連載小説「やりなおし」(38)
Added 2020-08-16 10:42:12 +0000 UTC1-3.欺罔 (9) 「わぁっ、おむつの色が変わってる! すっごーい!」 佑奈は嬉しそうにはしゃぎ、前かがみになっておむつを覗き込む。 「やっぱり歩実ちゃん、おもらししてたのね。恥ずかしがらないで早く言わないと、かゆくなっちゃうわよ?」 「おやおや」 レイカは何かを察したように笑って、 「歩実ちゃんはさっそくおもらししてしまったのか。正直に言わないとダメだろう?」 「ご、ごめんなさい」 歩実は素直に謝って、 「あの、ちょっと別室でおもらし交換させてもらってもいいですか?」 「構わないとも。奥の部屋を使うといい。案内するから、二人はちょっと待っていてくれるかな?」 「はーい」 「もちろん。あたしたちのことは気にしないで、ゆっくり替えてきてね」 元気よく返事をする佑奈と、妙に大人びたことを言う千絵。 二人に送り出されるようにして、歩実はオフィスの奥へと案内された。先ほどいた部屋の倍ほども広さがあり、背の高い間仕切りで7対3くらいに区切られていた。 歩実が通されたのは、手前側の3割を占めるほうのスペースだった。どうやら倉庫として使用されているようで、部屋の中央に折り畳み式の長机とパイプ椅子が2台ある以外は、壁際にはぎっしりと詰まった書類棚、床には段ボールが置いてある。 「さ、ここなら大丈夫だろう。それにしても――」 レイカはにやりと、形のいい唇の片端を吊り上げて、 「なかなかの策士じゃないか。まさか勃起をごまかすために、おもらしをするなんてね」 「うっ……」 見透かされていたことを知り、歩実は単にお漏らしをしてしまったのとは違う恥ずかしさに、顔を赤くする。 一向に収まらない勃起。あのままでは、いつ佑奈がおむつのふくらみを指摘して、見せるように言いだすか判ったものではなかった。そこで「前が膨らんでいるのにおもらししていない」となれば、男だったことが露見しかねない。 だから窮余の一策として、歩実は自らの意志で、おむつの中におもらししたのである。 (やらかすときはあっという間におもらししちゃうのに、意識してしようとすると、なかなか難しかった……) レイカの説明を聞きながら、歩実は下腹部に圧力をかけつつ、トイレで座って用を足してるイメージで、尿をせき止めているリミッターを緩めていった。見様見真似で、おまけに勃起しているためなかなか「おもらし」するのは難しかったが、それでも何度かの挑戦の末―― じわっ、 「うっ……」 あの時の感覚を思い出して、歩実は背筋が寒くなる。 おもらし特有の、下半身を爆心地として熱がじわじわと広がっていくあの温度。しかも、ふいにしてしまった時とは違い、自発的な意思でしているために意識が完全に股間に向いている状態である。 だから、分かってしまう。 尿をせき止めている筋肉が、ゆっくり緩んでゆく感覚。 液体が尿道をゆっくり――次第に勢いを増して流れてゆく感覚。 先端からじわじわと漏れ出した熱が、吸水パッドにしみこんで膨らみ、広がってゆく感覚。 それらの一つ一つが今までにないほど明確に感じ取れて、意識と記憶に刻み付けられてしまう。 何より、一番の問題は―― (ち、違う、あれは、違うから……!) いまだとまらぬ股間の疼き、おもらしのあともなお已まぬ勃起を押さえながら、歩実は必死で自分に言い聞かせる。 (違う――断じて、あれが気持ちよかったなんてことは、ないんだから……!) 尿道をくすぐられ、股間が熱くなり、圧倒的な解放感とともに、体温が下がる。 それはまるで、長い長い射精にも似て―― 「くっくっくっ、まぁなかなかの機転だ。私は向こうで打ち合わせをしているから、その間におむつ交換でも、それ以外のことでも、好きにするといい」 歩実の内心を見透かしたように小さく笑って、衝立の向こうに消えてしまった。 (打合せ……? ってことは、向こうに誰かいるの?) (とにかく、見つかりませんように……) 歩実は祈りながら、まずは机の上に置いたリュックを開け、タオルハンカチと替えのおむつを取り出す。さっそくおむつを脱ごうとするが、 「えっと、このままだとスカートが汚れちゃうかもしれないから――」 いくら短いとはいえ、ずり落ちたら濡れてしまう。恥ずかしくはあったが、ピンクのジャンパースカートを脱いで、ブラウス一枚になる。これなら顎の下に挟めば、ずり落ちる心配はほぼゼロだ。 とはいえこんな出先で、女児用ブラウスをキャミソールごとたくし上げて紙おむつを露出させ、お腹はおろかわき腹まで露わにしている自分の姿は、あまりにも非現実的で―― (うう、本当にこんなところに誰か入ってきたら、どうしよう……) 手早く済ませてしまおうと、歩実はおむつの両脇を破きはじめる。そして最後まで破き切らないうちに、内側からの圧力に負けるようにして勢いよく破けて前側が垂れ下がり―― 「うわっ……!」 むっ、とアンモニア臭が立ち上ると同時、すでに包皮すら剥けた逞しい雄が、仰角を睨んで屹立したのである。 (続く)