連載小説「失禁改善合宿(仮)」(4)
Added 2020-07-07 08:39:43 +0000 UTC1-1.奇策 (4) 顎に挟んでいたシャツの裾を落とすと、おむつの半ばほどが隠れる。しかし股間にひときわ目立つハートマークは覗いたままで、 「は、早く、スカートを穿かないと……ほんとうは穿きたくないけど、おむつを隠さないと、そのほうがみっともないし……」 水色の、デニムスカート。半分ほどから下がボックスプリーツで、左右のポケットやプリーツの下地が青のギンガム。裾からは白いレースが覗いている。いかにも小学生向けのデザインに、歩実は嫌そうな顔をする。 「はぁ……スカートじゃなくて、パンツのほうが良かったのに……スカートでも、せめてもうちょっと、大人しいデザインの……」 とはいえ、他に着るものはない。後ろ前を確認してから、 「えっと、スカートのファスナーは確か左側に……あったあった」 左腰のコンシールファスナーを探り当てて開く。あとはウエストまで引き上げてファスナーを閉じれば完了だ。 特に迷いなく穿くことができたのは、実は中学の頃、一度女装させられたことがあるからだった。とある女子と勝負したときの罰ゲームで、彼女の女子制服を着せられたのである。 (ふっふっふっ、あたしの勝ちね。さ、約束通りあたしの制服、着てちょうだい! まずはブラウスからね!) (ブ、ブラウスから? スカートだけでもいいんじゃ……) (ダメダメ。川島くんは細身だから、逆に女子用のブラウスのほうが似合うと思うし。男なら潔く脱げ脱げ~) (ちょ、ちょっと待って、楠本さん! その前に、トイレに行ってきていい……?) (うん。準備してるから、行ってらっしゃい。くれぐれも、逃げないよーに) 中学のころにはもう、恥ずかしさで失禁しやすくなるのは判っていたから、いったんトイレにいってから、改めて着替えることに。遠巻きに他の生徒たちも注目する中で、男子用のシャツから女子用のブラウスへと替え、そして紺のプリーツスカートとベスト、最後に男女共通のネクタイを結び、髪にもブラシを入れれば―― (いいじゃんいいじゃん! 実は前から、歩実が女装したら似合うと思ってたんだよねー。どう? スカートを穿いて、女の子になった感想は?) (うう……脚がすぅすぅして、スカートがひらひらして、落ち着かない……) (あははっ、でしょー? じゃ、今日一日それを着て過ごすよーに。あ、トイレはあたしも付き添うから、行くなら言ってちょーだいね、川島くん――歩実ちゃん♪) やや強引な、けれど優しい少女の屈託のない笑みを思い出し――歩実はその光景を追い払うように頭を振って、現実に帰ってくる。 「あの時も恥ずかしかったけど……うう、やっぱりスカートって落ち着かない……!」 二度目のスカートとはいえ、いまの恥ずかしさは中学のとき以上だった。 「中学の時のスカートよりも短いし、ぴったりしてる――ちょっと動くだけで揺れるから、あれもあれで脚に擦れて恥ずかしかったけど、まだ太腿は隠してくれたからマシかな……でも、これは――」 当時のことを思い出しながらつぶやき、いま穿いているスカートと比較する。 女児用のミニスカートで、しかもサイズ表記は150。華奢な上に腰が細いため、ウエストだけは問題なく穿くことはできたものの、太腿は半ばほどから下が露出し、スカートの中では内腿が密着する。 「おまけに紙おむつのせいで、お尻側もぴちぴち……うう、もう、早く着替えたい……」 しかしそのためには、ズボンとトランクスを洗濯しに行く必要がある。つまりはこの格好で、外に出なければならないわけで―― 「……上はどうしよう」 もう一枚、レイカから渡された女児用のトップスを見て、歩実は考え込む。 いま上に着ているのは、前に大きくスポーツ用品ブランドのロゴがプリントされた白無地Tシャツ。このままでもおかしくはないが、ボトムスの可愛らしい女児服と一緒だと違和感がある。ある、が―― 「やっぱり、上まで着るのは恥ずかしいな……でも、あんまりみっともないのも、それはそれで……」 考え込む歩実の目に、白い布をかけた全身鏡が止まる。 「か、鏡で、見て、確かめたほうが……いや、でも、それはちょっと……」 見たいような、見たくないような恐ろしさに、歩実はしばし硬直するが―― 「だ、大丈夫。ちょっと外に出るだけだから、ほんの数分だから……ちょっと行って帰ってくれば、終わるんだから……」 言い訳するように呟くと、靴を履きなおして、女児Tシャツを机の上に戻す。ズボンから財布を出して持ってきたリュックに入れ、ズボンと下着も、濡れた場所をくるむように丸めてしまい込んだ。 あとはリュックを背負い直せば、コインランドリーへ行く準備は万端――彼自身の、心を除いては。 「はーっ、はーっ……」 深呼吸して、心を落ち着ける。しかし女児スカートの穿き心地は、じわじわとむしばむように羞恥を掻き立てて、なかなか踏ん切りがつかない。 その時だった。 ふいに開いたドアに、歩実は悲鳴を上げて振り返り、スカートの前を引っ張って隠そうとする。その反応に、むしろ驚いたのは入ってきた側――奥から出てきた釘田レイカのほうだった。 彼女はすぐに苦笑して、 「おっと、なかなか可愛い反応だね。でも、上は着なくていいのかな?」 「い、いまはちょっとコインランドリーに行くだけですから!」 「ちゃんと女の子の格好をしたほうが、逆に目立たないと思うのだけどね。なら、これもいらないかな?」 そう言ってロッカーから出したのは、女児用のスニーカーとショートソックス。どちらも水色で、ソックスには小さなフリルがついていた。 「これがあったことを思い出してね。女の子の格好をするなら徹底的にしたほうがいいだろうと、渡しに来たんだけれど」 「い、いりません! 別に、ぼくは、女の子の格好をしたいわけじゃありませんし――」 「ふむ」 レイカは何か言いたげに目を細めた後、靴をカラーマットの横に、ソックスをテーブルの上にそれぞれ置いて、 「ま、いちおうここに置いておくから、入用だったら使うといい」 「い、いりませんからっ! それじゃ、行ってきます!」 歩実はそう叫んで、レイカの視線から逃げるように部屋を出た。 (続く)