連載小説「やりなおし」(39)
Added 2020-08-18 07:47:52 +0000 UTC1-3.欺罔 (10) 「う、うわぁ……」 女児スーツを着て、おむつを当て、バスト電車を乗り継いでたくさんの人に見られながらここまでやってきて、リアル女子小学生たちの前で女児として振舞って――さらにはおもらしまでしてしまったのに、言い訳しようがないほど昂奮している。低学年向けのようなピンクのふりふりミニスカスーツと、ハートやお姫様プリントで彩られた女児用紙おむつの下で、これほど浅ましい欲望を漲らせていたのか。 歩実は自分自身にドン引きしながらも、まずは太腿の間に挟まったままのおむつをそっと引き抜き、ビニール袋に小水に濡れて湿った下半身を、タオルハンカチで拭いてゆく。 しかしもちろん、拭いている間に収まってくれるような生易しい勃起ではない。射精するまでは断固として委縮しないぞという、居直り強盗のようなふてぶてしさを見せていて、 (うう、けっきょくこのままじゃ、おむつを当て直したところで意味がなくなっちゃう……) (こうなったら、射精するしかなさそう、だけど……) 方針を固める歩実だったが、普通に考えればとてもオナニーできる状況ではない。 すぐ隣の衝立の向こうからは、レイカともう一人――声は聞こえないが、誰かと打ち合わせしている気配。 扉の向こうからは、佑奈と千絵が談笑する気配。 鍵もかかっていない。それどころか、板一枚へだてたすぐ向こうに人がいる。誰かが気まぐれで入って来たら、逃げることも言い訳することもできずに見られてしまう。 (でも――やるしか、ない……!) 鮎には普通のハンカチを、ちょうど中心が亀頭に当たるように竿全体にかぶせた。 すでに昂奮しきっているので、その気になればすぐに射精へと至れる。これほどの怒張であれば快楽を絞りつくしたくもあったが、いまは楽しんでいる余裕もない。拙速は巧遅に如かず、だ。 太い木の枝のように固く節くれだった怒張を握り、ハンカチごとゆっくりスライドさせてゆく。ほんの二、三往復で限界を迎えた欲望を、そのまま構わずこすり続けると、強烈な官能が竿から全身を駆け抜けた。 「……っ!」 左手で口元を押さえ、声が出そうになるのを必死にこらえる。 ビクッ、ビクッと脈打つたび、ハンカチの中に大量の精液が吐き出され、立ち眩みのように視界にノイズが走る。しかし射精してもなお硬さを保ったままのペニスに、 (これは、二回目も出さないと、ダメか……!) そのまま手を動かし続ける。数日の女児服生活で、単に女児服を着ているだけなら勃起するペースは緩やかになっていた歩実だったが、今日のように長時間の昂奮を保ち続けていると話は別だ。再びの射精でハンカチの内側をじっとりと重たくして、ようやく委縮し始める。 「はぁっ……」 余韻で全身に鳥肌が立ち、立っているのも億劫なほどのけだるさに包まれるが、 「歩実ちゃん、遅いねー」 「まぁ、後始末は大変だものね。特に一人だと、時間がかかるんでしょ」 ドアの向こうから、佑奈と千絵の声が聞こえてきて、 (のんびりしてはいられないな。早く着替えを済ませて、戻らないと) 精液まみれのハンカチも別のビニール袋にしまい、消毒用のウェットティッシュで手を拭いて、改めて新しい紙おむつを穿き始める。 しかしこの時、扉の向こうの会話は思わぬ方向に流れていた。 「……じゃあ、佑奈たちも手伝ってあげたほうがいいかな? 歩実ちゃん、困ってたりしないかな?」 「どうかしら。単に時間がかかってるだけじゃないの?」 「でも佑奈、出来ることがあるならお手伝いしたいな。佑奈はいつも、お、おもらししたとき、お姉ちゃんにお世話してもらってるから……」 「うーん……やめておいたほうが、いいと思うけど……」 (ゆ、佑奈ちゃん!? まずい、早くしないと……!) 歩実は大急ぎで、器用に片足ずつ靴を脱ぎつつ、まずはおむつをひざ下まで通す。後は引き上げるだけ――というタイミングで、 「あ、あの、歩実ちゃん」 ドアの向こうから、はっきりとこちらに向けられた佑奈の声がして、歩実はビクッと背筋を伸ばす。 「も、もしよかったら、佑奈も、何かお手伝いしようか……?」 「だ、大丈夫だから、ほんとに!」 歩実は声を張り上げ、慌てておむつを引き上げる。 しかしその時にはもう―― 「えっ……?」 ドアが開いて、ひょっこりと覗いた佑奈の表情が、石化したように固まる。 (ま、まずい、見られ――) わずかに遅れておむつを穿き、下半身を隠す歩実。しかし、一瞬のこととはいえ股間に生えているものを見られては、どう言いつくろうこともできない。万事休したと思考停止に陥っていると、 「あ、あれ? いま――ううん、気のせい、だよね……?」 佑奈自身も、たったいま目にしたものを信じられないらしく戸惑った様子を見せていて、歩実はそこに活路を見出した。もはや強気の一手しかない。 「どうしたの、佑奈ちゃん? 何かおかしかった?」 「う、ううん、何でもない!」 佑奈はぶんぶんと首を振って、 「それより、佑奈が何かお手伝いできること、ないかな?」 「ありがとう。でも、大丈夫だよ。あとはスカートを穿くだけだから」 「そっか、ごめんね。じゃあ、お部屋で待ってるね」 そう言って、再びドアが閉められた。 (続く)