SS「逆転の日 ~幼稚園制服編~」(6)
Added 2020-08-05 09:20:54 +0000 UTC(6) 「うん!」 元気よく答えたのは、もちろんぼくではなく妹だった。満面の笑顔でぴょんぴょん飛び跳ねながら、 「おにーちゃんがね! 年少さん用の制服が着たかったんだって! だからお店にお願いして、よーいしてもらったの!」 「へぇー……そうなんだー……」 驚きから早くも立ち直り、にやにや笑う井上さん。 ぼくは真っ赤になって、うつむくことしかできない。 「**幼稚園の制服――それも、こんな可愛いピンクの年少組制服を、ねぇ……んふっ、浅井くんにそんな趣味があったなんて、いっがいー」 「こ、これは――その、ちょっとした、興味本位で……」 「ええー? 興味本位で、こんな幼稚園の制服買うー? しかも――ブラウス3枚組ってことは、毎日でも着るつもりなんでしょー?」 「それは、その――」 何とかごまかそうとするぼくだったが、井上さんは容赦なく詰めてくる。 さらに文月さんまで、 「ふふっ、ブラウスだけではありませんよ。残りも持ってきてあげますね」 そう言って、試着室の近くのテーブルにぼくたちの制服を置くと、再び店の奥に消えた。 井上さんは目をキラキラさせてぼくを見る。こんな時だというのに、間近に迫る女子の顔に思わずドキドキしてしまう。 「残り、ってことは、まだあるんだ?」 「うう、見なかったことにして先に帰って欲しいんだけど……ダメ?」 「ダーメ。もし無理やり帰したら、言いふらしちゃうんだから」 「お、脅すつもり……!?」 「いいじゃん。見せてくれたら、クラスのみんなには言わないから、ね?」 彼女の強引さにハァ、とため息をついたところへ、文月さんが「残り」を入れた段ボール箱を抱えて戻ってきた。 テーブルの上で箱の蓋が開かれ、覗き込んだ井上さんはまたしても目を丸くする。 「うっわぁ、本格的……! スモックに、帽子に、バッグに、下着に――体操着のブルマーまであるじゃん! んふっ、高校をやめて、幼稚園に通うのかな?」 「ち、違うってば……」 ぼくは赤くなって顔を逸らした。 さらに文月さんは笑顔のまま、信じられないことを言い出した。 「さ、お兄さん。いちおう採寸通りにおつくりしましたけど、ぴったりかどうかは判りませんから――是非とも、試着してみてください」 「し、試着って――ここで!?」 「はい、もちろん。早紀ちゃんと一緒に兄妹――いいえ、年長組と年少組の『姉妹』で、お揃いの制服をご試着くださいませ」 まさかここで着ることになるなんて、みじんも考えていなかった。今後は学校に行くとき以外はずっと園児服――そうは言われていたものの、最初くらいは家で着るものだとばかり思っていたのに。 とうぜんこの流れに、井上さんは喜色満面、 「あらー、さっそく着て見せてくれるの? んっふふー、たのしみー」 学生服店の中、それもクラスメイトの井上さんがいる前で着替える恥ずかしさに立ち尽くしているぼくの腕を、妹がギュッとつかんできた。 「ほら、おにーちゃん! いっしょにシチャクしよっ!」 「ふふっ、サキちゃんったら、お兄ちゃんとお揃いがそんなに嬉しいんだ?」 「うん! それにね、よーちえんのセーフクを着たら、おにーちゃんじゃなくて、サキのいもーとになるんだ!」 「へぇー……」 妹の答えに、井上さんが、舌なめずりするような目つきでぼくを見る。 「なるほどねぇ、サキちゃんが年長組で、浅井くんが年少組だから、兄妹じゃなくて姉妹――それもサキちゃんのほうがお姉ちゃんの姉妹になるんだ。ふふっ、頑張ってね、お姉ちゃん」 「うんっ!」 満面の笑みで答えるサキに対して、ぼくは青い顔で脂汗を浮かべるばかり。 しかしずっとそうしていられるわけもなく、 「はい、サキちゃん」 母さんは、開封してタグを外した年長組の制服を妹に見せながら 「新しい制服を着せてあげるから、一緒に試着室に入りましょうね~」 「はーい! おにいちゃんは?」 「お兄ちゃんもすぐにお着換えするから、安心していいわよ。ね、お兄ちゃん?」 「う、うう……」 答えられずにいる間に、井上さんと文月さんがぼくの分の制服と下着を同じように取り出してくれていた。制服一式の上に、白のキャミソールとショーツ、刺繍入りのソックスを乗せたものをぼくにむけて差し出しながら、井上さんはニッコリ笑顔で言う。 「ほら、あたしたちが必要なものを出してあげたから、『お姉ちゃん』と一緒に早く着替えましょうね、浅井くん――マキちゃん♪ それとも、リサお姉ちゃんが着替えさせてあげよっか?」 「い、いらないよ! そんな、幼稚園児扱いしなくたって――」 「あーら、わざわざ年少組の制服を作ってもらったくせして、生意気言っちゃってー。年少さんなんだから、素直にお姉ちゃんの言うこと聞いて、着替えさせてもらいなさい。嫌がってると、クラスのみんなに言いつけちゃうわよ?」 「そ、そんなぁ……」 むしろ井上さんこそ、ぼくに着替えさせることに抵抗はないんだろうか――そんな疑問を感じながらも「脅し」に逆らうことはできず、ぼくは彼女に手を引かれて、試着室に引きずり込まれるのだった。 (続く)
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ありがとうございます!
十月兔
2020-08-05 10:11:57 +0000 UTC