連載小説「失禁改善合宿(仮)」(2)
Added 2020-07-05 04:12:41 +0000 UTC1-1.奇策 (2) Tシャツの色はピンクで、袖はギンガムチェックの切替、それ以外が無地になっている。丸首の周りには白いレース。前側には「Angelic Baby」のロゴが刺繍され、その周囲を波打つギンガムリボンのテープが取り巻き、左上側の角には、赤いリボンがいくつか重なって縫い付けられていた。 水色のデニムスカートは、上半分がタイト、下半分がボックスプリーツという変わった構造。プリーツの下からは、青いギンガムチェックの切替が覗き、裾を白いレースが縁取っている。 サイズ表示は150と、発育がいい最近の女子小学生に合わせてかけっこう大きい。男子とは言え華奢な歩実ならば、問題なく着られるだろう。 しかしどれほサイズがぴったりだろうと、女児服は女児服で―― 「な、なんでぼくが、こんな服を……!?」 「おや、気に入らなかったかな? なら、こういうのもあるけれど」 「デザインがいやとかそういうんじゃないです! もっと女の子っぽい服を出さないでください! なんで男のぼくが、女子小学生の振りをしなくちゃいけないんですかっ!?」 歩実の抗議に、レイカは再び目を丸くして、 「え? ……君、まさか男の子?」 「そうですよ! 男子高校生です!」 「はっはっはっ、これは失敬。うちに来るのはみんな女の子ばかりでね、外見も可愛いし、声も高いし、名前も女の子っぽいし、すっかりボクっ子だとばかり思っていたよ」 意外と豪快に笑うレイカに、歩実は小さくため息をついて荷物をまとめ、立ち上がってドアのほうに向かう。さすがの母親も、女子小学生ばかりの合宿に参加しろとは言うまい。 「じゃあそういうことなんで、失礼します」 「ちょっと君、どこへ行こうというのかね? 別に君が男の子だからって、参加を拒んだりはしないよ。むしろ貴重な男子被験者として――」 「ぼくが嫌なんですっ! 女子小学生に混じって、おもらしを治すための合宿に参加するなんて――しかもそんな女児服を着て、女の子の振りをして――」 机の上に置かれた女児服を、じっと見る。小学校の高学年が着るにしてもいささか可愛らしすぎる女児服を身につけて、合宿に参加する――きゅうっと陰嚢が締め付けられるほど恥辱に満ちた想像を、歩実は奥歯を噛んでストップさせたのは、単に恥ずかしかったからばかりではない。 「うんうん、さぞ恥ずかしいだろうね」 察したレイカが、ニヤリと笑って追い打ちをかける。 「女子小学生ばかりの参加者の中で、一人だけ男子高校生。正体を隠すために女の子の振りをしても、6年生と言うことになるし、背も高い。さぞ目立って、他の子から注目されることだろうね。『あんな大きいお姉ちゃんも、おもらしするんだ』って。本当は男子高校生だということを考えると、二重の意味で恥ずかしいことになる。そしてもしもおもらししてしまったら、彼女たちの前でお着換えだ。スカートを脱がされ、パンツを脱がされ――もしも下半身を見られて、男だとバレようものなら――」 「や、やめてください、やめてっ……!」 歩実は、レイカの言葉を遮るように叫ぶ。 しかし彼女の言葉は、すでに生々しい想像を惹起していた。彼の羞恥心はあっという間に臨界を超え――その股間が、ジワリと熱くなる。 「あ、あ……!」 一度決壊すると止まらない。元からこまめにトイレに行くようにしていたため、量はそれほどでもなかったが――ジーンズの股間に、隠しようのないシミが浮かび上がってしまう。もちろんその中のトランクスも、相応に濡れてしまっていた。 濡れた下半身が次第に冷たくなってくる情けなさに、歩実はぐっと唇を噛む。 「なるほど、確かにこれは深刻だね」 強い不安や羞恥を感じると失禁してしまう――先ほどの面談で答えた通りの現象を、レイカは冷静に観察する。 「れ、冷静に分析してないでくださいよ! 先生があんなことを言うから――」 「私に言われたくらいで失禁するようでは、治療したほうがいいんじゃないかな? ここでひと夏、女子小学生たちの間でちょっと恥ずかしい経験をするのと、これからずっと、恥ずかしい思いをするたびにお漏らしの恐怖におびえるの、どっちがいいと思う?」 「それは――な、治したいですけど……」 「まぁ、詳しい話はあとだ。とりあえずそのズボンとパンツを乾かすのが先決だね」 「う……で、でも、着替えが……」 乾くまでに時間がかかるだろうし、その間下半身を露出しているわけにもいかない。 するとレイカは「何を馬鹿なことを」といいたげに笑って、 「おや、着替えならここにあるだろう?」 指さしたのは、テーブルに置かれたままの女児服上下セット。 歩実はがっくりと肩を落として、 「や、やっぱり、そうなるんですか……」 「濡れた服をそのまま着ていたいというのなら止めはしないけど、さすがに目立つし、かぶれてあとでかゆくなる可能性もあるからね。すぐ近くにコインランドリーがあるから、洗って乾かす間だけでも着替えたほうがいいんじゃないかな?」 「元は先生が――いえ、なんでもないです」 原因はどうあれ、高校生にもなっておもらししてしまったのは自分――他人のせいにするのは余計にみっともないと、歩実は素直にうなずく。 「じゃ、じゃあ、洗うまでの間、お借りします」 「ああ。そのままあげるから、合宿の時もそれを着ていくといい」 「嫌ですよ! というか、まだ参加するなんて言ってませんから! とりあえず今、お借りするだけです!」 唇を尖らせながら、歩実はテーブルに近づいて着替えを受け取るが―― 「あ、あの……できれば下着も、お借りしたいんですけど」 「おっと、忘れていた。下着は、これを使いなさい」 そう言ってレイカがロッカーから取り出したのは、明らかに通常の下着とは異なるものだった。 色は淡いピンクで、全体に赤いハートと花のプリント。股間の部分には、ひときわ大きなハートマーク。やけに深ばきで、穿き口やウエスト部分はゴムではなく、シャーリングによって伸縮するようになっている。 なによりも、前面から太腿の間、お尻にかけて厚ぼったくなっている構造と、そもそも素材が布ですらないそれは―― 「か、紙おむつ……?」 凍り付いて呟く歩実に、レイカは小さく笑った。 (続く)