連載小説「失禁改善合宿(仮)」(18)
Added 2020-07-22 10:12:41 +0000 UTC1-2.邂逅 (4) おそらく20代後半くらいだろう、ベストスカートのスーツを着た女性店員が、ニコニコしながら立っていた。身長は歩実よりやや高く、160くらいあった。 「え、ええと……」 歩実はいっしゅん真っ白になる思考を立て直し、事前に考えておいた偽りの事情――カバーストーリーを、新しい要素を加えて再構築する。 (ぼくは小学六年生で、今日は夏休みのおもらし改善合宿に向けて、新しい服を買いに来た。合宿内容そのものは恥ずかしいから秘密) (服は可愛い系が好きで、背は高いけど運動は苦手。バレないように、人と話すのも苦手ってことにする) 一秒ほどでまとめた後、歩実は先ほどラックに戻したブラウスを手に、出来るだけ女の子らしい声を出してみる。 「あ、あの、このブラウス、着られるかなって思って、みてたんですけど……」 (ううっ、すっごい変……!) 男子高校生でありながら、女子小学生の振りをしてぶりっ子な声を出している自分に、思わず失笑しそうになる。一方で、 (コインランドリーの時は声を作ってなくても「女の子にしてはハスキー」って言われたから、ちょっと高くしてみたけど……どうだろう?) いささか怖気づきながら、店員の反応を窺う。 しかし店員は営業スマイルのまま、 「あら、可愛いブラウスね。お嬢ちゃん、身長は?」 (よしっ) 明らかに女児扱いする反応に、歩実は内心ガッツポーズをしながら演技を続ける。 「え、ええと、152センチ……」 「ふふっ、けっこう高いのね。えーと、こっちのブラウスは150サイズまでね。お嬢ちゃんは細いから大丈夫だとは思うけど……気になるなら、試着してみる?」 「あっ……」 (し、しまった……) ここに至って、歩実はようやくミスに気付く。 (カバーストーリーを思い出すのに夢中で、ブラウスを着るのはやめようって考えてたの、すっかり忘れてた……!) (でも、ここでやめるのも不自然だし……) 「じゃあ、お願いします……」 「ふふっ、かしこまりました。あら、でも――」 「な、なぁに?」 「試着は基本的に、肌着の上からしてもらうことになってるの。お嬢ちゃん、そのシャツそのまま着てるのよね?」 「あっ……う、うん」 「なら、ちょっと無理ねぇ。それとも、下着から買って、その上から着る?」 「う……は、はい、お願いします」 思わぬ流れに困惑するが、もともと下着も買うつもりだったので問題はない。とりあえずブラウスはラックに戻して、歩実はいったん下着売り場へと向かう――が、 「な、なんで一緒に……?」 後ろからついてきた店員に、歩実は赤い顔で尋ねる。 店員は「ふふっ」と笑って、 「お嬢ちゃん、お洋服選びに慣れてなさそうだから、手伝ってあげようと思ってね。お邪魔かしら?」 「その、そんなことはないけど……」 「じゃあ、手伝わせてちょうだい。まずはショーツね。どんな感じのがいいかしら?」 「う……か、可愛いの、お願いします……」 「可愛いのがいいのね。ふふっ、だったらこっちのはどうかしら? ほんとうは低学年の子向けだけど、大きいサイズもそろってるから可愛いのがいっぱいよ」 ただでさえ恥ずかしい、女児下着選び。 それを女子小学生の振りをして、「お姉さん」に教えられながらするのは、男子高校生として二重三重の意味で恥ずかしかった。 しかも店員が示した棚に並んでいるのは、低学年向けの深ばきインゴムショーツ。オフホワイトをはじめとしてパステルカラーのものが中心で、赤にピンク、青に水色、ミントグリーンにレモンイエローなど、まるで女の子が描いた花畑のようだ。 柄も豊富で、タータンチェックにギンガムチェック、ストライプにボーダー、ドット柄といった定番から、アニマル柄、フルーツ柄にコスメ柄まで。さらに、例えばオレンジのボーダーにフルーツのプリントと言った、二つ以上の柄を組み合わせたものもある。 中にはとうぜん無地のものもある。オフホワイトに色違いのリボンがついただけのシンプルなセットから、お尻がわに様々なイラストがプリントされているものも多い。白雪姫やアリスといった童話プリント、ケーキやプリンと言ったスイーツプリント、女児向けアニメのキャラプリント。 多くの女の子にとって、見ているだけでも心躍るだろう光景。男子高校生であるはずの歩実すら、 (す、すごい……女の子の下着って、こんなにたくさんあるんだ……! 男子用の下着なんて、無地か、変な柄のしかないのに……) ある種のカルチャーショックとともに胸を高鳴らせてしまう。 呆然と見とれる歩実に、店員は「クスッ」と笑って、 「どう? お嬢ちゃんの気に入るの、あったかな?」 「は、はい! どれも可愛くて――その、迷っちゃうくらい」 危うく素が出そうになるのを、歩実はなんとか誤魔化す。 (あんまり可愛いのだと、恥ずかしいかな……? でも、可愛い路線で女の子の振りをするんだから、下着もちゃんと可愛くしたほうがいいよね……) 迷いながらも、歩実はショーツを選んでいった。 すぐ近くにはもうちょっとぴったりした、高学年向けのビキニショーツもあるのだが、 (でも、あっちだと可愛いもの好きってイメージに合わないから、低学年用のほうがいいよね、うん) 秘かに考えて選択肢から外し、改めて低学年用のインゴムショーツを選び始める歩実。 そんな彼の様子を、店員は目を細めて眺めるのだった。 (続く)