連載小説「失禁改善合宿(仮)」(6)
Added 2020-07-09 08:14:21 +0000 UTC1-1.奇策 (6) そして―― 「どう? ざっとこんなもんで」 「おおー、すっかり可愛くなったじゃん」 歩実にメイクとヘアセットを施したのち、ゆるふわボブの女性――アミが満足げに言い、ポニーテールの女性――タカコが感嘆の声をあげる。メイク中の二人の会話で、歩実は彼女たちの名前を把握していた。 もちろん歩実には、自分の顔は見えない。ただ顔中に残る、女性の手や化粧道具が触れた感触に甘い違和感をおぼえながらも、妙に重たくなった瞼を瞬かせて目をパチクリさせるだけだ。 そんな彼の様子に、女性二人はくすくすと笑った後、 「んじゃ、いよいよお楽しみの確認タイムね。可愛くなった自分のお顔、とくとご覧あれ!」 アミがコンパクトを取り出して、歩実に渡す。 「あ、ありがとう」 歩実はお礼を言って受け取ると、恐る恐るそれを目の前にかざして自分の顔を見る。 そこに映っていたのは――とても自分とは思えない、綺麗に整った顔の美少女だった。 ぱっちりとした大きな目はいっそうくっきりとして、淡いアイシャドーが彫りを深く見せる。形の良かった眉毛はさらに整えられ、長い睫毛はさらにボリュームを増していた。チークは自然なオレンジ色。唇は淡いピンクのグラデーションで立体感を出し、グロスが艶を与えている。 まるで別人――というほどではなかったが、元の面影を残しつつも少女らしくなっている。髪の毛もブラシを入れたあと軽くハサミで整えてもらったおかげで、ボブカットの少女と言われても違和感はない。 コンパクトの鏡に見入ったまま、歩実は思わずつぶやいていた。 「こ、これが……ぼく?」 その一言に、アミはグッとガッツポーズを作り、 「よしっ、定番のセリフを言わせることに成功!」 「やったね!」 イエーイ、とハイタッチする女子大生たち。 そんな二人の反応を気にする余裕もなく、鏡に見とれる歩実。これならじゅうぶん、女子小学生にも見えそうだ。 (これは……ほんとに、ぼく、女の子になれる……?) 「んふふー、どう? 気に入ってもらえたかな?」 「は、はい。ありがとうございました」 顔を上げ、改めてお礼を言いながらコンパクトを返す。 アミはコンパクトをしまって、 「どういたしまして。あとは服装と、立ち居振る舞いね。服装についてはここではどうしようもないけど、座る時は膝をつけて太腿を揃える、立つ時は内股になる、歩く時は歩幅を小さくする。このあたりに気を使えば、ちょっとは女の子っぽくなるよ」 「座る時は膝を――こ、こうですか?」 言われるがままにやってみると、ちょっと無理はあったが確かに女の子っぽくなった。股間に生えているものが、ちょっぴり邪魔だったが。 「そうそう、そんな感じ。あとは鏡を見て、女の子らしくなれるように頑張ってね」 「は、はい! ありがとうございます!」 アミにお礼を言うと、タカコが今さらの疑問を口にする。 「そーいえばキミ、どーして女装してるの? 趣味って感じじゃなさそうだし、やっぱり罰ゲーム?」 「ええと……」 「そうです」と答えようかと一瞬迷ったが、これだけメイクしてもらったのに嘘をつくのも失礼な気がして、 「その、出先で服を濡らしちゃって、仕方なくコインランドリーに行く間の服を借りることにしたんですけど、女児服しか貸してもらえなくて……」 差しさわりのない範囲で本当のことを口にする。さすがにおもらししたことや、女子小学生ばかりの合宿に参加することは言えなかったが。 女子大生たちはうなずいて、 「なるほどね。でも、借りるならちゃんとぜんぶ着替えたほうがいいよ?」 「うんうん。なんなら、着替えて来ちゃったら?」 「え、で、でも……」 思わぬ流れに戸惑っているところで、ちょうど洗濯が完了した。これ幸いと洗濯物を取り出し、今度は乾燥機にかけていると、 「ね、乾燥が終わるまで、まだもうちょっと時間あるよね?」 「あたしたち、まだしばらくここにいるからさ。その間にいったん戻って、上から下まで着替えて来ておいでよ」 「そ、それは……ちょ、ちょっと、恥ずかしいですから……」 「わーっ、恥ずかしいだって。かーわいいっ」 笑いさざめく女子大生に、歩実は真っ赤になってうつむくが、それがいっそう彼女たちの笑いを誘う。 「でも分かったでしょ? 中途半端なほうが恥ずかしいんだって。やるなら徹底的に女の子になりきらないと、かえってみっともないんだよ?」 「うんうん。それに、あたしたちも見たいなぁ、君が可愛ーい女の子になったところ。ね、お願い」 「ぅ……わ、分かり、ました……」 彼女たちの圧力に負けて、歩実はついに折れた。メイクしてもらったうえにアドバイスまでもらったのだ。彼女たちの「お願い」を拒めるはずもなかった。 「ほんと!? ありがとう!」 「じゃ、ここで待ってるから!」 「はい……じゃあ、行ってきます……」 ウキウキの笑顔で送り出す彼女たちにそう言って、歩実はいま来た道を引き返し、レイカのいるオフィスへと戻ってゆくのだった。 (続く)