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SS「逆転の日 ~幼稚園制服編~」(2)

  (2) 「え――」  驚きに、とっさに反応ができない。  しかしその間にも、文月さんは笑顔でうなずいて立ち上がり、 「はい、大丈夫ですよ。さっそく、採寸させてもらいますね」 「え、え……ちょっと待ってよ、な、なんでぼくの、幼稚園……!?」 「お兄ちゃん、幼稚園に通うの?」 「か、通わないよ!」  妹の言葉に首を振り、ぼくはお母さんを見る。 「ちょっと、お母さん、どういう――」 「あら、ずっとほしかったんでしょ? 早紀の制服」 「――――」  あまりにもストレートな言葉に、ぼくは絶句する。  さらにお母さんは続けて、 「ふふっ、バレてないと思った? 早紀の制服をじっと見てたり、こっそり体の前に当てたりしてたの、お母さん、知ってるんだから。着てみたかったんでしょ? 幼稚園の制服ってかわいいものね」 「う、う……」 「えー! お兄ちゃん、早紀の制服、着たかったの? 言えば貸してあげたのにー」 「ち、違うって! 第一、サイズが合わないから着られるわけが――」 「ふふっ、だから真紀用の、大きいサイズの制服をお願いしようってことよ。とにかく、採寸してもらいなさい」 「そ、そんなの――」  いらない、と言いかかった言葉が出てこない。ずっとバレていたことや、ふいうちで制服を作る流れに持っていかれたことに対していろいろ言いたいことはあったけれど、ある思いがぼくの口を縫いとめていた。  本当に、妹の制服を着られるかもしれない――  いったいなぜ、いつから、こんな歪んだ願望を持つようになってしまったのか、ぼく自身にも判らない。気付けば妹の制服を見て、「着てみたい」と考えるようになってしまっていたのだ。  その願いが、叶う――  千載一遇よりもなお有り得ない好機。まっさらな状態から、自分の口で「妹と同じ制服を着たいから作って欲しい」と言うよりも、はるかにハードルが下がっている。 「いらないならいいけど、どうする? いまを逃したら、二度と可愛い制服を着るチャンスなんてないわよ?」 「う……」  追い詰めにかかるお母さんに、ぼくはこう答えるしかなかった。 「じゃ、じゃあ……ぼくの分の制服も、作って、ください……」  言った瞬間、全身が発火するかと思うほどの羞恥に苛まれる。  お母さんと文月さんはくすくす笑って、 「ふふっ、よく言えました。それじゃあ採寸してもらいなさい」 「う、うん……」  ぼくは立ち上がって、早くもメジャーを伸ばしている文月さんのところへゆき、 「その、よろしくお願いします……」 「はーい、かしこまりました」  文月さんはウキウキと採寸を始めつつ、 「ふふっ、今まで中学、高校と制服をお世話させてもらいましたけど、まさか逆転して幼稚園の制服をおつくりすることができるなんて、思ってませんでした」 「う……ご、ごめんなさい……」 「あら、謝ることなんてないですって。女子制服はいつか頼んでくるんじゃないかと思ってましたけど、幼稚園の制服なのが意外だったってだけですから」 「女、女子……なんで、そんな……」 「だって、初めてこのお店に来たときも、熱心に見てましたよね? セーラー服とか、女子制服を。よほどこっちから訊こうかと思ったくらいに」 「うっ……」  どうやら最初からお見通しだったらしい。顔がかぁっと、熱くなってくる。  一通り測り終わったのか、文月さんはメジャーをポケットにしまい、 「これでよし、と。じゃあ注文内容の確認に移りますね」  ほんとうに、自分用の幼稚園制服を買うんだ――  文月さんとともにテーブルに戻りながら、ぼくは夢のような展開に、痛いほどに胸を躍らせた。   (続く)

Comments

ありがとうございます! そのあたりは次回に…

十月兔

何組の制服か気になりますね。


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