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仮想告白手記「娘ごっこ」(3)

  (3)  次に機会が訪れたのは、前述の出来事から半月ほどあとのことでした。  その日、私は息子と二人で、駅前に買い物に出ていました。  一緒に学校に着てゆく服(もちろん男児用です)を選んだ後、エスカレーター近くのベンチで一休みします。ちょうどフロアの半分ほどが見渡せる位置で、その中には、あの女児服を購入したブランドショップもありました。  ええ、わざとです。並んでお話をするときにこちらを向いた息子の視界に、そのショップのスペースが入るようにしたことも含めて。  しばらくして、息子の様子が落ち着かなくなります。私を素通りして遠くを見たかと思えば、少し赤くなってよそを向き、またチラリとそちらを伺う――思った通りの反応にちょっとおかしくなりながらも、私は気づかないふりをして、息子に尋ねます。 「どうしたの、龍ちゃん。向こうに、何かある?」 「えっと、あの……な、なんでも……」  口ごもる息子に笑いをこらえながら、わざとらしく女児服ブランドショップに「気付い」てみせて、 「あら、可愛い女の子のお洋服があるわね。龍ちゃん、気になるの?」 「そ、そうじゃないけど……!」 「ふふっ。気になるなら、素直に言ってくれていいのよ。可愛い女の子のお洋服、一緒に見ましょっか?」 「で、でも……ぼく、男の子なのに、見てたら変だって……」 「だいじょうぶよ。そうだ、じゃあ、こうしましょう」  私はこの時のために考えていた言い訳を、口にします。 「龍ちゃんには一つ年下の、同じくらいの身長の妹がいます。今日はその妹にプレゼントするために、可愛いお洋服を選びに来ました。こういうのは、どう?」 「え……ぼく、妹なんていないよ……?」 「ふふっ、そういう言い訳を作っておけば、誰かに見られたり、聞かれたりしてもだいじょうぶでしょ? それに――男の子が女の子の服が見てても、誰も、自分が着るだなんて思わないから安心していいわ」 「う……うん」  息子もようやく理解したようです。 「じゃ、見てみましょっか。気に入ったのがあったら、言ってちょうだいね?」 「べ、別に、ぼくが着たいわけじゃなくって……」 「うんうん、龍ちゃんは、可愛い妹のためにプレゼントを選ぶだけだもんね」 「う……そ、そう、妹のプレゼントを、選ぶだけ……」  子供は自分で考えた言い訳を、心の底から本当だと信じてしまう――とは言いますが、息子にも同じ現象が起きたようです。  手をつないで女児服ショップに入ると、たちまち息子は落ち着かなさそうにしていました。早くも真っ赤な顔で、入ったことを後悔している様子でしたが、逃げ出すこともできずにうつむいています。  私は気付かないふりをして、 「ほら、龍ちゃん。妹のためにプレゼントを選ぶんでしょう? どのお洋服がいいか、ちゃんと見ないとダメよ」 「う……うん……」 「あのワンピースなんてどう? 涼しげな水色で、肩のところが白いフリルになってて、スカートも広がって、とっても可愛いわよ?」 「う……」  やはり実際に入ると恥ずかしすぎるようで、息子は目を閉じてしまいます。  そこへ、 「いらっしゃいませー。あらまぁ、可愛いお子さんですね」  若い女性店員さんが近づいて、話しかけてきます。男の子だけを連れているのは珍しいらしく、少し驚いている様子でした。  私は素知らぬふりをして微笑み、 「ありがとうございます。ほら、龍ちゃん。お姉さんが挨拶してるわよ」 「ん……」  注意を促すと、息子は恥ずかしがりながらも店員さんに頭を下げて、 「あ、ありがとうございます」 「まぁ、礼儀正しくていい子ですね。お名前、お姉さんに教えてくれる?」 「はい! ぼく、やまい、りゅーいちっていいます! しょーがく、1ねんせいです!」 「龍太くんね。ふふっ、ちゃんとお名前が言えて、偉いわね。今日は龍太くんのお洋服を、見に来たのかしら?」 「ち、ちがいます! ぼくのじゃないです!」  息子は顔を真っ赤にして、かぶりを振ります。ですが子供のことでは気づきません。その反応がなによりも雄弁に、真実を物語っているのだと。 「あら、ごめんね、ぼく。そうよね、男の子だもんね」  店員さんはそう謝りながら、チラリと私に視線を向けます。  私は何食わぬ顔で、 「今日はこの子の妹のために、お洋服を見に来たんです」 「ね、龍ちゃん?」 「う、うん! そうなの! 妹のために、見に来たの!」 「まぁ、そうなんだ。偉いわね、妹さんのためにプレゼントを選ぶだなんて」  すっかり信じたような口ぶりの店員さんでしたが――その裏で私に向かって意味ありげな視線を投げます。私が意味ありげな笑みで返すと、彼女はすぐに、察したようでした。 「そうなんだ。ね、妹さんのお名前、お姉さんに教えてくれる?」 「な、名前……?」  予想すらしていなかったのでしょう。息子はしばらく口ごもっていましたが―― 「リュ――ル――ルミ――ルミ、っていいます……」  やがて口にした名前は、たまに見せている女児向け魔法少女系アニメに登場する、ピンク系のヒロインの名前であると同時に――龍太という自分の名前をもじったものであることに、私はすぐに気付きました。 (注釈:もちろん息子の名前は仮名です。なので、だいたいこんなような「妹」の名前を名乗った、と思ってくださいませ)   (続く)


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