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連載小説「やりなおし」(31)

 1-3.欺罔   (2) (あの後のオナニー、すっごく気持ちよかったなぁ……じゃなくて!)  歩実は回想から現実に戻り、改めて着替えを再開する。  ちなみにその時に来た制服は、壁に吊るされている。ランドセルも学習机の横に、高校のスクールバッグと並んで置かれていた。そこだけ見ると、まるで女子小学生の部屋のようだ。  まずはネグリジェを脱ぐ。現れたのは、女児用紙おむつ一枚の半裸。その前側には、芯棒でも入れたかのようなふくらみが出来上がっていた。  すぐにしごきあげたいのをぐっとこらえて、 「っ……ま、まずは、下着を着なくちゃねっ」  歩実はクローゼットの引き出しから、純白の女児用キャミソールを取り出して着る。続いてクローゼットの扉を開け、 「えーっと、ブラウスとスカートにしようかな、それとも、ワンピースがいいかな。まだまだ、着てない服はたくさんあるし――」  一人芝居のように女児の振りを続けつつ、いくつかの服を取り出しては、扉の内側の鏡に映しながら、身体に合わせてみる。  襟だけが白の、水色のシャツワンピース。  丸襟ブラウスにピンクのスカート、赤いカーディガン。  避暑地の少女が着るような、純白のキャミドレス。  そして何着目かの服を体に合わせたとき、歩実の目がすっと釘付けになった。  丸襟のフリルブラウスに襟付きのベスト、ネクタイとサーキュラースカート、大きなリボンのついたカチューシャに、手首につけるカフスの6点セット。色柄は赤と黒を中心としたタータンチェックで、ところどころに白のレースがあしらわれている。一昔前のアイドル風女児服は、母親がネットで見つけてきたものだ。 「う……うん、今日は特に女の子になりきらなきゃいけない日なんだし、これを着て、気合い入れようっと!」  呟いて、ハンガーから服を取り外し、順番に着始めた。ソックスも、赤いタータンチェックにレースの付いたハイソックスを選ぶ。  そして仕上げに、「女の子の部屋なんだからこれがないとね」といって母親が買ってきたドレッサーに向かい、ここ数日で覚えたメイクを、やや濃いめに施せば―― 「わぁ、可愛い! アイドルみたい……!」  アイドル風セットを着た自分の姿を鏡に映し、歩実は高鳴る鼓動を押さえるように、胸元に拳を宛がった。 「っていうかこれ、本来はダンスとかイベントの時に着るようなコスプレで、普段着にするようなものじゃないんじゃ……? ま、まぁ、そんな着ていくような機会もないから、普段着にするしかないんだけど」  思わず素の声で呟いてしまう歩実。夏休みとはいえ、平日の朝からこんな格好をしていることに今さら恥ずかしくなる。気温も高いのだからもう少し涼しい格好にしてもよかったと思わないでもないが、 「まぁ、いいか。今日はすぐに着替えるんだし」  呟いて、先にトイレを済ませてから、リビングへと降りていく。  その間も、歩幅は小さく、内股気味の歩き方。トイレも大小問わずきちんと内股に座って、終わった後は紙で拭く。階段を降りるときは、スカートの裾を摘まんで視界を確保し、爪先でトントンと踊るように。こうした一連の動きも、合宿に参加するために練習して、今ではほとんど無意識に行えるようになっていた。  リビングのドアを開けた歩実は、テーブルについて新聞を読んでいる父親と、キッチンで朝食の仕上げをしている母親に、元気よく挨拶する。 「パパ、ママ、おはよう!」 「おはよう、歩実。今日も可愛い格好じゃないか」  新聞から顔を上げ、眼鏡の奥の目を細めて笑う父親。  母親も朝食を運んできながら、 「おはよう、歩実ちゃん。今日はアイドルの格好なのね。似合ってるわよ」 「えへへ、ありがとう!」  歩実ははにかんで、ドレスを自慢する少女のように、スカートの裾を摘まんでみせる。もちろん心の中は、 (うう、高校生にもなった男が、可愛いお洋服にはしゃぐ女の子みたいなぶりっ子をするなんて……) (父さんも母さんも、なんで普通に受け入れてるんだよぉ……)  恥ずかしさに胸がはち切れそうになりながら、ふんわりと広がったスカートを踏まないよう気をつけて着席する。  母親は既に見たとおり、歩実が女児の振りをすることに大喜び。もともと娘が欲しかったことに加え、「小学生の娘ができたみたいで、なんだか若返った気分だわ」とのことで、当たりもすっかり柔らかくなっている。  そして父親も、「お前も大変だな」と同情する口ぶりだったが、決して嫌がっている様子はない。むしろ可愛い「娘」ができたと喜んでいるような節さえあり、歩実としては複雑な心境だ。 「さ、朝ご飯にしましょう。歩実ちゃんも、今日は合宿に行けるかどうかの正念場なんだから、しっかり食べて備えないとね」 「…………」  母親の言葉に、分かっていたこととはいえ背筋を伸ばす歩実。  ――すでに今日は、合宿開始前日。  そして明日からの合宿に備えて、今日はレイカの事務所で合宿の説明と最終確認、参加者同士の顔合わせが行われることになっていた。  歩実にとっては、女児の振りをして合宿に参加するべく、他の参加者をごまかすことができるかどうかを問われる試験も同然。すでに何度も女児女装で外出して、最初のファッションセンター以外では一度もバレたことがない歩実だったが、リアル女子小学生たちとのやり取りに耐えられるかどうか―― 「い、いただきます」  不安を抱えながらも、歩実は朝食に向かって手を合わせるのだった。   (続く)


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