連載小説「J兄S妹」(1)
Added 2020-06-11 11:54:57 +0000 UTC「J兄S妹 ~女児な兄とサキュバスな妹~」 プロローグ (1) 藤山家二階、ドア一枚を隔てて、母親は息子に声をかける。 「トオル、着替え終わった?」 「ま、まだ、ちょっと待って……」 「早くしなさい。サキはとっくに着替え終わって、待ってるのよ」 「サキは制服じゃないから――とにかく、もうちょっと……」 「そんなに言うなら、サキに手伝ってもらいなさい。サキ、お願い」 「はーい」 母親はドアの前から離れて階段を降りてゆき、かわりにランドセルを背負った少女が、ドアの前に立つ。 顔立ちも表情も、幼さをのこしながらも勝気そうな美少女である。黒髪をヒョウ柄のシュシュでツーサイドアップに結いあげ、肩まで垂らしている。服装は黒×ピンク系の小悪魔ファッション。長袖Tシャツにチェックのスカパン、ふちにピンクのフリルがついた黒のオーバーニーソックスだ。胸元の黄色い名札には、 「5年1組 藤山沙姫」 と書かれていた。 彼女は一切の躊躇なくドアノブに手を掛けると、 「お兄ちゃん、はいるねー」 「ちょっ、まっ――!」 少年の制止は、もちろん間に合わなかった。 サキは兄の姿を確認してニマッと笑い、 「なんだ、お兄ちゃん。もう、ほとんど着替え終わってるじゃない」 「うう……見ないで……」 部屋の中央の兄――トオル。 15歳の少年だが、とてもそうは見えない。一卵性双生児かと思うほど妹によく似た顔立ちだが、あちらが太陽ならこちらは月。睫毛の長い優しげな眼もとといい、小ぶりで艶やかな唇といい、男子にしてはいささか柔弱に過ぎるほどだ。やや伸びた豊かな黒髪も、日本人形めいた美少女ぶりに拍車をかけていた。 そしてその服装も、高校に通う年の少年らしからぬものだった。 大きな丸襟に、細い袖口の長袖ブラウス。 襟元に結んだ、臙脂色の紐リボン。 紺色の吊り紐がついた、プリーツスカート。 襟のない、いわゆるイートンジャケット。ダブルボタンで、色は紺だ。 いわゆる小学校の女子制服一式である。普通なら、15歳の男子がこんなものを着たらシュールなカリカチュアにしかならないだろうが、彼にはひどくぴったり似合ってしまっていた。ともすれば、高校の男子制服よりもずっと。 胸元にはちゃんと黄色い名札もついていて、 「5年1組 藤山徹」 と書かれていた。 学習机の上には、きちんと教科書とリコーダー袋が詰められた赤いランドセルと、女子用の丸いつばがついた黄色い通学帽も置いてある。 サキは腕を組んで、兄の姿を舐め回すように眺め、 「うんうん、似合ってるよ、お兄ちゃん。どこからどうみても、女子小学生にしか思えないくらい」 妹の揶揄に、兄はますます顔を赤くして目を伏せる。 「うぅ、そんなこと言われても、嬉しくないって……」 「ちょっと、お兄ちゃん。可愛いって褒められたんだから、そこは『ありがとう』って返すのがレーギでしょ?」 「さ、サキはぼくのこと揶揄ってるだけでしょ!」 「あははっ、まーねー。でも、外で褒められたらちゃんとお礼を言わなきゃダメなんだから、その練習だと思って、ほらほら」 「ううう……あ、あり、がとう……」 悔しそうにお礼を搾りだす兄の姿に、妹は目を細めて舌なめずりする。シュシュのヒョウ柄のせいもあって、さながら獰猛な肉食獣だ。 「ま、それはそれとして、あとは帽子をかぶって、ランドセルを背負うだけじゃん。どうしたの?」 「そ、そうだけど、その……」 赤くなってもじもじする兄のようすを、妹はしばらく見ていたが、 「もー、恥ずかしいからって、ぎりぎりまで学校に行くのは嫌だってわけにもいかないでしょ? 遅刻したら、それこそもっと恥ずかしいんだから」 「そ、そうじゃなくて……いや、それもあるんだけど……」 トオルはおずおずと、手に持っていたもの――赤いリボン飾りがついたヘアゴムを見せる。 「これが、何度やってもうまくつけられなくて――」 「んふふっ、なるほど、そういうこと。確かに、制服を着るより難しいかもね。女子小学生一日目の、お兄ちゃんには」 「うう……だから、その……髪飾りは、つけないで登校したいんだけど――」 「だーめ。ほら、つけてあげるから、お兄ちゃんはそこに座って」 そういってサキが指さしたのは、少年らしくも清潔感のあるこの部屋にあって、やや異彩を放つ家具――繊細な装飾が施された純白のドレッサーの、前に置かれた椅子だった。 (続く)