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「雑に女子制服を着せられて」(1)

 (1) 「お母さん。質問なんだけど――」  四月一日。  この春から通う高校の制服が届いたため、一階のリビングにおりて箱を開けた少年は、中に入っていたものを見て、母親をジト目で睨む。 「なんか、女子制服も一緒に入ってるんだけど?」 「そんな怖い声出さないで、マナちゃん」 「ま、マナちゃんいうな! もう高校生なんだから、ちゃんとマナブって呼んでよ!」 「いいじゃない、うちの中なんだし」  反省の色もなく笑う母親。とても高校生の子持ちとは思えない若々しさだ。 「お母さん、注文票に書き足したでしょ? ぼくはちゃんと男子用の制服だけに記入したはずなのに――」 「うん。郵便局に出すからって預かったときに、書き足しちゃった」 「なんで!?」 「だって――せっかく清純学園附属高校に進学したんだから、女子制服もそろえないともったいないでしょう?」 「その理屈はおかしいって……」  清純学園附属。  五年ほど前から共学化された名門女子高である。とくに有名なのが制服のデザインで、細い丸襟のブラウスに、上品なグレーのジャンパースカートと、フォーマルな紺のボレロ、というコーディネートだった。襟元に結ぶリボンは学年によって違い、一年は可愛らしい赤、二年はクールな水色、三年は大人びたグリーンになっている。ちなみに男子制服は、グレーのズボンに紺の詰襟という、ごくありふれたものだ。  その男女の制服が、箱の中に両方とも入っていた。サイズはどちらも150――15の少年としては小柄なマナブに、ぴったりのサイズで。 「気持ちはわかるけど、女子制服なんて買って、いったいどうするつもりなのさ? お母さんが着るっていうんなら――」 「あ、それもいいわね! もう一着、ママのサイズでも注文して――」 「ごめんなさいそれはやめて」  本気で考え始めた母親に、マナブは慌てて止めに入る。この母親なら、本気でやりかねない。 「ま、冗談はさておき――マナちゃんに着て欲しいなと思って、買っておいたのよ。学校に着ていくのは無理でも、おうちの中とか、外出着にすれば」 「し、しないからね! 別に、ぼくは女子制服なんて着たくないし!」 「いいじゃない、いつもみたいに着てちょうだい。いまだって、ガールズを着てるじゃない」 「着てるのがおかしいんだってば……」  マナブの母親は大体いつも、こんな感じだった。  彼自身は服にお金を使うタイプではないので、いまだに母親が勝ってきたものを着ているのだが、そのことごとくがガールズ。シャツはパフスリーブだったり、パーカーにはレースがついていたり、パンツはショートパンツだったり――スカートやワンピースも当然のようにたくさんあり、彼のクローゼットの九割はガールズである。ちなみにすべて、一度は着せられている。  いま着ている服もそうした服の中では比較的おとなしい、白の長袖シャツに水色のキャミソールチュニック、ベージュのカボチャパンツだった。ちなみに下着も、学校に行くとき以外は女子用である。 「はぁ、高校に上がったんだし、ちゃんと自分の服はアルバイトして買おう……」 「あらあら、残念ねぇ。まだまだ着せてあげたいお洋服はたくさんあるのに。ちょうど洋裁にも、手を出してみようと思ってたのに」 「も、もういいでしょ? そんなに可愛い服を着せたいなら、お隣のレナちゃんにでもあげたらいいじゃん」 「だめよ。マナちゃんに着て欲しいんだもの――って、話がそれたわね」  母親は改めて、箱の中から女子制服の一式を取り出して、それを息子に差し出す。 「とにかく、せっかく買ったのに着ないなんてもったいないから、着てちょうだい。ね?」 「う……い、一回だけだからね……」  もはやいつものこととはいえ、恥ずかしいことに変わりはない。マナブは女子制服を受け取ると、二階の自室に行き、特に着方に迷うこともなく身につけて―― 「う、うわぁ……」  着替えて鏡の前に立ったマナブは、自分の姿に思わず変な声が出る。  小柄で華奢な体に、清純附属の制服はピッタリと似合っていた。もちろん胸はないが、決しておかしいところはない。首から上はさすがに少年らしさが残っていたが、ボブカットくらいに伸びた髪にブラシをかけ、軽く化粧をするとそれすらも目立たなくなる。 (って、こんなことするから、余計にお母さんが喜ぶんだろうけど……)  何かにつけて女装させられるマナブ。最初はあまり気にしなかったが、鏡を見ると、どうしても首から上が少年で落ち着かない。そのため目立たない程度に髪を伸ばし、化粧まで覚えて、こうしてきちんと女装するときは違和感がないようにしているのだった。 (普通の服は買ってくれないくせに、お化粧品はちゃんと買ってくれるんだよなぁ……)  ぼやきながらも、鏡を見つめる。 いまだに女装すると、鏡に映っているのが自分自身だと信じられないときがある。試しにスカートの裾を摘まんで広げて見せると、鏡の中の「少女」も同じように上品な仕草を取った。プリーツのついた裾が太ももを擦り、パンツよりはるかに頼りない着心地に下半身がむずむずして―― 「うっ……」  制服に合わせたシンプルな純白ショーツの中で、そこだけは確かに少年である部分が疼く。それは鏡の中の自分に欲情したわけではなく、女装していることそれ自体に倒錯的な興奮を覚えているのだった。  恥ずかしいと言いながら、女装を断り切れないもう一つの理由だった。 「はぁ……とりあえず下に行って、お母さんに見せてきたら、抜くことにしよう……」  呟いて、マナブはリビングに下りていくのだった。   (続く)


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