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「おむつぐみ」(82)

「――以上で、おむつ交換はおしまい。みんな、わかったかな?」 「はーい!」 「これからはみんなにも、みーたんのおむつ交換を手伝ってもらうことになるから、おうちでもママと一緒に動画を見て、ちゃーんとお勉強しておくのよ?」 「はーい!」  貴子の問いかけに、元気よく返事をする少女たち。  しかしその中心では、和実が精魂尽き果てたという表情で横たわっていた。すでにおむつは新しいものに替えられた上、おむつカバーも当て直され、ブルマーまできちんと「おむつ組」制服を着せられていたが――少女たちに取り囲まれ、彼女たちの視線と声を浴びながらおむつ交換される恥辱は、今まで以上につらいものだった。 (いくら赤ちゃん扱いの「おむつ組」だからって、おむつ交換まで撮影するのはやりすぎだよぉ……しかもそれを、園児たちのおうちに配るだなんて……) (はぁ、でもこれで、やっと終わり……かな?)  もうこれ以上のことはないだろうと期待半分、不安半分考えていると、 「じゃあみんな、元の場所に戻ってちょうだい」 「はーい!」 「みーたんも、たっちしてちょうだいね」 「んっ……」  ようやく園児たちや初等部以上の生徒たちも元の場所に戻り、和実はほっとして立ち上がる。足元のおむつ交換マットも片づけられ、公開おむつ交換前と同じ状態になったところで、司会の女性が再びプログラムを読み上げた。 「続いて――『おむつ組がかり』代表の挨拶を行います」 (「おむつ組がかり」……?)  先ほど耳にしたワードに、和実は目をパチクリさせる。どうやら初等部、中等部、高等部からそれぞれ選ばれた生徒のようだったが―― 「『おむつ組がかり』代表、藤原さん、お願いします」 「はい」  凛としながらもしっとりと落ち着いた声は、陸奥学園高等部のブレザー制服を着た黒髪の少女――藤原千代のものだった。彼女はその場から一歩前に出て、優美な仕草でお辞儀すると、 「僭越ながら『おむつ組がかり』代表を拝命しました、藤原千代と申します。まずは倉石和実くん――みーたんのご入園を、心からお慶び申し上げます。  わたくしたち『おむつ組がかり』はこれから一年間、学校間交流、並びに体験学習の一環として、附属女子幼稚園の園児のみなさんとともに、みーたんのお世話をさせていただくことになります。どうぞよろしくお願いいたしますね」 「よろしくおねがいしまーす!」  千代の声に、園児たちは声を揃えて返事する。  ただ一人、和実だけが舞台の上で青くなって、 (そ、そんな――高等部と幼稚園で別々になったから、少なくとも幼稚園では見られることはないと思ったのに……しかも、中等部や初等部の子たちも、ぼくの「お世話」に来るなんて……)  驚きに凍り付いている間に千代の挨拶も終わり、 「――以上で、特別入園式を終わります。新入生の倉石和実くん、どうぞご退場ください」 「んっ……」  安堵から気が抜けて、和実はその場にへたり込む。すでに脚の筋肉も、限界近くまで疲労がたまっていたのだ。 (うう、赤ちゃんみたいに座りこんじゃうなんて、恥ずかしい……!) 「ふふっ、みーたんには、ちょっと大変だったみたいね。お疲れ様」  そばにいた水無瀬貴子が、労うふりをして揶揄ってくる。 「さ、あとは来たときと同じように、ハイハイして退場するだけよ。段差を降りるときは危ないから、ちゃんと足側から降りなさいね」 「んぅ……」  和実は恨みがましい声を漏らしつつも、言われたとおりに足側から舞台下に降り、入場とは逆向きにハイハイする。今度は少女たちと向かい合わせにすれ違うような状態になるため、恥ずかしさも倍増だ。 (うう、改めて見ると、こんなたくさんの園児たちの前で、おむつ交換されちゃったんだ……おちんちんも見られて、しかも、先生にしごかれてるところまで……なんだかまだ、現実感がないよ……) (でも……みんな、優しい「お姉ちゃん」でよかった……)  幼稚園児はみんな笑顔で、ハイハイする和実を見おろしている。それは完全に、落第した元高校生の少年ではなく、「おむつ組」の赤ちゃんを見守る目だった。 「ん……」  羞恥に満たされていた胸に、ほんの少しだけ甘いものが混じる。 (これからぼく、あの「お姉ちゃん」たちに、赤ちゃんとしてお世話されるんだ) (「おむつ組の誓い」の通り、おむつを替えてもらったり、着替えさせてもらったり、ご飯を食べさせてもらったり) (恥ずかしい、恥ずかしい、けど――) (しょうがないよね。だって、ぼくは、「おむつ組」の赤ちゃんなんだから……)  お尻をふりふりハイハイを続け、ようやく体育館の外へ出たところで、少し遅れて出てきた貴子が、彼の前にしゃがみ込んで頭を撫でる。 「ふふっ、入学式お疲れさま。ちゃんと『おむつ組』の園児として入園できてよかったわね、みーたん。いいこいいこ」 「う、うんっ……」  少女のように撫でられる恥ずかしさにまた赤くなりながらも、和実は心から肯く。 (なによりこれで、ようやく解放される――)  今後は「おむつ組」として幼稚園生活を過ごさなければならない以上、嫌がってばかりもいられないことは判っているが、それでもリアル園児たちに囲まれるのは恥ずかしい。だいぶ気が抜けて脱力していると、 「さ、それじゃあ記念撮影があるから、移動しましょうか。今度はたっちして、先生についてきてちょうだい」 「んぅっ!?」  貴子の言葉に、羞恥に満ちた入園の一日がまだ終わっていないことを悟るのだった。   (続く)


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