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販売作品冒頭部分(仮)

 「おむつぐみ」を再開するのも区切りが悪いので、現在販売用に準備している作品の冒頭部分を。  もともとは『変態女装趣味に理解がありすぎるママ』として書き始めたものですが、構想段階でお姉さん成分が強くなってきたので改題すると思います。仮面優等生の変態女装少年が、母親やお姉さんに性癖バレしたのに逆に優しく協力してもらうお話です。  *  季節外れに強い日差しが降り注ぐ、初夏の昼過ぎだった。  20年ほど前に小高い山を造成して作られた、新興――というにはいささか古びた住宅地。起伏の残る土地に画一的な庭付き一戸建てが並び、罫線のように生活道路が走っている。  その住宅街を、一人の少年が歩いていた。  身長160センチ足らずの、華奢な少年だ。グレーの細い格子柄の長袖シャツに、濃紺に白いラインの入ったニットベスト、キャメルのチノパン。肩には重たげなショルダーバッグを掛けている。  彼は迷うことなく目的の家――「三澤」の表札がかかった自宅にたどり着くと、鉄格子の門扉を開けた。  そこへ、ちょうど隣の家から道路に出てきた若い女性が彼に気付いた。彼女はワイン色のショートコートの前ボタンを外し、微笑みながら少年に声をかける。 「こんにちは、マナブくん」  少年――大学生の三澤学は、女性に体ごと向き直ると、丁寧に一礼した。 「こんにちは、栗原のお姉さん」 「もう、相変わらず堅苦しいわね」  女性――栗原天花は仕方なさそうに笑う。  「堅苦しい」――それはまさに、三澤学という少年を表すに相応しい言葉だった。  容姿そのものは線が細く、顔立ちも童顔で、少女めいている。  眼鏡の奥の目にかかる長い睫毛。  珊瑚色の艶やかな唇と、細いおとがい。  ボブカットに近いほど伸びた、豊かな黒髪。  背も低く、骨格も肉付きも華奢な体は、50キロあるかどうか。声すらも、変声期を忘れてしまったかのように高く澄んでいた。  この春に大学生になった男性とはとても思えない、少年――いや、少女と見間違うほどの外見だ。しかしピンと伸びた姿勢と、引き締まった表情のため、弱々しい印象はいささかもなく、年齢相応に見えるほどの凛々しさと威厳を具えていた。  子供のころから付き合いがある天花ですら、彼が頬を緩めて笑う場面など、ついぞ見たことはなかった。 「もうちょっと砕けてくれてもいいのに――って、言っても仕方ないわね。マナブくんはこれが素なんだし。お姉さん、って言ってくれるだけいっか」  天花は小さく、ため息をつく。  マナブより二つ上で、女子大に通っている。女性としては長身で、男子のマナブと比べてもほとんど変わらない。むしろヒールの付いたパンプスを履いている分、天花のほうが高く見えるほどだった。 くっきりとした、意志の強そうな眼もと。  背中に艶やかに波打つ、亜麻色の髪。  腰から大きく広がる、細かなプリーツのロングスカート。  そして羽織ったショートコートの間――白いタートルネックセーターの上からでも判る、豊満なバスト。  男性であれば思わず目が吸い寄せられるその双丘を、天花は強調するように腕を組むが、マナブは表情一つ動かさない。 「はい、すみません」 「謝らないで、もう」  天花はもう一度、仕方なさそうに笑って、 「あーあ、マナブくんも、大学に入ったらちょっとは遊びをおぼえるかと思ったのに」 「大学は勉強するための場所ですから。もちろん、遊び重要性は知っていますが」 「えー、本当にわかってる?」 「はい。学習や労働による肉体的・精神的疲労を緩和し、柔軟な発想を生みやすくしたり、作業を効率化したりするために欠かせない行為だと理解しています」  眼鏡を中指で押し上げながら言うマナブに、天花は大きくため息をついて、 「やっぱり、わかってないじゃない、この堅物くん」  指を伸ばして、マナブのおでこをちょんと押した。  マナブは頭上に疑問符を浮かべながらも、話題を変える。 「お姉さんは、おでかけですか?」 「ええ、これからバイト。マナブくんは大学帰り?」 「はい。夕方からアルバイトなので、早めに帰ってきたんです」 「お疲れさま。それじゃ、もう行くわね」 「はい、行ってらっしゃい」  じゃね、と片手を振ったあと、天花はコートのボタンを留めながら立ち去った。  マナブはその背中を、やや後ろめたそうな表情で見送った後、 「本当に堅物、ってわけでもないんだけどね――」  小さな声でそう呟いて、改めて門扉を開いて、自宅の庭へと入っていった。


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