「強制女児女装志願」(2)
Added 2020-06-18 09:47:04 +0000 UTC第1の命令「女児下着を着用しなさい」 (1) 「前回渡した紙袋を開け、中に入っているものを着用しなさい。 着用したら、折り返しメールすること」 翌、土曜の昼過ぎに、そのメールは届いた。 送り主は「マキナ」。 先日、駅ビルの女児服売り場前で出会ったボブカットの女性だ。 美人と言っていいオトナの女性、つまりは「お姉さん」からメールが来るなんて、男子男子高校生としてはドキドキするべきなのかもしれない。けど、メールの内容は実に簡素なもので、名前通り機械(マキナ)的だった。もしかしたら偽名なのかもしれない。 ともあれ、心弾んでいることは変わらない。むしろ、心臓が痛いほどに高鳴っていた。 「あの袋を開けて、中の、ものを――」 声に出すと、気持ちがさらに高ぶってくる。 ぼくの手の中には、小さな紙袋があった。パステルカラーの水色に、白い糸車や紡錘がプリントされた包装は、あの「アンジェリック・ベイビー」と同じフロアに入っている女児下着ショップ「スピナー」のものだ。 つまり――中身はおそらく、女児用下着。 すでに手触りと重みから、中には下着――それも高校生がつけるようなブラショーツですらない、おそらくは女児用の下着が入っていることは察していたが、いまからこれを開けるとなると、緊張はひとしおだ。 すぐに開ける決心がつかずに袋を見つめたまま、ぼくは先日の「マキナ」さんとのやり取りを思い出した。 「なるほど、君は女児服を『着せられたい』んだ」 駅ビルの女児服売り場から、2階の喫茶店にぼくを連れて行った女性――マキナさんは、一通りの話を聞いてそう呟いた。 「はい。『無理矢理』『されたい』なんておかしいとは、自分でも思うんですけど」 「人間、そんなものよ。むしろ判らないままのほうがいいわ」 女性はニッ、と白い歯を見せて笑う。顔立ちそのものは怜悧な美人なのに、笑うと妙に人懐こい。 煙に巻かれている気がして、ぼくは曖昧にうなずいた。 けっきょくぼくは自分の性癖について、彼女にすっかり話してしまっていた。 女児服が好きなこと。 女児服を着る想像をすると、昂奮すること。 しかし自分から女児服を着たいわけではなく、出来るならば誰かに着せられたいと思っていること。 女性はフンフンとうなずきながら、 「なるほど、見込んだとおりね。面白い。実に、面白い」 ときおりそう呟いて、じっと僕を見つめていた。彼女の前に置かれたコーヒーは、話の途中からほとんど手がついていなかった。 対して、彼女自身の話はほとんど聞けなかった。ただ、あそこで女児服を熱心に見つめているぼくを見て、気になったから声をかけた――そう言っただけだ。 まぁぼくのほうも、身元につながるような話は全くしていない。お互いに名前も名乗らないまま、ただ性癖について話をしただけだ。仮に彼女によからぬ目論見があったとしても、大ごとにはならないだろう。 正直なところ、かなり怪しい女性だ。しかし、 「君の願いを、かなえてあげよう――」 彼女の言葉と、その時の笑顔に、どうしても抗えなかったのだ。 「で、願いをかなえてくれるって、言ってましたけど」 改めて話を戻し、懐疑的な目で彼女を見ると、 「いいね、君。すぐに飛びつかない疑い深さも、信用してないポーズをとる計算高さもある。ここまで名前も言おうとしないところも気に入ったわ。ま、お姉さんも名乗ってないからお互い様だけど」 そう言って、ハトのようにククッと喉の奥で笑い、久しぶりにコーヒーに口をつける。今度のは割と意地の悪い笑い方だ。 「じゃ、改めて自己紹介しよっか。お姉さんマキナ、職業は、まぁ想像にお任せするわ。君が女児服を『着せられたい』って言うなら――そうね、お姉さん脅迫されるって言うのは、どう?」 「きょ、脅迫って――そんな……」 「例えば、ね」 女性はテーブルに肘をつき、組んだ指の背に顎を乗せると、上目遣いにぼくの目を見た。 「お姉さんは君の趣味を知っている。学校も知っている。もしも君の顔写真付きで、学校に噂をばらまいたら、ちょっと困ったことになるよね? ――ああ、最後まで聞いて」 その時は知らぬ存ぜぬで押し通すつもりだ――そう言おうとしたぼくを押しとどめて、 「つまりね、君がもし、この脅しに屈するしかないと考えた場合には、君はお姉さんの命令に従うしかなくなる。お姉さんの言うとおりに、女児服を着るしかなくなっても――脅されてるんだから、仕方ないよね?」 「う……」 マキナと名乗る女性の言葉に、ぼくは押し黙る。 それは決して、脅迫に危険を感じたからではない。 脅迫されるという体を取れば、彼女に命令されるがまま女児服を着せられることができる、という甘美な誘惑に抗えなかったからで―― 「あ、いまのはちょっとグラっと来たでしょ? これで君は、お姉さんに逆らえなくなりました。OK?」 「う……は、はい……」 勢いに引きずられ、思わずうなずく。安易に流されてはいけないことくらい、わかっているのに、彼女の言葉と笑顔を前に、どうしても断り切れなかった。 (続く)