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連載小説「やりなおし」(24)

 1-2.邂逅   (10) 「あ、あ……!」  歩実は内股のまま足を止め、サロペットスカート越しに股間を押さえて、真っ赤な顔でうつむく。  小水自体は、それほど大した量ではない。行く前にきちんとトイレに入っていたし、水分補給も最低限に済ませていた。いつもであれば余裕で我慢できるくらいである。  しかし、女児服を着て店内を見て回ったり、女子中学生たちに笑われたりした羞恥のせいで尿意は一気に限界を迎え、ついにおもらししてしまったのだった。 (昨日に続いて、またおもらししちゃうなんて……) (しかも女の子の格好で、沢山の人に、見られながら……!)  口惜しさと情けなさに、目の端に涙を浮かべる歩実。先述の通り量自体は少なく、女児用おむつであってもあっという間に吸収しきれる程度。ポリマーがやや膨らんだものの、表面は既にサラサラになっているのだが(精液のべたつきは除く)、やってしまった恥ずかしさには変わりはない。  店員もすぐ、立ち止まった彼の表情に事態を察して、 「あら、あら。お嬢ちゃん、もしかして、しちゃった?」 「う……うん……」 「大変大変。替えなくて大丈夫?」 「う、うん……量も少なかったし、替えも、持ってきてないから……」  まさか買い物に来た程度で漏らすとは思っていなかったため、替えも持っていなかった。量が少なかったのが、せめてもの救いである。 「はっ、はぁっ――うん、もう、大丈夫……」  何度か深呼吸をして落ち着き、ようやく歩実は顔を上げる。  店員もホッとした様子で、 「ふふっ、よかった。じゃ、売り場に戻りましょうか」 「う、うん」  歩実はまた真っ赤になりながらも、店員とともにいま来た道を引き返す。 「けど、お嬢ちゃんがおむつをしてるのって、そういうことだったのね。てっきり、体型をごまかすためか、完全に趣味なのかと思ってたわ」 「うん――って、しゅ、趣味……?」 「ええ。おむつの取れない女の子になりきるのが好きなのかなって」 「ち、違うから……!」  歩実は思わず声を大に否定して――他の客からの視線を感じて、慌てて押し黙る。 (違う……ぜったいに、そんなことないんだから……) (これは、おもらしを治すためなんだ……!)  自分に言い聞かせながら、歩実は店員のあとをついて歩くのだった。   * * *  バッグや靴なども一通り見て回った後で会計を済ませ、ファッションセンターを出た歩実は、大量の戦利品を抱えていったん家に戻った。  歩実の姿を見た母親は大喜びで、 「まぁ、まぁ! すっかり可愛くなっちゃって! 本当に小学生の娘ができたみたいだわ!」 「あ、あんまり大きな声で言わないでよ……と、とにかく、おむつを替えたらもう一度出かけてくるから、買ってきた服の整理、お願い」 「はいはい。任せなさい」  そんなわけで、小水と精液に濡れた紙おむつを新しいものに交換して、再び出かける。まだまだ、女児生活の準備に必要なことはたくさんあるのだ。 「い、行ってきまーす」  玄関を出た服装は、ほぼファッションセンターから帰ったときのまま。つまり大きなリボンカチューシャに、長袖のブラウスとうさぎサロペットスカート、レース付きのショートソックスである。  足元だけスニーカーから、ヒール付きのピンクエナメルストラップシューズに変わり、背中にはこれまた買ったばかりの、ピンクのプリキュアリュックを背負った姿である。財布もリュックとセットの、プリキュアのものに替えておいた。 (さ、さすがにもうちょっと大人しい格好に着替えてくればよかったかも……)  外に出て数秒で後悔する歩実だったが、あまり家の前でうろうろしてもいられない。なるべく平静を装って住宅街を歩いてゆき、まず向かった先は美容室だった。ふだんの散髪はなじみの理容室に行くのだが、さすがに顔見知りのおじさんに、いまの女児服姿を見られる勇気はない。  もっとも、初めて入る美容室で、女の子の振りをして「可愛い髪型にしてください」とお願いするのもじゅうぶん恥ずかしく―― 「はーい、お疲れさま。ふふっ、また一段と可愛くなったわね」 「あ、ありがとうございますっ」  お愛想とはいえ美容師さんに褒められて、歩実は口元を緩める。毛先を揃えた、ぱっつん風のおかっぱ頭――高学年の女児にしてはやや幼い髪型だが、いまのこの服装にはかえってぴったりだ。  そして、なにより。 (ぜんぜん、男子だって気付かれなかった……!)  髪を切ってもらう間の会話でも、不審を持たれた気配はない。すっかり「背が高い割に可愛い格好が好きな小学6年生の女の子」としてごまかしきれていたようで、歩実は不本意ながらも達成感に満たされる。  その後、書店と文具店に行き、女児生活を送るためのものをいろいろと購入する。  少女漫画に、女児向け雑誌、児童文庫。  筆記具やペンなどのステーショナリーに、ハンカチなどの小物類。  最近の女児がどんなものを持っているかはわからないが、とりあえず最低限のものは揃っているだろう。 (あとは――)  文具店を出た歩実は、本日の最終目的地に向かう。まるで魔王の城に向かう勇者のような気分でたどり着いた、その先は―― 「ごくっ……」  大型の、チェーンドラッグストア。 (ここで、紙おむつを、買わなくちゃ……!)  その威容を前に、歩実は緊張を新たにするのだった。   (続く)


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