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「おむつぐみ」(55)

 しばらくギャラリーからの写真撮影に応じた後、和実はようやく解放された。 (うう、いっぱい写真、撮られちゃった……)  前からも、後ろからも。親子連れとのスリーショットから、同じだるまロンパースを着た女の子との「ペアルック」まで。15の少年にはあまりにも恥ずかしい撮影会だったが、お店からもお願いされては断れなかった。 (これからも、来るたびに新作を着せられるんだろうか――)  撮影のあとも和実はだるまロンパースを着せられたまま、店内を連れ回された。ブラウスやロンパース、ワンピースのようなアウターだけではなく、ベビーブルマも大量に購入し、 「ふふっ、これでおうちで着る分も、お出かけで着る分も、困らなくて済むわね」  母親はご満悦だったが、和実はますます憂鬱になるばかりだった。  不幸中の幸いだったのは、先ほど和実が見ていたピンクのベビードレスは160センチの在庫がない(普通に考えれば当たり前なのだが)、発注して二週間前後で届くとのことだった。  「ピンクリボン」での買い物が終わると、貴子は地下駐車場に向かって来た道を戻りながら、 「ふふっ、二人とも、お疲れさまでした。以上で特別な買い物は終わりですが――他にも必要なもののリストはありますので、こちらも幼稚園が始まる前までに、そろえておいてください」 「ええ、ありがとうございました。あとは……これは、文具類かしら?」  貴子から渡されたプリントを、母親はしばらく見ていたが、 「はい、和実。幼稚園が始まるまでに、自分で買いに行くのよ」 「んぅっ!?」  プリントを渡された和実は、目を丸くする。そこに並んでいるのは、自由帳や連絡帳、書き取りノート、鉛筆に消しゴムといった文具系。ただしどれも、高校生が使うようなものではない。リストには、日記帳やスタンプシールまで入っていた。 (これを、自分で買いそろえないといけないなんて――)  もはや歯噛みすることもできず、口中のおしゃぶりをかみしめる和実だったが――ふいにその表情が、凍り付く。 「んっ――」  下腹部にわだかまる、再びの尿意。ファーストフード店で飲んだコーヒーのカフェインは、一度の排泄ではとても消化しきれない尿意をもたらしていた。  そして、さらに深刻なことに――  ごろり、  という不穏な音とともに、下腹部で臓腑が蠕動する。太腿丸出しで歩いていたのと、コーヒーの冷たさがきっかけになり、尿意ばかりか便意までが刺激されていたのである。 (そ、そんな――こんなの、我慢できないっ……!)  おりしも三人は、駅ビル二階から再び中央通路に出ようというところ。最も人通りの激しい場所でのピンチに、和実は真っ青になる。 (い、いや、ここで漏らすことだけは、何としても避けないと――せめて、地下駐車場に……!)  足を踏み出すだけでも内臓が揺れ、刺激された腸が内容物を排出しそうになる。それをこらえて歩き続ける和実だったが、よろよろとしたその動きは、ただでさえ目立つベビー服姿と相まって、ますます注目を集めてしまう。  そして中央通路に出たところで――ようやく貴子が足を止めて、和実を振り返る。 「和実ちゃん、どうしたの? さっきから歩き方が変だけど、具合でも悪いのかしら?」 「ほんと、真っ青じゃない。どこかで一休みする?」 「んっ、んぅーっ!」  和実は激しく首を左右に振り、母親の袖を引っ張って、早く行こうと二人を促す。よりにもよってこのタイミングで、こんな場所で立ち止まられて、もしも漏らしてしまったら――  むりゅっ、  と、ついに限界を超えた肛門括約筋から、熱く、柔らかく、ぬるりとした泥のような塊が漏れ出して、おむつの中で潰れる。本能的な不快感と忌避感に、 「んっ、んぅーっ!!」  和実は表情をこわばらせ、おしゃぶりをかみしめる。  だが漏出は止まらない。搾り器のように細いすきまからにゅるにゅると蠕形動物のように漏れ出して、次第に内圧に負けるように括約筋が緩んで、いつしか太く、長く、大きな塊がそのまま溢れ出していた。  そして排泄されたものはとうぜん、おむつの内側へ――お尻との間で潰れながら、その質量を収納しきれず、おむつを、おむつカバーを、そしてブルマーを押し上げてゆく。同時に排便に触発されて、尿までもが漏れ出して、おむつをずっしりと重く垂れさがらせていった。  行き交う人々も、ただでさえ異様な「大きな赤ちゃん」の異変に気付いたようで、 (ねぇ、あの子……) (うっそぉ……もしかして、うんちおもらししてる?) (みたいね。ふりふりブルマーの上からでも判るくらい、お尻がどんどん膨らんで、垂れ下がって――) (わぁ、ベビープレイにしても、ちょっとやりすぎじゃないかしらねぇ?) (でもあの表情、見てるとなんだか、ぞくぞくしてきちゃう) 「うっ、ううっ……!」  全てを出し切った脱力感と、最悪のタイミングで漏らしてしまった絶望感に、和実は嗚咽まで漏らしながら、その場に崩れ落ちた。地面についたお尻の下で、まだ生温かい汚泥がべしょりと潰れる。 (こんな、こんな――!)  実は昨日の昼頃から、大きいほうは出していない。とうぜんその量も、匂いも強烈で、たちまちあたりに悪臭が立ち込めた。通行人も、彼を避けるように通ってゆく。  すぐ近くにいるのはただ二人。母親と、貴子だけだ。 「ふふっ……和実ちゃん、おっきいほうをおもらししちゃったのね?」 「…………」  貴子の言葉に、和実はコクリと、力なくうなだれる。 「あらあら、仕方ないわね。ふふっ、さすがにこの場でおむつを取り替えるわけにもいかないから――まずは車まで、頑張って歩いてちょうだい。おうちに帰ったら、交換してあげるからね」 「ん……」  和実は泣きながら立ち上がり――先ほどよりさらにみっともなく、ブルマーを垂れさがらせた状態で、がに股気味によちよちと歩き始めるのだった。   (続く)


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