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SS「逆転の日 ~幼稚園制服編~」(5)

  (5)  そして、四月のはじめ。 「制服楽しみだね、お兄ちゃん!」 「う、うん……」  「お兄ちゃん」と呼んでもらえるのも、今日で最後――そんなことを考えながら、ぼくは妹と、お母さんと一緒に、ふづき制服店を訪れていた。 「いらっしゃいませ。少々お待ちいただけますか?」  ドアを開けるといつものように、店員の文月さんが出迎える。  しかし店内にはもう一人、女子の姿があった。  それも、ぼくの通っている高校の女子制服で――振り返ったその顔は、ちょっと仲がいいクラスメイトだった。背が高くショートカットのスポーツ少女、井上里沙さんだ。彼女もぼくに気付いて、 「あれー、浅井くんじゃん。奇遇ねー」 「い、井上さん。ほんと、奇遇だね。制服の新調?」  冷や汗が背筋を這うのをこらえながら、ぼくは何気ないふりで挨拶をする。 「うん。ジャケット新しくしてもらいに来たんだけど、浅井くんも?」 「え、ええと、うん。そんな感じ」  何とかごまかせないかと思いつつ言葉を選ぶ。けれど、 「あのね、よーちえんのせーふくを、うけとりにきたの!」  それを台無しにするかのような妹の一言が響き渡った。  しかし井上さんはニコニコと、妹の目線に合わせるようにしゃがんで、 「へー、そうなのー。んふっ、可愛い妹さんね。お姉ちゃんに、お名前教えてくれる?」 「はーい! **よーちえんねんちょーぐみ、あさい、さきです!」 「サキちゃんね。ちゃんとお名前言えて、偉いわよー。お姉さんはね、お兄ちゃんのお友達の、リサっていうの。よろしくね、サキちゃん」 「うん! リサおねえちゃん、よろしく!」  当り前だけど、井上さんは「妹の幼稚園の制服を作りに来た」と勘違いしたようだ。できればずっとこのまま勘違いしていてくれるように祈っていると、文月さんが、高校の女子用ジャケットを持ってやってきた。 「里沙ちゃん、お待たせ。新しいジャケットを持ってきましたよ。さっそく着てみる?」 「もっちろん! やー、これでやっと胸がきついのが解放されるー」  井上さんは受け取った制服とともに、試着室に入る。  言われてみれば、確かに井上さんのジャケットの第一ボタンは今にも外れそうで、脇から胸元にかけても不自然なシワができていた。いつもであれば、女子の胸の成長にドキドキするだろうけど、いまは別の意味でドキドキ――というかハラハラしているのでそれどころではない。  ぼくはこっそりと文月さんに、 「それで、あの、ぼくの制服は――」  できれば彼女が帰った後に持ってきてください――そう言おうとしたのだが、 「はい、ただいま妹さんのものと一緒にお持ちしますね」 「え……ちが、ちょっと待って……!」  呼び止める暇もない。文月さんは誤解して――あるいは誤解したふりをして、ささっと店内に行ってしまう。思わぬ展開に慌てていると、 「うんうん、やっぱりぴったり! どう、浅井くん?」  早くも試着を終えた井上さんが試着室から出てきた。確かに先ほど着ていたものよりも、ジャケットの胸元にはゆとりがあって、 「う、うん。似合ってるよ」 「でっしょー? あれ、文月さんは?」  きょろきょろと探す井上さん。そこへ、 「お待たせ、持ってきたわよ――早紀ちゃん、真紀ちゃん」  やってきた文月さんが両手にそれぞれ持っているものを見て、ぼくは終わりを悟った。  左手に持っているのは、110センチサイズの年長組制服。紺のジャケットに紺のスカート、赤いリボンの一式は、もちろん妹用のものだ。  そして右手――160センチサイズの年少組制服。ピンクのジャケットにピンクのスカート、黄色いリボンの一式は―― 「えっ、うそ……!?」  滅多なことでは動じない井上さんが目を丸くして、その制服とぼくをかわりばんこに見つめてる。しばらく声も出せずにいたが、やがて自分でも信じられないかのように結論を口にする。 「もしかしてそれ――浅井くんの!?」   (続く)

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次回、こうご期待…!

十月兔

試着するんですかね?


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