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「妹活はじめました」(1)

 (1)  面接室に通された瞬間から判っていた結論を相手が口にしたのは、計五分ほどのやり取りのあとのことだった。 「申し訳ないけど――採用は見送らせてもらうわね」 「そうですか……」 「ごめんなさいね。あなたに落ち度があるわけじゃないの。とても真面目そうだし、受け答えもちゃんとしてるし、仕事もしっかりしてくれそうだし――でも――」  そして相手――アルバイト採用の面接官である女性店長は、玲の体をまじまじと見て、 「ちょっと……年少労働と疑われたら、困っちゃうし……」 「……はい」  もう何度言われたか判らない言葉に、玲は諦観とともに肯いた。 「ありがとうございました」  立ち上がって改めて一礼すると、面接室を出た。  こうしてアルバイトの面接を受けて、同じ理由で断られるのはもう何度目だろうか。少なくともはっきり言われた理由のすべては、この自分の体格にあった。  身長142センチ、34キロ。  どんなに運動しても筋肉がつかず、かといって骨ばってもいない、少女の如く華奢な肢体。石膏の如く白く滑らかな肌は、産毛すら見えないほどに体毛が薄い。 顔立ちも、整ってはいるが美少女のように目が大きく、睫毛が長く、珊瑚色の唇に桜色の頬、細く尖ったおとがいに、すらりと細い首筋。髪は首筋にかかるほどに伸び、声すらも変声期を忘れたかのように高かった。  これでも齢18、大学一年生の少年なのだが、初対面ではほぼ間違いなく、小中学生に間違われる。それも女子に、だ。髪を切れば男子だと思われるのだろうが(それでもベリーショートの女の子と勘違いされたことはある)、代わりにいっそう年下に見られるため、女子に間違われることを覚悟で髪を伸ばしているというわけだった。着ているシャツとジーンズも、実は女物のSサイズだ。  夜の街を歩けば確実に警官に声をかけられるし、学生証を見せても「お兄ちゃんのを持ち出すんじゃない」と怒られる。ようやく納得しても、「紛らわしいし危ないからさっさと家に帰れ」と逆切れさせる始末である。 「はぁ、こんなんじゃ、バイトどころじゃないよ……」  ぼやきながら、ファミレスの店内に戻る。一休みしてから帰ろうと、受付で案内してもらおうとするも、 「あら、お嬢ちゃんひとり? パパとママ、いる?」 「…………」  可愛い制服のウエイトレスに追い打ちをかけられ、憮然とする。このまま退店しようか、それとも学生証を突き付けようかと迷っていた時だった。 「あたしの連れなの。一緒に通してくださる?」  ふいに少女の声がして、玲は驚いて振り返った。  年のころは10くらいだろうか。玲とよく似た背格好の、なかなかの美少女だった。白いブラウスと、紺のジャンパースカートのセットという、お嬢様のような服装だったが――黒真珠のように大きな瞳は、悪戯そうに輝いていて、「上品」や「清楚」と言った単語からはかけ離れた、お転婆な印象を受けた。 (ええっと……誰?)  玲は戸惑う。ここに来たのはバイトの面接のためで、もちろん同行者などいない。まして目の前の少女とは初対面だった。 「え、ええと……そうなんですか?」  少女の闖入に戸惑ったのは、ウエイトレスも同じだった。確認するように玲を振り返って確かめようとする。  違います――玲がそう言いかけたとき、少女の口元が声も出さずに動いた。 (あ・る・ば・い・と) 「! は、はい。そうです」  玲は慌ててうなずく。どんなつもりか知らないが、話だけでも聞いてみよう。  少女は無邪気に笑って、 「こっちよ、お兄ちゃん」  店の奥へ、ととっと駆け出していった。  まだ首を傾げているウエイトレスに会釈して、玲は少女のあとを追い――奥まった一角に到着して、またも驚く。四人席のテーブルに、先ほどの少女と並んで、クラシカルなメイド服を着た女性が座っていたのである。  襟元が重ね着風のヨーク襟になった、黒の長袖ワンピース。スカート丈はロングで、ウエストで結んだエプロンを垂らしている。髪は後頭部に結い上げて、シニョンにまとめている。  細面の美人だったが、ややきつい目元に眼鏡をかけ、表情も硬い。彼女は玲を見ても目礼したのみで、後は黒子の如く少女のそばに控えていた。 (お嬢様に、メイドさんか……お金持ちの家なのかな……?)  玲は二人の向かいに座って観察しながら、そんなことを考える。  当の少女は幸せそうにケーキを食べながら、 「んー、おいしっ。やっぱここのケーキ、おいしいなー」 「アルバイト」について話そうともしない。 玲は小さくため息をつき、コーヒーを注文する。半分ほど飲んだところで、 「――で、俺に何の用なんだ?」  改めて切り出すと、少女はケーキの最後のひと口をパクリと食べてから、 「言ったでしょ? アルバイト。お兄ちゃん、探してるんでしょ?」 「そうだけど……紹介してくれるのか? 君が?」 「うん」 「俺みたいななりでも、雇ってくれるところなのか? 本当に?」 「もちろん。雇うのは、あたしだもん」 「君が? 冗談は――って、君ももしかして、見た目より年上なのか?」 「ううん。あたしは見た目通り、小学五年生の女の子よ。本当は大学生の、お兄ちゃんとは違って」  少女はちょっぴり意地悪に笑う。 「……からかってるなら、行かせてもらうけど」 「もう、お兄ちゃんったら短気ね。これでも真面目な話、してるんだけど」 「…………」 「疑い深いんだから。ま、いいわ」  そう言うと、少女は不意に背筋を伸ばし、幼い外見からは想像もつかぬ威厳をそなえた表情で、こう宣言した。 「狭山玲さん。私――鈴井璃音は、あなたを雇いたいと思います。私の――『妹』として、ね」   (続く)

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