連載小説「失禁改善合宿(仮)」(11)
Added 2020-07-15 08:33:39 +0000 UTC1-1.奇策 (11) 「――ということで」 家に帰りついた歩実は、リビングで母親と向かい合い、一通りの事情を説明した。 合宿の参加者は、ほとんどが女子小学生であること。 一人だけ男子高校生だと目立つため、自分も女子小学生の振りをして参加するよう勧められたこと。 汚した服を洗濯するため、一時的に女装してコインランドリーに入ったこと。 そこで出会った女子大生たちから、化粧してもらい、女の子になるための手ほどきを受けたこと。 改めて女児服にしっかり着替え、女の子に見えるよう挙措にも気を配ったこと。 その結果、無事に女の子に見えることが分かり、女児として合宿に参加する自信がついたこと―― もちろんすべてではなく、女子大生に触られたり、勃起したりした点は省略してある。 (でも、改めて母さんに説明すると……けっこう、とんでもないことしてるよなぁ……) 普通であれば一笑に付されるか、あるいは「高校生にもなって何をやっているの」と怒られそうな話だったが、歩実の母親はあっさりとうなずいた。 「いいじゃない。合宿に参加してくれるんなら、お母さんとしては言うことはないわ。それに――歩実の可愛いところが、見られそうだものね」 「うっ……そんなに嬉しいの……?」 「もちろんよ! 小学校の頃は、さすがに教育上まずいかしらと思って我慢してたのに、中学に上がったら上がったで、絶対イヤだ! って言いだして、全然可愛いお洋服を着てくれないんだもの」 「むしろ中学生ならいいって判断のほうがおかしいと思うんだけど?」 正論とともに睨む歩実だったが、残念ながら、喜びに目を輝かせて今にも小躍りしそうな母親には、まるで届いていなかった。 「もうこのまま着せる機会もなく大きくなっちゃうのかしらと思って、夜ごとに枕を濡らしてたけど、ふふっ、ぎりぎりになってでも着せられそうで良かったわ」 「また大げさなことを……」 「でも、いったいどういう心変わり? 中学の頃はあんなにお願いしても着てくれなかったのに、ずいぶんあっさり受け入れるなんて」 「そ、それは……その、合宿のためには仕方ないかなって」 歩実は目をそらす。 (そういえば、中一の夏の時だっけ……) (お母さんが急にワンピースを買ってきて、着るように言ったのは……) 少し前の歩実であったら、文句を言いながらも逆らうのも面倒と言って素直に着ていただろう。しかしこの時の歩実は頑として拒否し、ついに母親の無理難題を退けたのである。 母親は知らなかった。ちょうど夏休みが始まる前の、期末テストの結果発表――仲のいい女子との点数勝負に負けた歩実が、とある女子から女装させられていたことを。 (言えるわけ、ないもんなぁ……) (女装させられて、「女の子みたいで可愛い」って言われたのが恥ずかしくて、悔しくて) (「彼女」に男として見てもらいたいから、女装を嫌がってた――だなんて) ちょうど4年前の思い出に、苦笑する歩実。 そんな彼を、母親は不満げににらんで、 「まぁいいわ。でも――なんで女の子のまま、帰ってこなかったの?」 「うっ」 いまの歩実が着ているのは、事務所で着せられた女児服ではなく、行くときに着ていったシャツとジーンズだった。さすがに女児女装のまま帰宅する度胸はなく、事務所で着替えて帰ってきたのである。 「合宿のために女の子になるって言うなら、着替えずに帰ってくればよかったじゃない。覚悟が足りないんじゃないの、覚悟が」 「それはお母さんが、僕に女児服を着せたいだけでしょ……?」 「とにかく! 早く着替えて見せてちょうだい」 「はーい……」 こうなると止められない。歩実は2階の自室に戻ると、リュックを開けて、もらって来た女児服を取り出した。 ピンクのフリル袖Tシャツ。三段フリルティアードスカパン。下着はどうしようか少し迷ったものの、紙おむつに替える。 (合宿までに、紙おむつに慣れるように言われてたし……) 合宿への参加表明後に受けた説明を思い出す。仕方がないこととはいえ、ピンクの紙おむつは女児服とは違った恥ずかしさがあった。 最後に足元も水色の女児用ソックスに穿き替えて、 「これで、よし……いや、ぜんぜんよくないけど……」 鏡の前に立った歩実は、少女になった自分とに再会に顔を赤らめる。一見した限りでは女子小学生と言われてもおかしくない程度には似合っている――が、 「うーん……やっぱりお化粧したほうが、いいのかなぁ……」 コインランドリーでしてもらった化粧は、レイカのオフィスを出るときに顔を洗って落としてしまったため、今の歩実はいうなれば「すっぴん」状態である。16年間、まるで気にしなかった自分の素顔が、改めてみると酷く無防備に――まるで裸で歩いているように感じてしまう。 「ま、まぁ、とにかくお母さんに見せに行って――これから合宿までの間にどうするとかも、いろいろ話し合わないと」 女子小学生の振りをするのは、簡単なことではない。多少のずれはごまかせるだろうが、女児服を着て、女児らしく振舞って、女児らしい知識を身につけて、女児らしい趣味に造詣を深めて――やらなければいけないことは多そうだ。 そんなことを考えながら一階へ下りていくと、 「あら、いいじゃない!」 リビングに入って開口一番、テーブルについた母親の、嬉しそうな声が飛んできた。 「ずっと似合うとは思ってたけど……ふふっ、ふりふりの可愛い女児服でも、全然問題ないわね。むしろうまく体型をカバーしてくれるから、いい感じ」 手放しで誉めそやす母親に、歩実は背中がむずむずして目を逸らす――と、その目が母親の前、ダイニングテーブルに置かれたものを発見して、 「か、母さん、それ……!」 「あら、気付かれちゃった」 母親は「それ」を両手で持つと、歩実にそっと差し出して、 「はい、中学の時のワンピース。いまなら、着てくれるでしょう?」 (続く)