SS「逆転の日 ~幼稚園制服編~」(4)
Added 2020-07-26 04:10:50 +0000 UTC(4) 奇妙な感覚だった。 制服店に連れて来られて、幼稚園の女児制服を作ることになり、年少組の制服や、ブルマーを購入することになって――どんどん得体のしれない深みにはまっていくような恐怖と、それを上回る抗いがたい蠱惑。 「ふふっ、お兄ちゃんならそう言ってくれると思っていたわ」 「う、うう……」 「枚数は1枚ずつ? それとも、洗い替えがほしい?」 「に、2枚ずつで……」 「うんうん。ちなみに、夏になったら水着もあるから、その時はまた来てちょうだいね」 文月さんに半ばハメられるようにして、ぼくは恥ずかしい選択を選んでしまう。そしてそれは、まだまだ終わらない。 「それと――スモックね。幼稚園児らしいスモックも、もちろん欲しいわよね?」 「は、はい、欲しいです……」 「これも学年によって、年長さんは水色、年中さんはピンク、年少さんは黄色になってるんだけど――やっぱり年少さん用がいい? それとも、ピンクの年中さん用にする?」 「う……ね、年少さん用で……」 いかにも幼稚園女児と言ったイメージのピンクのスモックも、逆らい難い魅力はあった。けど、スカートもピンクでは色がかぶってしまうし、何よりも「最下級生用」の魅力には逆らえなかった。 「はい、かしこまりました。あとはインナーやソックスも、ブラウスと同じように三枚ずつかしら?」 「うん……」 「タンクトップとショーツ、ソックスも三枚ずつ、と。帽子や通園バッグ、名札入れも……」 「ほ、欲しい、です……」 「じゃあ、これで全部ですね。ふふっ、これだけあれば、学校に行くとき以外はずっと園児服で過ごせそうね。ねぇ、お母様?」 「ええ、本当に。あと必要なのは、パジャマくらいかしら? それも、女の子らしいのを選んであげないとね」 「ふふっ、妹さんに負けないくらい――妹さんよりもかわいいのを着たいんじゃないかしら。ねぇ、年少組のお兄ちゃん?」 「う……は、はい、着たい、です……」 いったいどんなパジャマを着せられてしまうのだろう。妹の女児用パジャマより、さらに幼くて、女の子らしいパジャマ――もはやそのデザインも、着たときの恥ずかしさも想像がつかないほどだった。 なのに――文月さんとお母さんの話は、さらにとんでもない方向へ転がってゆく。 「学校には高校の制服で行くとしても、おうちの中では園児服で過ごすなら、他の服はいらなくなりそうですね。お出かけの時は高校の制服を着ればいいんですから」 「ふふっ、それはどうかしら。学校に行くとき以外は、ずっと園児服でいいんじゃないかしら。家の中でも、お外でも――どちらにしても、他の服はいらなくなりそうですわね」 「まぁ、お外でも園児服だなんて――よかったわね、お兄ちゃん。学校に行く間以外、ずっと大好きな園児服でいられるわよ」 「そ、それは――そんな……」 思ってもみなかった展開に、ぞくっと背筋が凍る。 学校の制服以外すべての服を処分されるのみならず、年少組用の幼稚園児の制服を、家の中だけではなく、外でも――そんなことになったら間違いなくご近所さんにバレるし、中学時代の友達にも知れ渡ってしまうことだろう。恥ずかしいなんてものではない。もう二度と、まともな男子としての生活なんて送れなくなってしまう。 なのに――ああ、なんでこの期に及んで、「嫌だ」の一言が口から出てこないんだろう。 ぼくの反応に、お母さんと文月さんは満足げにうなずいて、 「じゃあ決まりね。まとめてリサイクルショップに持っていくから、幼稚園の制服ができるまでの間に、高校の制服と最低限の下着以外の服は、すべて処分できるようにしておくこと。いい?」 「っ……うん……」 「それと、今まで読んでいた漫画やゲームも全部禁止。代わりに絵本や塗り絵や、女の子向けのゲームを買ってあげるから、それで遊びなさいね。」 「ま、漫画やゲームも……!?」 「とうぜんでしょ? 年少組の女の子が、少年漫画や男の娘向けのゲームで遊ぶなんて、おかしいんだから」 制服だけではない。今後は完全に幼稚園年少組の女児としての生活を送ることになる――それがお母さんの決定なのだ。 「制服が届いたら、あなたはもう、早紀の『妹』になるの。年少さんの制服を着るんだから、判ってるわよね?」 「う、うん……」 「えへへー、お兄ちゃんが、妹かぁ。たのしみ~」 無邪気に笑う妹。そんな彼女に対しても、制服が出来上がってからは「お姉ちゃん」と呼ばなくてはいけなくなるのかと思うと、倒錯した感情を抱いてしまう。 お母さんはそんなぼくたちを見て笑い、 「これで決まりね。それじゃあ――制服が出来上がるのをお待ちしてますね」 「かしこまりました。妹さんの、年長さん用の制服。お兄ちゃんの、年少さん用の制服。どちらもご用意しておきますね。出来上がるのは来月のあたまになると思いますので、またおいでくださいませ」 文月さんがにっこりと笑う。 この注文を覆す最後のチャンスに――ぼくは何も言えず、うなずくことしかできなかった。 (続く)
Comments
挿絵付きで見たい内容ですね~
2020-07-28 22:30:47 +0000 UTCありがとうございます! そして本人も内心では…
十月兔
2020-07-26 08:20:49 +0000 UTC