仮想告白手記「娘ごっこ」(2)
Added 2020-06-28 09:05:48 +0000 UTC(2) ――すぐに息子の服を脱がせて、下着姿にした後、私はワンピースを着せてあげました。 息子は二回ほど、「ちょっと待って」と私の動きを止め、とても恥ずかしそうに眼を閉じて荒い息をつきました。スカートに足を通したり、袖に手を通したりすると、恥ずかしさが飽和して耐えられなくなるようです。そのたびに、私は気長に息子が落ち着くのを待ちました。 とても可愛くて似合ってるわよ、龍ちゃん―― すぐにそう言いたくなるのを、ぐっとこらえます。息子の心はいうなれば、羞恥心という液体をゆっくりと処理する濾過機のようなものです。あまり一度に注ぎ過ぎたり、余計なことを言って波紋を立てては、たちまち溢れ出してしまうでしょう。 ああ、でも、ピンクのワンピースを着た息子の、なんと可愛らしかったことか。 私の好みでやや長めの、おかっぱのような髪型にしていたため、じゅうぶん女の子らしくなっています。すぐにでもブラシをかけてあげたいのをぐっと我慢しましたが、中途半端に男の子らしさが残っているのも、これはこれで倒錯的です。 この上から、フリルエプロンを重ねます。肩紐を肩にかけ、背中で紐をクロスさせて、腰の後ろでリボンを結び、形を整えてあげます。 「んっ……」 きつく結ぶとき、息子が軽く声を発します。苦しそうな、しかしどこか甘い響きを帯びた声に、私は確信します。 息子も、女装が決して嫌なわけではない。 否、むしろ女の子をすることに胸をときめかせてさえいる。 ただし今は、恥ずかしさがそれを上回っているだけなのだ――と。 リボンを結んだ後も、エプロンの形を整えてあげます。肩紐を襟の下に入れて、肩のフリルを引っ張って、前垂れを綺麗に広げて――その間、息子は恥ずかしそうにもじもじしながらも、いつもとはぜんぜん違う格好をした自分の姿を見おろしています。 少し心に余裕がありそうだと見極めて、私は息子に尋ねます。 「どう? きつかったり、苦しかったりはしない?」 「う、うん。だいじょうぶ。でも――」 「でも?」 「ちょっと……恥ずかしい……」 微かに潤んだ声で答える息子に、私は思い切って、優しく言いました。 「ふふ、大丈夫よ。とっても良く似合ってるから」 「んっ……」 息子は顔を真っ赤にして、目を閉じました。しかし嫌がったり、やっぱり脱ぐとは言ったりせず、私がエプロンを直すに任せてくれています。どうやら、恥ずかしさの臨界を越えずにはすんだようです。 最後に、襟元に真っ赤なリボンを結べば、 「うん、これで出来上がり。とっても可愛いわよ、龍ちゃん」 「う……ほ、ほんとに? 変じゃない?」 半信半疑で見おろし、スカートをさわる息子。 「ええ。自分でも見てみない? すっごく可愛くなってるわよ」 「それは……えっと……」 見たいけど、恥ずかしくて勇気が出ない――そんな態度の「娘」に、 「ちょっと待っててね、いま、鏡を持ってくるから」 私は立ち上がって、リビングの隅に置いてあった姿見を転がしてきます。表に白い布がかかったままのそれを、息子の正面に置いて、 「じゃあ、布を取るわよ。3、2、1――」 息を飲んで見つめる息子の表情が、女の子になった自分を見てどう変わるか。 私のほうもいささか緊張しながら、 「ゼロ」 言うと同時に、白い布を引っ張って鏡を露わにします。 「わぁ……!」 ピンクのエプロンドレス――まるでメイドさんのような可愛らしい格好をした自分の姿を見た息子は、目を輝かせます。胸の前で合わせた両手をぎゅっと揉んで、 「こ、これ、ほんとに、ぼく……?」 「ええ。これが龍ちゃんの、いまの格好よ。すっかり可愛い女の子になって、びっくりした?」 「うん。ほんとに、女の子になっちゃったみたい……」 まだ信じられないように、手を挙げたり、自分の顔に手を当てたり(そんな挙動の一つ一つが、写真に撮っておけばよかったと後悔するほど愛らしかったものです)していましたが、やがて本当に自分の姿だと納得したようで、急にもじもじし始めます。 「ふふっ、見てて、恥ずかしくなっちゃった?」 「う、うん。だってぼく、男の子なのに、こんな――」 「大丈夫よ、龍ちゃん。言ったでしょ? 今日はお母さんの『娘』になってちょうだいって。だから今は、龍ちゃんは男の子じゃなくて、女の子なの。恥ずかしがることなんて、何にもないのよ」 「う、うん……」 恥じらいながらもうなずく息子に、私は改めてお礼を言います。 「ありがとう、龍ちゃん。お母さんの『娘』になってくれて」 「ど、どういたしまして」 「ふふっ……じゃあ、可愛い『娘』のために、プリンでも出してあげましょうか。椅子に座って、待っててちょうだいね。すぐに用意してあげるから」 「わぁ! ありがとう、お母さん!」 嬉しそうに言って椅子に座る「娘」。 その姿に微笑んで、私はおやつの用意を始めながら考えます。 せっかくなら下着や靴下、カチューシャなどもそろえてあげたほうがよかったかな、と思いましたが――用意していなかったのだから、仕方ありません。 それに―― 息子に見えないように、私は小さくほくそ笑みます。 この分なら、この後も口実を作れば着てくれそうだ、と。 (続く?)