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「おむつぐみ」(79)

 お礼の言葉に、少女たちはまた盛り上がって、 「うふふっ、どういたしまして!」 「よかったね、みーたん!」 「おもらし、気持ちいいのかなぁ」  口々に返事したり、隣の子と囁き合ったりする。普通の幼稚園児たちに比べればずっと大人びているとはいえ、やはりまだまだ子供だ。  少女たちの喧騒に、またも羞恥心を苛まれる和実に、、 「ふふっ、ちゃんとお礼を言えて、偉いわねぇ」  水無瀬貴子が、先ほど和実が落としたおしゃぶりを拾って笑う。ハンカチで丁寧に拭いたあと、舞台の上に上がって彼の口元に突きつけながら、 「はーい、みーたんの大好きなおしゃぶりでちゅよー。はい、あーん」 「う……あーん……」 「うんうん、大好きなおしゃぶりを咥えられて、よかったでちゅね。じゃ、ちゃんとおもらしもできたことだし、改めておむつ交換してあげるから、ちょっとまっててくだちゃいね~」 「う、うん……」 (ほんとうに、ここでおむつ交換、するんだ――)  「おむつ交換」のていとはいえ、幼稚園の少女たちの前で下半身を露出する――あまりにも異常なシチュエーションに、かえって感覚がマヒしてくる。パッと目を覚ましたら何事も無い高校生の日常に戻っているのではないかと思ってしまうが、とうぜんそんなことは起きず、異常な「現実」が続行される。  貴子は舞台の上――和実のすぐ横に、すでに用意してあったおもらし交換マットを敷く。白いタオル地の隅に、ピンクのうさぎが刺繍された可愛らしいものだ。 「はい、みーたん、この上にごろーんってしてちょうだーい」 「んっ……」  和実はハイハイしてその上に移動すると、いつもどおり仰向けに寝転がって、膝を立てて足を広げ、軽く握った両手を顔の横に置く――おむつ交換してもらうポーズになる。見上げると、視界に映るのは照明と骨組みが複雑に入り組んだ舞台独特の天井ばかりで、 (でも、この体勢なら、逆に幼稚園児たちは見えないから、ちょっとだけ気が楽かも。角度的にもそんなばっちり見られてるってわけじゃないし……いや、見られてることには違いないから、やっぱり恥ずかしいんだけど、ちょっとだけ……)  針の先ほどではあったが、安堵する和実。  しかし――次の貴子の言葉に、彼はまた凍り付くことになる。 「はーい、みんな! いまから、みーたんのおむつ交換を始めまーす! これからみんなでみーたんのお世話をすることになるから、舞台の上に上がって、おむつ交換のやりかたをちゃーんと見ておいてねー!」 「はーい!」  貴子の号令に、今まで大人しく整列していた少女たちが、一斉に前に集まって、次々と舞台に上り始める。 (え、え……!?) (そんな……ぼく、幼稚園児の「お姉ちゃん」たちに見おろされながら、おむつ交換されちゃうの……!?)  戸惑っている間にも、和実の視界の外周を少女たちの顔が埋め尽くしてゆく。興味津々に目を輝かせる子、まだ信じられなさそうに戸惑っている子、ちょっぴり意地悪に笑っている子――反応は様々だが、そのどれもが和実を辱めるには十分だった。 「んーっ、ふーっ、んーっ、ふーっ……」  緊張と昂奮、そして先程の快感の余韻に、鼻息が荒くなる。 「さぁ、みんなちゃんと、見えてるかな? あ、ちゃんと見えなくても心配しないで。ちゃーんとおむつ交換の様子は撮影して、みんなに送ってあげるから、それを見返しておぼえてちょうだいね」 「はーい!」  貴子の呼びかけに、元気よく返事する少女たち。  しかし和実はさらに混乱して、 (さ、撮影!? しかもそれをみんなに送るって――じゃあ、こうしておむつ交換してる映像が、幼稚園児たちみんなの家に――!?)  さまよう視点が、ちょうど正面――和実の足元に立ってカメラを構える千代を捕らえる。  彼女は和実の視線に気づくとにっこり笑って、 「大丈夫ですよ、みーたん。おむつ交換の様子は『おむつ組委員』の委員長であるわたくしがきちんと撮影して差し上げますから、安心して、水無瀬先生におむつ交換してもらってくださいませ」 (そ、そんな……! っていうか、「おむつ組委員」!?)  次から次へと予期せぬ展開と新しい情報が飛び込んできて、頭が真っ白になる和実。  しかしこの場の誰も、そんな彼に助け舟を出す者はおらず―― 「それじゃあ今から、みーたんのおむつ交換を実演していきます。みんな、ちゃーんと見ていてちょうだいね」 「はーい!」  幼稚園児たちが見守る中で、悪夢の「公開おむつ交換」が始まったのだった。   (続く)


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