連載小説「J兄S妹」(2)
Added 2020-06-12 08:45:48 +0000 UTCトオルは鼻白み、 「な、なにも、そこに座らなくてもいいんじゃ……」 「やってあげるんだから、わがまま言わないの。ヘアゴムをつけて可愛くなるところを見たほうが、気分が上がるでしょ?」 「あ、上がらないし、見たくないから言ってるんだってば!」 「まーまー、自分でもできるようにならなきゃいけないんだから、ちゃんと見てなさい」 「うぅ……サキ、ぜったい楽しんでるでしょ……」 情けない声を出しながらも、トオルは渋々椅子に腰かけた。 正面の鏡に映っているのは、15歳の少年でありながら、すっかり女子小学生のような外見になってしまった自分の姿。それを見て、トオルはまた顔を赤くする。 サキはそんな兄を楽しそうに眺めながら、ドレッサーのヘアブラシを手に取って、 「まずはちゃんと、ブラッシングしないとね。今日から女子小学生なんだから、ちゃんと髪の毛もお手入れしないとダメだよ、お兄ちゃん」 「う、うん……」 髪が整えられ、いっそう艶やかさを増した。それだけでもじゅうぶん少女らしくなっていたが、サキはヘアゴムを手に兄の髪を弄ってゆく。 「そしたら、髪を一房つまんで、ゴムの輪っかを、そこに通して――飾りがついてるのとは反対側を引っ張って、一度ひねったら、くるくるって巻き付けていくの。それで最後に、輪っかを飾りに通して固定すれば――はいできた」 手品のようにあっという間に髪をくくられ、トオルは目を丸くする。 「飾りとは逆のほうを引っ張って、巻き付ける……」 「うん。慣れないうちは鏡を見てやった方がうまくいくから、明日からは少し早めに支度して、ちゃんと自分でできるように練習してね?」 「うう……やっぱり、ヘアゴムをしないとダメ……?」 「だーめ。まだ短くてヘアピンもいらないくらいだし、三つ編みや二つ結びもできないんだから、せめてピッグテールくらいにはしないと女の子っぽくないでしょ? そのまんまじゃ、男の子が女子制服着てるだけみたいになっちゃうよ?」 「うう、どっちも恥ずかしいんだって……」 往生際の悪いことを言いながらも、トオルは諦めて鏡の自分を見る。 リボン付きのヘアゴムで、左右を一房ずつ括られたピッグテールは、確かに何もつけないより、ずっと女の子らしくなっている。 「さ、これでいいよね。あとは帽子をかぶって、ランドセルを背負って、学校に行きましょ」 「う、うん……」 肯いたものの、トオルは太腿の上で組んだ指をもじもじと動かしながらうつむくばかりで、立ち上がろうとしない。サキはそんな兄をじっと見つめていたが―― 「お兄ちゃん――勃っちゃった?」 「っ……!」 「あははっ、やっぱりね。女子小学生の制服を着たから? それとも、女の子っぽくなった自分を見てたからかしら?」 「う……そ、その、両方……」 トオルは真っ赤になってうつむき、蚊の鳴くような声で答える。 とっくに小学校を卒業した年の少年でありながら小学生の、それも女子用の制服を着せられる――理性で考えればただただ恥ずかしいばかりのはずなのに、彼は奇妙な興奮を覚えてしまっていた。 少年でありながら、女子小学生の格好をしている背徳感。 男物とは明らかに異なる、女子制服の着心地。 特に太腿から膝にかけてを擦るスカートのくすぐったさと、その内側で股間からお尻にかけてを包む、女児用インゴムショーツの締め付けが、じわじわと昂奮を高めていた。 それでも先ほどまでは、ぎりぎり勃起を免れていたのだが――鏡の前で髪を結ばれて、すっかり女の子になってしまった自分の姿を見たことで、ついにこらえきれなくなった劣情がショーツを押し上げ、スカートの上からさえわかるほどのシルエットを浮かべるに至ったのである。 「もー、お兄ちゃんったら、女子小学生の格好をして昂奮しちゃうなんて、ヘンタイさんなんだから~」 それを見つめるサキの瞳の色が、血のような赤に変じた。 女子小学生とはとても思えない、淫蕩な笑みを浮かべて、 「うふふっ、これは早速、サキが抜いてあげるしかないわね、お兄ちゃん」 口調すらも、一変していた。年相応の、小生意気ではあるがまだまだ子供っぽい口調から、妙に大人びた潤みを帯びた声に。 トオルもようやく、妹の異変に気付いて振り返る。 「お前は――サキュバスのほうだな?」 「あら、バレちゃった。さすがお兄さんね」 「サキ」――いや、彼女の体を使っているサキュバスは、腕を組んだまま、にんまりと笑う。その口元に、先ほどまではなかった八重歯がキラリと覗いた。 (まったく、妹もとんでもない「拾い物」をしてきたもんだ――) 一週間前、帰ってきたサキに憑いていたのが、この自称「サキュバス」だった。彼女がほんとうに、さまざまな伝承で語られるところの淫魔そのものなのかは判らない。しかし決して、妹の悪戯や二重人格などではない異能を持った存在であることは、この一週間さんざん目の当たりにしてきた。 例えば、そう。 本来は高校生である藤山トオルが、今日から妹の同級生として女子小学校に通うことになったのも――このサキュバスの力の、一端なのだった。 (続く)