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連載小説「やりなおし」(43)

 1-3.欺罔   (14)  一方で、 (恭子のやつ、いったい、何を考えてるんだ――)  中学時代を通した3年間、ほとんどずっと一緒にいて、クラスメイトの中では一番分かり合っていたはずの相手。  なのに、今の歩実には、彼女の考えがまるで判らなかった。  なぜ恭子が、自分が男だとバラさないのか。  なぜ恭子が、自分が参加すると知った上で、合宿の手伝いを続けているのか。  なぜ恭子が――女子小学生の振りをしている自分を見て、あんな笑みを浮かべたのか。 (告白の最中におもらししたぼくに、怒っているものだと思ってたのに――恭子、いったい何を考えてるんだ……) (こうなったら、合宿でも、なるべく顔を合わせたり、着替えやおむつ交換も見られないようにして過ごすか――いや、それでもぜんぜん合わないようにするわけにもいかないんだし……) (いっそ、参加を中止するしか……!) 「あ、あの、あたし!」  写真撮影が終わり、恭子からデジカメを返してもらっている千絵の横で、歩実はレイカに向かって声を張った。 「ごめんなさい! やっぱり、この合宿には――」 「歩実ちゃん」  ふいに恭子が歩実を見つめ、遮るように言った。鋭い眼光に射竦められたように動けない歩実のすぐ横に立つと、彼の耳元に、こうささやきかけた。 「――もう、逃げないで」 「!?」  他の人には聞こえないほどの、微かな声。  しかし歩実にとっては、雷鳴に撃たれたようなものだった。真っ青な顔で、そのままよろめくように、テーブルに両手をつく。  対照的に、恭子は何事もなかったかのように席に戻り、じっと観察するように歩実を見つめていた。 「……ふむ。よく判らないが、参加を中止したいというのなら、こちらに止める権利はない」  レイカは首を傾げながらも、事務的な口調で告げる。 「とはいえ他の子たちのこともあるし、よければ最後まで、説明を聞いてはどうかな。それでも参加しないというのであれば、しかたないけどね」 「は、はい……」  激しく心を揺さぶられ、歩実はそう返事するのが精いっぱいだった。   *  けっきょく合宿の説明の後、歩実は逃げるようにして家に帰りついた。  母親に「疲れたからちょっと休ませて、後で説明するから」と言って部屋に入り、着替えることも忘れてベッドに入る。ワンピースの裾が乱れてしわになるのも、かまっている余裕はなかった。 「はーっ、はーっ……」 「――もう、逃げないで」  恭子の一言が、いつまでも耳に残っている。 (ああは言われたけど――やっぱり、恭子と合宿に参加する勇気が……)  深呼吸を繰り返すうち、少しずつ落ち着いてくる。 「ふーっ……とりあえず、今日のことを振り返って、考え直してみよう……そうすれば、恭子の考えてることが少しは判るかも……」  女児スーツで出かけ、バス停で中学時代の同級生たちにバレそうになり。  恭子の妹――佑奈と、それとは知らずに挨拶を交わし、紙おむつを見られ。  妙に大人びた少女――千絵に、おむつのふくらみからおもらしを疑われ。  窮余の一策として、自分でわざと、おむつにおもらしをして。 (あの感覚――)  歩実は思い出して、ぶるっと身震いする。  トラウマに直結する、おもらしの感触。なのに小水が漏出して竿を走り抜けるくすぐったさと、じわじわと股間に広がってゆく温度は、奇妙な興奮をもたらしていた。 (って、ちょっ、ダメ……!)  あの時のひそやかな快感と、その後の強烈な射精を思い出して、おむつの中でむくむくと頭をもたげる昂りに、歩実は目を開けた。外界に意識を向け、気を紛らそうとしたのだ。  しかし―― 「うっ……」  部屋の明かりはつけていないが、暗がりに目が慣れてきたのと、カーテンから薄く漏れる日差しのせいで、ぼんやりと室内の様子が見える。  もともと、少年の部屋としては清潔で簡素だった、歩実の部屋。  しかしいまは、そこに少女らしい色どりと華やかさが加わった、ミスマッチな光景が出来上がっていた。  壁の男子制服の隣にかかった、小学校の女子制服。  勉強机の横にある、スクールバッグと、赤いランドセル。  本棚には少年漫画の単行本や文庫本の横に、少女漫画がずらりと並ぶ。  さらに女児服や女児下着が整理されたクローゼットに、少年の部屋ではありえないドレッサー、壁にもかかる女児服の数々。  そこはまるで、女児女装にハマった男子高校生の部屋そのもので、 (これが、今のぼくの部屋なんだ……)  考えると、改めて昂奮が湧き上がってくる。脚のに絡みつくひざ丈スカートの感触も、いまの自分の格好――まるで幼稚園の女児用夏制服のようなピンクのセーラーワンピースを思い出させた。 とどめに部屋の隅に置かれた、女児用おむつのパッケージを見てしまい、 「あ、あ……!」  もう、無理だった。  慌てて仰向けになってスカートをめくり、おむつをずり下ろしたその股間に――湯気が立ちそうなほどに熱を帯びた雄が、屹立していた。   (続く)


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