連載小説「失禁改善合宿(仮)」(1)
Added 2020-07-04 07:53:30 +0000 UTC1章 おもらし女児への第一歩 1-1.奇策 (1) 「歩実、来月から『失禁改善合宿』に参加なさい」 一学期の終業式が終わったその日の午後。 ようやく日々の授業から解放されてほっと一息ついた川島歩実に下されたのは、母親の無慈悲な宣告だった。 「えっ…なにその合宿!?」 「そのままの意味よ。おもらしやおねしょを改善するための合宿」 「なんで!? 確かに、まだときどきやらかしちゃうけど……」 歩実は少し赤くなって目をそらす。 そんな表情をすると、柔弱な女顔と、散髪をサボって後ろで留めている長い髪のせいで、とても男子高校生には見えない。 高校2年生。158センチ、45キロ。 着ているTシャツとハーフパンツはボーイズのSサイズなのだが、それでも大きすぎるせいで少女が兄の服を着ているようにダボダボである。高校の制服を着てさえも、いまだに入学したての中学生のように似合わなかった。 「だからって、わざわざ合宿で治さなくたって――」 「だめよ。来年はもう受験なんだし、それまでに治さないと大変でしょ? 緊張したり、環境が変わったりするとしちゃうんだし、もし試験中におもらししたらどうするの。幼稚園の最下級生に落第して、おむつ園児として通うことになっちゃうわよ」 「え、なにその学校。怖すぎるんだけど」 「とにかく、四の五の言わずに行ってらっしゃい。資料はもう取り寄せてあるから、あとは用紙に記入して、申し込みに行くだけよ」 「もう、強引なんだから……」 とはいえ、母親の言うことも正論だし、逆らうとかえって面倒なことは承知している。面倒ごとの嫌いな歩実は、いつものように流されるまま資料に目を通す。 資料によると、都内にある施設に寝泊まりして、7泊8日をかけて失禁改善プログラムを実施するとのことだった。ちなみに治療プログラムの被験も兼ねているため、費用は驚くほど安い。ほとんど食費と宿泊費のみだ。 強く断る理由も思いつかず、歩実は申込用紙に必要事項を記入した。 翌日、歩実はひとりで合宿の申し込みに向かった。駅からほど近い、学生向けマンションなどが並ぶ雑居ビルの一つだ。狭い階段をのぼった3階の一室に、おそるおそる訪いを入れると、 「あら、親御さんは? もしかして、ひとりで来たの? えらいわねー。とりあえず入ってちょうだい」 待っていたのは、意外なことに若い女性だった。 それも、かなりの美人だ。パンツスーツに白衣を羽織っているのが、いかにも科学者か医者らしい。 艶やかな黒髪の前下がりボブに、目つきの鋭い、怜悧な表情。声も剃刀のように歯切れがよく、それでいてどこか色っぽい響きを帯びていた。 歩実はちょっぴりドキドキしながらも、子供扱いされているような対応に違和感をおぼえる。すぐに通されたのは、中央のテーブルにパイプ椅子を二台ずつ向かい合わせただけの、簡素な応接室だった。 女性は歩実の向かいに座ると、 「初めまして。私は釘田レイカ。この合宿の主催者で、メディカルケアも担当するカウンセラーよ。まずはそこに座って、お名前と年齢を教えてちょうだい」 「川島歩実、高校2年生です」 「高2――」 レイカは目を丸くして、口調をあらためる。 「ふむ。君のような大きい子が来るのは初めてだね。いや、年齢制限はかけてないから、もちろん構わないのだけれど」 「え……他の参加者は、どれくらいの年齢なんですか?」 「だいたい小学生か、今までで一番大きい子で、中学一年生だったかな? まぁ、この合宿自体、まだ始めて5年目なんだけどね」 ここにきてようやく、歩実は子供扱いされた理由を察した。 「……、やっぱり帰っていいですか」 「いいのかい? おもらしを治したいんだろう? こんな怪しげな合宿に参加しようとするくらいには」 「……はい」 怪しい自覚はあったのか、と思いつつも、素直にうなずく。ろくに話も聞かずにここで帰ったら、強情な母親に何と言われるか――そう考えると面倒くさいのもあった。 申込受付だけではなく、合宿に当たっての面接も兼ねているとのことで、歩実は一通りの事情を訊かれる。 日常生活ではややトイレに行く頻度が高いくらいで、おもらししたり、おねしょしたりすることはないこと。ただし、極度の緊張や羞恥を感じると失禁することがあり、そういう時はこまめにトイレに行くようにするものの、少量で目立たないとはいえおもらししてしまうこと。また、不意に恥ずかしい思いをするとトイレに行く暇もないため、ごまかしようがないほど失禁してしまうこと。夜尿はほとんどないが、寝る前は水を飲みすぎないように注意していること。しかし環境が変わるとおねしょしそうで怖いため、今まで学校の修学旅行は欠席してきたこと―― レイカはカルテらしき書類に記入しながらうなずいて、 「ふむ。心理的な不安や緊張が引き金となって失禁すると。膀胱の容量も、同年代の子に比べると小さいのかもしれないね」 「はい」 「よし、だいたい判った。大丈夫、きっと君の失禁症状を、治して見せよう」 「ありがとうございます。でも……他の参加者が小学生ばかりなのに、高校生のぼくが入って大丈夫でしょうか? トラブルのもとになりそうで、不安なんですけど」 「ふむ、そうだね」 レイカはしばらく考えていたが、 「なら、小学生の振りをしたらどうかな?」 「しょ……小学生の、ふり? さすがにそれは、無理があるんじゃ……」 「大丈夫、ちょっと背は高いけど、君なら十分いけるだろうからね」 「そうでしょうか……」 嬉しくもない太鼓判に、首を傾げる歩実。 するとレイカは立ち上がって、部屋の隅にあるロッカーからなにやら取り出すと、 「ふふ、嘘だと思うなら、試しにこれに着替えてみるといい」 そう言って歩実の前に置いたのは――ピンクの女児用Tシャツと、水色のデニムスカートだった。 (続く)