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「おむつぐみ」(67)

 パフパフされるたびに絶頂に達すること、しばし――  文字通り精根尽き果てた和実は、ぐったりと四肢を弛緩させて脱力し、激しい運動の直後のように喘ぎながら、ときおり不随意に痙攣するばかりになった。 「はっ、はぁっ……」 「ふふっ、おちんちんぱふぱふ、気持ちよかった?」 「う……うん、しゅごく、きもち、よかった……」 「良かった。それじゃ、パフパフも済んだことだし、おむつを当て直すから、また指示を出してちょうだいね」 「は、はぁい……」  和実は頭を切り替えて、今度はおむつを当ててもらうための指示を出す。  股間を隠すようにおむつを当て、横向きにした一枚で押さえるようにする(この指示を忘れていたため、もう一度おむつを敷きなおさなければならなかった)。その上からおむつカバーの横羽をマジックテープで留めて、前当てをかぶせてスナップボタンを閉じれば完了だ。  あとはロンパースの裾を下ろして、クロッチ部分を留め直せばおしまい――かと、思いきや。 「そうそう、おむつ交換試験のあとは、おきがえの試験もしないとね。制服、持ってきたわよね?」 「う、うん……りゅっくの、おくに……」 「リュックの奥――あった、これね。それじゃあみーたん、制服にお着換えするために、まずはロンパースを脱がせてあげる。またお座り、してちょうだい」  和実はいったんコロンと転がってうつぶせになってから、起き上がり、先ほどのように床の上に座り込んで、 「みーたんの、ろんぱーちゅ、ぬぎぬぎさせて、くだちゃい……」 「いいわよ、みーたん。ばんざーいって、してちょうだい」 「ば、ばんじゃーい……」  言われるがまま両手を上げると、貴子がロンパースの裾を握って持ち上げ、脱がせてくれる。そしてブラウスも、上から順にボタンが外されてゆく。 (ボタンを外すくらい、一人でできるのに――赤ちゃんみたいにやってもらってると、それだけで恥ずかしいよぉ……) (ほんとに……「ぼく」じゃなくて、幼稚園児の「みーたん」になっちゃう……!) 「はい、ブラウスも脱がせてあげたわよ、みーたん」 「あ、ありがとう、みなしぇ、ちぇんちぇい」 「どうしたしまして。じゃ、つぎはこっちのブラウスに、お着換えしましょうね」  そして着せられるのは、昨日今日と着せられた「おむつ組」の制服――丸襟ブラウス、黄色ギンガムチェックの吊りブルマーに、水色のジャケットと、ピンクのリボン。ボンネットも、通園帽子風の黄色いものに替え――名札以外はすべて着用を終える。 「う、うぅ……」 「どう? ちょっとは『おむつ組』の制服に、なれたかしら?」 「あ、あんまり……だってこんな、はじゅか、ちい……!」 「ま、すぐには無理よね。ほんとうはもう高校に通ってるはずの、男の子なんだし」 「う、うううっ……!」 「でも、なるべく早く慣れるようにしてちょうだいね、みーたん。そのためにも――ほら、こっちに来て、鏡を見て」  そう言いながら貴子が向かったのは、「ほいくべや」の一面に貼られた鏡の前。部屋全体が見渡せると同時に、「おむつ組」の制服を着た和実自身の姿もそこには映っている。 「うん……」  あまり直視したくはなかったが、指示とあれば仕方ない。和実は貴子の横に立つと、「制服」を着せられた自分自身を間近で見る。幼稚園児のようでありながら、下はスカートですらない、お尻にフリルの付いた「吊りブルマー」――そんなものを自分が身につけていることに、情けなさと恥ずかしさがこみあげてくる。 (しかも昨日は、こんな格好で昼日中の駅前を歩いて、沢山の人に見られて――)  思わず顔をゆがめ、鏡から目を逸らす和実だったが、 「そんな泣きそうにならないの。ほら、鏡をまっすぐ見て、笑ってごらんなさい」 「う……うん……」  注意され、仕方なく鏡に視線を戻す。しかし表情はすぐに変えられず、眉間にしわが寄ったままだ。 「うーん、しょうがないわね。いったん目を閉じて、深呼吸して、リラックスしてちょうだい。そしたら意識して、口の両端を持ち上げるようにして笑うの。いい?」 「う、うん」 「そうそう、いい感じよ。子供か赤ちゃんになったつもりで、精いっぱい無邪気に微笑んでみるの」 「う……こう?」 「うん、いいわ。じゃあ――もう一回、目を開けてごらんなさい」  貴子に導かれるままに、和実はゆっくりまぶたを上げて―― 「あっ……」  そこにいたのは、確かに和実自身。  しかし先ほどまでの情けない表情ではなく、無垢な微笑みを浮かべた自分の姿は、驚くほど「おむつ組」の制服とマッチしていた。恥ずかしいことに変わりはないが、笑顔を浮かべているだけでポジティブな印象になる。まるでこの制服がまんざらでもない、照れ笑いのようにすら見えた。 「どう? ちゃんと笑うだけで、ずいぶん可愛くなったでしょ?」 「う、うん……びっくり……」 「これからはこの笑顔を心掛けなさい。そうすれば、『おむつ組』生活もずっと楽しくなるわ。和実ちゃん自身も、他の子たちも、周りの大人たちも――ね」 「うん……」 (そっか、そうだよね……辛気臭い顔をしてたら、他の園児たちにまで嫌な思いをさせちゃうんだ……ちゃんと笑って、「園児」になりきらないと……)  表情一つで、心の持ちようも変わる――表情筋が心理状態に及ぼすフィードバックによって、彼の心はすっかり軽くなっていた。  そして、さらに―― 「じゃあ、鏡に向かって自己紹介の練習をしてみよっか」 「じ、じこ、ちょうかい……?」 「ええ。笑顔のまま、最初の時みたいに自己紹介してちょうだい。『お姉ちゃん』達にする前の練習だと思って――ね」 「う、うん……」  和実は少し緊張しながらも、笑顔のまま鏡の中の自分に向かい、 「は、はじめまちて! みーたんは、むちゅがくえん、ふぞくの、じょちようちえん、とくべちゅくらしゅ、お、『おむちゅ組』の、くらいち、かじゅみ、でちゅ! み、みーたんって、よんでくだちゃい!」  そう言った瞬間――彼の中で、何かが軋むような感覚があった。   (続く)


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