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連載小説「やりなおし」(41)

 1-3.欺罔   (12)  恭子。  なぜ、姓が変わっているのかは不明だが、いまの歩実にはどうでもいいことだった。  彼女こそ、歩実の中学時代の同級生であり、友達以上の好意を抱いていた相手であり――この合宿を決意するきっかけになったトラウマの相手であることに、何の変わりもないのだから。 (なんで、恭子が、ここに――)  歩実が相変わらず固まったままでいると、再び手前の部屋のドアが開いて、 「あっ、お姉ちゃん! それに――わぁ、歩実ちゃん、お着換えしたんだ! ワンピース、可愛い~!」  歩実を見て歓声を上げる佑奈に、苦言を呈したのは恭子だった。 「こーら、佑奈。部屋で大人しくしてないとダメでしょ?」 「だってー、お姉ちゃんの声が聞こえたんだもん」 (ああ、やっぱり佑奈ちゃん、恭子の妹だったんだ……)  姉妹の様子に、歩実は現実逃避気味にぼんやりとした頭で考える。  ややカオスになった状況に、レイカがパンパンと手を打ち鳴らし、 「はい、はい、二人ともそこまで。とにかく部屋に戻ってから、恭子くんも交えて、改めて自己紹介しよう。歩実ちゃんも、ぼーっとしてないでこっちに来て」  かくして―― 「初めまして。佑奈の姉の、広瀬恭子です。恭子、って呼んでちょうだい」  上座側にレイカと並んで座った恭子が、何事もないかのように言う。 「佑奈が合宿に申し込む付き添いで来たときに、レイカさんに声を掛けられて、手伝いをすることになったの。短いあいだだけどよろしくね、歩実ちゃん、千絵ちゃん」 「えっ、あ――」  いまだショックから回復できず、困惑にどもる歩実。  隣の千絵はそんな彼をちらりと見て、 「初めまして。私は3年生の、五十嵐千絵。千絵って呼んでちょうだい。こちらこそよろしくね、恭子お姉さん」  先に自己紹介してから、肘で歩実の脇腹をつついた。  ビクッ、と背筋が伸びると同時、歩実はようやく多少の冷静さを取り戻す。 「は、初めまして、ろ、6年生の、か、川島、歩実です――よろしく、恭子――お、お姉、さん……」  つっかえつっかえ言った後、顔を伏せるように頭を下げた。  果たして恭子は、いったいどんな表情で自分を見ているのか――今の歩実には知るすべもなく、また確認する勇気もない。 「歩実ちゃん、どうしたの? なんかさっきから、様子が変だけど……」  あからさまに態度のおかしい歩実に、さすがの佑奈も不審に思ったらしく、彼の顔を覗き込む。  レイカも眉をひそめて、 「どういうことかな。恭子くん、君に心当たりは?」 「いえ、ぜんぜん。歩実ちゃんとは、初対面ですし」 (嘘だ……恭子が、ぼくに気付いていないわけがない……)  いくら女児服を着ているとはいえ、相手は恭子――まして先日、ちらりと見られただけで見破られたのだ。名前も、性別もバレている状況で、自分が判らないわけがない。 「まぁ、そんなことよりもだ。恭子くん」  レイカが目配せすると、恭子はテーブルの上に2枚の紙おむつ――白地に花柄がプリントされただけのシンプルなものを取り出して、テーブルの上に置いた。 「先ほど話の途中になってしまったが、合宿中は全員に紙おむつをつけてもらう。というわけで、歩実ちゃん以外の二人にも、試しにつけてもらおうと思ってね」 「えっ、ゆ、佑奈も!? ちょっと、赤ちゃんみたいで恥ずかしいかも……」 「……まぁ、治療のためなら、仕方ないわね……」  口々に言いながらも、おむつを受け取り、立ち上がる二人。  そんな少女たちの反応に、すでにおむつをつけている歩実は赤くなってうつむく。すでにおむつを穿いている――どころか、女児服を揃えている途中にも恥ずかしくてお漏らしをし、今回などは少女たちの目の前でも粗相しまっているのだから。  しかし同時に、もう一つ問題がある。 (まさか、ここで着替えを――)  同世代の少女たちばかりと思ってのことなのだろうが、佑奈も千絵も、思った以上にあっさりとボトムス――佑奈はスキニーパンツ、千絵はスカパン――を脱ぎ、それぞれ机の上に置いた。 (たしかに、体育やプールの時は脱ぐんだし、何より小学校も中学年以下なんだから、気にしないんだろうけど――) (うう、二人とも、ごめん……!)  合宿といっても、着替えや入浴はそれぞれ別――自分のが見られることもない限り、少女たちのを見ることもないだろうと思っていた歩実は、まさかの展開に罪悪感で一杯になる。今すぐ自白して土下座したい気分だったが、そんな勇気も出ない。  左右の視界の端で、チラチラと動く女児たちの着替え。  女児服や女児下着に、それも自分が着用して女児のようにふるまうことに昂奮する、変態と罵られては一言もない歩実ではあったが、さすがに女児の裸には興味ない。とはいえ、視線の動きによっては正面にいる恭子にあらぬ誤解を受けそうで、机の上に組んだ指をじっと見つめてやりすごす。  そんな彼を挑発するがごとく、テーブルの上の脱いだボトムズの上に、少女たちの下着までもが載せられた。  佑奈は純白のインゴムショーツ。  千絵は黒にピンクのドット柄と、縁取りがついたボクサーショーツ。  心なしか、それぞれから汗の匂いと体臭が漂ってくるような錯覚に襲われる。 (下着を脱いでるってことは、つまり――)  広がりそうになる想像をぐっとせき止め、無念無想の境地で目を閉じる歩実。  しかし耳はふさぐことができず、 「あはっ、もこもこ~!」 「へぇ、意外と悪くないわね、これ」 「歩実ちゃん、ほらほら、見て! 佑奈たちも歩実ちゃんとおそろい!」  穿き終えたらしい佑奈の無邪気な呼びかけに、振り返らないわけにもいかない。 「う……うん、2人とも、ぴったりだね」  それぞれ楊柳チュニックと小悪魔タンクトップの下に、白い花柄おむつを穿いた女子小学生たちの姿に、歩実は精いっぱいの無難なコメントを返す。  ただでさえ女児服に昂奮しているのに、女の子のおむつ姿にまで欲情したら、本当にいろいろ終わりである。とにかく今はただ、2人にボトムスを穿きなおしてほしい一心だったが、 「ほら、歩実ちゃんも一緒に、おむつを見せてちょうだい!」  まだまだ、災難は終わりそうになかった。   (続く)


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