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連載小説「女児装転生」(1)

 第一話「転生とサキュバスと」   (1)   ブラック労働は恐ろしい。  奴隷商船のごとき満員電車での通勤、上司や取引先から浴びせられる罵声、連日深夜に及ぶサービス残業。体力と精神をすり減らしながら得られたものは、30前にしてボロボロの体だけ。実家からも勘当同然、彼女を作るどころか友達との付き合いもなく、唯一の楽しみはSNSや創作系サイトでイラストや漫画を漁ることという、社会性偏差値Fランクな人間――つまりこの俺、藤山徹が出来上がっていた。  2週間ぶりの休日も、午後3時過ぎに目を覚まして空腹を感じたもののベッドから出る気力もなく、上体だけ起こしてスマホをいじり、お気に入りの作家や絵師の更新をチェックしていたのだった。  ジャンルはいわゆるロリモノである。可愛い少女のイラストを眺めていれば、ささくれ立った上に塩を塗りこまれたような心も癒されようというものだ。無垢で無邪気な美少女は、見ているだけでも心の洗濯だ。 「あー……」  絵を見ながら、半開きの口から亡者のような虚ろな声を漏らす。  とはいえ俺はロリコンではないので、ヤりたい、という気持ちはそんなにわかない。何しろ相手は年端も行かぬ少女なのだ。チンコを突っ込んでも痛がるだけだろうし、お兄ちゃんと慕われるのも荷が重い。  むしろ―― 「女子小学生になりたい……」  俺自身も美少女になって、女子小学生たちの輪に混ざりたい。一緒に遊んだり、勉強したり――ああ、可愛い服を着たり、女の子っぽい遊びをしたりするのもいいな。こんなくたびれたおっさんでは、ぜったいに味わえない楽しみだ。実はTSモノも好きだったりするのだが、それはさておき。  日頃の3%しか動いていない頭でSNSを開き、口にした内容をそのまま「つぶやき」にする。 「女子小学生になりたい」  なにしろ情報収集にしか使っていない、呟き2ケタ、フォロワー1ケタのアカウントだ。ほとんど誰にも見られていないし、何の反応もない、チラ裏同然の一文――そう思っていたのだが。  突然の通知アラームに、思わずスマホを取り落としそうになる。 「な、なんだ……? ダイレクトメッセージが届いています……?」  どうせ怪しいヤツだろう。そうおもって開くと、そこには予想を上回る怪しい内容が書かれていた。 「あなたの願いはなんですか? このサイトにアクセスして、あなたのなりたいをかなえましょう!」 「……うわぁ」  思わず声が出た。おそらく「なりたい」の一文に反応して送ってきたのだろうが、ここまで怪しいと逆に笑いがこみあげてくる。 「女子小学生になりたい――なんて願い、叶えられるわけがないだろ」  即座に閉じてスパブロにぶち込むのが正しい対応だったが、俺は口の端に変な笑いを浮かべたまま、そのサイトのURLをクリックしていた。もちろん本気ではない。半信半疑どころか1信99疑くらいだ。それでも開いたあたり、この時の俺は相当に疲れていたんだろう。  画面が白く変わり、ページが開いた瞬間、意識がふっと遠くなって――  気が付けば、女の子の部屋にいた。 「え……?」  目を疑う。 数秒前までいた、薄汚くも殺風景な四畳半ではない。内装も、家具も、パステルカラーで少女趣味な――女の子の部屋、としか言いようがない空間だった。 「え、え……? ここ、どこ……?」  ついで、耳も疑う。  呟く声は、先ほどまでの自分の声よりずっと透き通った高いもので、さらなる驚きに思考が停止する。 と、とりあえず室内を見回して状況の把握に努めよう。  現在地点はベッドの上で、上体を起こしているところまで同じ。しかしそのベッドは、いつもの煎餅布団と、寝返りを打つだけで軋む安物ではなく、ふかふかの羽毛布団と、スプリングの効いた快適なものだ。  しかも掛布団カバーはピンクのギンガムチェックで、ふちにはフリル。敷布団カバーは淡いピンク無地。枕は濃いめピンクのハート柄で、その横にはクマとうさぎのぬいぐるみまで置いてある。何より頭上にはお姫様のベッドのような天蓋がついていて、ポールに結ばれたピンクのカーテンがドレープを作っていた。  壁紙はピンクのストライプの間にバラが描かれたもの。床には毛足の長いカーペットが敷かれ、天井も明るいピンク。  さらに家具も、学習机、本棚、クローゼットに、大きな姿見、低いテーブルに、果てはドレッサーまで――どれもこれも白やピンクを基調にして、繊細な意匠を凝らした瀟洒なデザインのものばかり。それでいてところどころにハートがあしらわれているのが、現代の少女向けだ。  いや――しかし、そんな、まさか。 「本当に、俺、女子小学生になっちゃったのか……?」   (続く)


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