SS「罰ゲーム」(1)
Added 2020-06-21 10:36:34 +0000 UTC「はーい、あたしの勝ち!」 「うわぁー、負けたー……」 休日の午後、対戦ゲームの結果画面を前に、兄妹は対照的な表情を浮かべていた。 妹は満面の笑みでガッツポーズを作り。 兄は悔しそうに肩を落とす。 顔立ちも背格好もよく似た兄妹だった。妹は小学五年生にしてはやや大人びた美少女だったが、中学二年生の兄も彼女とうり二つの、美少女めいた容姿をしているのだ。どちらもTシャツにスウェットのズボンという部屋着なので、兄が少年にしては伸びたおかっぱくらいの髪型、妹がゴムで結んだツインテールという違いさえなければ、見分けがつかなかったかもしれない。 「へへーん、じゃあ約束通り、罰ゲーム、受けてもらおうかな」 ウキウキと言う妹に、 「しかたない、お手柔らかにね」 はぁ、と兄はため息をつく。 年頃の割に仲のいい兄妹で、どちらも予定がない休日などは、よくこうしてテレビゲームで対戦している。勝った負けただけで盛り上がる二人だったが、今日は「勝った方が負けたほうの命令を一つ聞く」という罰ゲーム付きだったため、勝負はいっそう白熱した。 (いったいどんな「命令」を口にするやら) まぁせいぜい、おやつをよこせとか、夕飯の嫌いな野菜を引き受けろとか、そのあたりだろう――そんな風に考えていた兄に対し、 「じゃ――兄貴にはこれ、着てもらおうかな」 いつの間に用意したのか、妹が突き付けたのは、一着のワンピースだった。 形そのものはシンプルな半袖のシャツワンピースなのだが、メインカラーがピンクのため、少女趣味なデザインだ。やや丸みを帯びた白い襟に、ハートの刺繍と「Angelic Baby」のロゴ刺繍。左胸のポケットにハートと翼のアップリケ、ウエストリボンや裾の部分は赤無地の切替と、よく見れば凝ったデザインは実に女児服ブランドらしい。 なるほど、そう来たか――兄はあきれ顔で受け取りながら、 「お前……これ、最近お母さんに買ってもらったやつじゃないか」 「あ、よく覚えてるね、兄貴。買ってもらったって言うか、ママが買ってきたんだけど、正直あたしの趣味じゃないって言うか」 「もらった時は大喜びで着てなかった?」 「そりゃ、ね。気持ちは嬉しいし、ママに悪いじゃん」 そこまで言ったところで、妹は改めてにやりと笑い、 「っとと、話が逸れちゃったけど、罰ゲームとしてそのワンピースを着てちょうだい」 「う……他の罰ゲームじゃ、ダメ?」 「ダーメ。ダンシにニゴンはないって言うじゃん」 「逆セクハラだぞ、それ……」 兄は顔を赤らめながらも、仕方なく着ることにする。あんまり嫌がったり抵抗したりするのは男らしくないし、かえって気にしすぎているようで恥ずかしい。 妹は意地悪く笑いながらゲームに向かい、 「んじゃ、あたし一人で遊んでるから、兄貴は後ろで着替えててねー」 「はいはい。まったく、とんでもない罰ゲームだよ……」 ぼやきつつも立ち上がり、妹の後ろに回り込んでシャツとスウェットを脱ぎ、トランクス一枚になる。実はここは妹の部屋で、母親好みのピンクな部屋――これも妹自身はあまり好きではなく、モノトーンな兄の部屋を羨ましがっていたのだが――で服を脱ぐことそのものも、ちょっと落ち着かない兄だった。 「ごくっ……」 ピンクのワンピース。シンプルとはいえ、どちらかというとストリート系や小悪魔系ファッションが好きな妹が嫌がるのは判る。 前ボタンタイプなので着るのは難しくなさそうだが、心の準備は必要だ。深呼吸をして心を落ち着けた後、まずはウエストリボンをほどき、ボタンを外す。しかし一番下までは開かないためここで手が止まり、 「ええと、どう着ればいいんだ……?」 「ん? 手伝おうか?」 「い、いらないから! どうすればいいかだけ教えてくれたらいいから……」 「そんなこと言ったって、見なきゃ分かんないじゃん。ほらほら、観念して」 妹は振り返ると、トランクス一枚でワンピースを持っている兄の姿に「ぷっ」と噴き出して、 「あははっ、なんか兄貴、あたしの服をこっそり着ようとしてる変態っぽーい!」 「き、着ろって言ったのはお前だろ! それに見るなって言ったのに……」 「はいはい、もう見ちゃったんだから、今さらでしょ。とりあえず貸して」 「あ……うん」 素直にワンピースを渡すと、妹は受け取ったそのワンピースを、兄の体に重ねてみて、 「うんうん、サイズはピッタリだし、意外と似合っちゃうかもね。ほら、まずはここに足を通して」 「もう……」 ぼやきながらも、妹が足元に広げるワンピースのスカート部分に、おそるおそる足を踏み入れる。まるでその小さな一歩が、人生を狂わせる大きな一歩になるかのように。 (続く)