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連載小説「やりなおし」(33)

 1-3.欺罔   (4) (本当にこの格好で、外へ――?)  心臓が痛いほどに高鳴る。しかもこの時、歩実は重大なことに気付く。 (スカートの丈、勃起してないときでもぎりぎりおむつが隠れるくらいしかないってことは、これ、勃起したら外に出ちゃうんじゃ……?) (さすがにまずいって! 中にレーススカパンを穿くわけにもいかないし、やっぱりやめたほうが――)  急いで脱ごうとする歩実。  しかしそこへ、またも母親が入ってきて、 「着替え終わった? あら、いいじゃない。ふりふりだし、ちゃんとしてるし、ぴったりね」 「ぴ、ぴったりじゃないよ! スカートが短すぎて、おむつが――」 「見えても大丈夫でしょ。それにもう、着替えてる時間なんてないわよ」 「え……?」  言われて時計を見れば、もうすぐ出発の時間だ。進退窮まる歩実に、 「うーん、その格好だと、リュックよりもランドセルのほうがいいわね。ほら、詰め替えてあげるから、歩実ちゃんは鏡で最後のチェックしてなさい」 「うう、はーい……」  流されるままに、歩実はドレッサーの鏡を覗き込んだ。やや化粧は濃いままだが、逆にふりふりのスーツならこのくらいでも充分ありだろう。  問題は、座っているだけでも前後からおむつが見えてしまうことで―― (これはもう、おむつが取れませんって言ってごまかすしかなさそう……) (せめて、勃起はしませんように……)  歩実は祈るような気持ちで鏡を見つめるのだった。   * 「い、行ってきまーす」  けっきょくジャケットなしの女児用スーツに赤いランドセルという格好で、歩実は自宅を出た。  平日昼間の住宅街とあって人通りは少ないが、それでもまったくのゼロではない。まして夏休みで遊びに出る子供も多く、彼らに見られる恥ずかしさに、ランドセルの肩ベルトを握る手に力がこもる。 (スカートが短すぎて、穿いている気がしない……まるで、下はおむつ一枚で歩いてるみたい……!)  ともすれば荒い息をつきそうになるのを懸命にこらえつつ、バス停にたどり着く。あと3分もすれば、駅に向かうバスが来ることになっていたが――ちょうど最後尾に並んでいる女子高生たちの姿に、歩実はさっと青ざめた。 (田中さんと、坂口さん……!?)  どちらも小中学時代の同級生。仲がいいというほどではないが、道ですれ違えば挨拶もするし、いまのようにバス停で会えば会話を交わすこともある。 (ど、どうかバレませんように……)  歩実は祈るような気持ちで、さりげなく二人の後ろに並び、すぐに車道のほうを向く。  しかし―― 「あれ? 川島くん……?」 「え? どこどこ?」 「いやほら、後ろに並んでるの……」 「え……? いや、ちょっと似てるけど、どう見ても女の子じゃん……」 「それはそうなんだけど、でも似すぎてるって言うか……ほら、前に恭子が川島くんに女装させたときあったじゃん? あれを思い出してさー」 「あー、確かにそう言われると……あの時の川島くん、可愛かったよねー。恭子ってば、ブラジャーまでつけさせててさー」 (恭子のやつ……)  女子二人の会話にだらだらと冷や汗を流しつつ、女装させた張本人を恨んでいると、 「ねぇ、キミ」  ふいに片方から話しかけられて、歩実はギクッとしながら振り返り、 「は、はい! なんでしょうか?」  じっと顔を覗き込んでくる元クラスメイトに視線を逸らしたくなるのを必死でこらえながら、精いっぱいの高い声で答える。 「キミ、ひょっとして、川島くんの妹さん?」 「ち、ちがいます! 人違いです!」  思い切り首を振って否定する歩実。嘘はついていないので、罪悪感も小さなものだ。  女子二人は顔を見合わせ、 「ほら、だって」 「ごめんね、知り合いに似てたから、てっきり妹さんかと思ったの」 「い、いえ……」  歩実はほっとして、改めて彼女たちから目をそらす。これでなんとか誤魔化しきれ―― 「――まさか、川島くん本人?」  女子の声に、背筋が凍る。  しかしすぐに爆笑が響いて、 「あははっ、まっさかー」 「そ、そうだよね。さすがに川島くんが、女子小学生の格好してるわけないもんねー」 「そーそー。女装させられてた時もいやそうだったし」 「でも――川島くんに、あんな可愛い女児服着せてみたくない? きっとすっごい恥ずかしがって、可愛いと思うんだー」 「えー、あんたってそういう趣味だったの?」 「ち、ちがうってばー」  女子二人はしばらくはしゃいでいたが、そこへようやくバスがやってきて、その話題は打ち切られた。 (うう、なんでみんな、ぼくに女装させたがるんだ……)  歩実は内心ぼやきながら、スカートに気を付けつつバスに乗り込むのだった。  ――バスの座席はすでに埋まっていたため、前のほうの吊革につかまって立つことになり、他の乗客たちからじろじろ見られて恥ずかしい思いをすることになったのは、また別のお話である。   (続く)


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