が着るものではなく、 「あ、あれっ!? い、いくらなんでも、恥ずかしすぎるんだけど……!?」 さしもの歩実も声を裏がえす。うーん、黄色のブラウスにピンクのイチゴ柄サロペットっていう今の格好だって、負けず劣らず恥ずかしいと思うんだけど。 「けどほら、いくらなんでも、ぼくに着られるわけが――」 「ああいうのって、意外と伸縮性があるから大丈夫よ。まぁ、かなりぴちぴちになるだろうし、スカートの丈もほとんどチュニックみたいなことになるだろうけど」 あたしは笑って、彼の耳元でそっとささやく。 「でも、そういうのがイイんでしょ?」 「!?」 とたんに、彼はその耳たぶまで真っ赤になる。んふ、思わず甘噛みしたくなっちゃうくらい。 「ふふっ、じゃあ、身にいこっか」 「う……うん……」 なんだかんだ言って、歩実が可愛い女児服を間近で見る機会を断れるはずがない――たとえ、どれほど恥ずかしい思いをしようとも。あたしたちは、幼稚園児たちの手を引く親子連れの間を縫って、変身スーツ売り場へと近づいていくのだった。 (続く)