「おむつぐみ」(46)
Added 2020-04-02 10:35:13 +0000 UTC「はっ、はっ、はっ――はぁっ……!」 放尿と、射精。 二つの体液をおむつの中にすべて吐き出しきった和実は、下品な喘ぎ声と共にがっくりと脱力し、カートのグリップから手を離してその場にくずおれた。脚を開き、お尻をペタンと床についた、いわゆる「アヒル座り」の状態である。 何が起きたか、一目瞭然――しかし騒ぎ立てるお客は全くおらず、 「あらあら、もしかして――」 「ふふっ、みたいねぇ」 「あんな恥ずかしい、ベビー服みたいな制服を着て、おもらしして……」 「しかも、うふふっ……そんなにおもらしが気持ちよかったのかしらねぇ……」 すぐ後ろの主婦たちが、もはや憚ることもない声で笑う。 和実は恥辱に震え、両腕で自分の体を抱き寄せるようにする。湿ったおむつがお尻の下で潰れ、しみだした尿がお尻を濡らす。熱を帯びたおむつに蒸気が溜まり、下腹部からお尻にかけて、早くもチクチクと刺すようなかゆみが襲っていた。 「はぁっ、はぁっ……うっ、ぐすっ……」 「まぁ、大変。和実ちゃんったら、白いちっちも出しちゃったのね」 と、射精させた張本人である貴子が、満足げに笑って言う。 「これはすぐに取り換えてあげないと、かぶれちゃうわねぇ、すみません、この子のおむつ交換、してあげてもいいですか?」 「ええ、構いませんよ。あちらの扉の先に、大きなお客様専用のスペースがありますから、そちらで。その間に、こちらで残りの清算をしてもよろしいでしょうか?」 「はい、もちろん。お願いします」 母親はにっこり笑って、改めて店員が持ってきたカートの中を見ると、 「ほーら、和実ちゃん。おむつ交換に行く前に、ちょっとだけ見てごらん。さっき葉月ちゃんとお揃いにしたベビーグッズ、大きいサイズで持ってきてもらったわよ」 「あ……」 言われて振り仰いだ和実は、母親が両手に摘まんで掲げているものを見た。 白いタオル地に、ピンクの縁取りがついたスタイ――よだれかけ。右下にはちゃんと、「オムウサ」の刺繍が入っている。先ほどベビーグッズの棚で、葉月とお揃いになるよう選んだものだ。 しかしそのサイズは縦横共に倍近い、明らかに和実が着用することを前提としたもので、 「ふふっ、可愛いわよねぇ。これからお食事の時は、これをつけてあげるから楽しみにしてちょうだいね。これならママも、食べさせてあげるのが楽しみだわ。ほら、おむつカバーも、おしゃぶりも、肌着用のロンパースも、ぜーんぶ和実のサイズで揃ってるわよ」 「あ、あ……!」 次々に開陳される、ベビーグッズの数々。そのどれもが、ベビー用のデザインでありながら大人用のサイズで、 (これから、ぼくは、あれをつけて生活を――) 考えた途端、すでに萎えながらもいまだ敏感なペニスが、おむつの中できゅんと締め付けられるように疼いた。 母親は一通り見せた後、改めてレジで支払いを済ませてゆく。ちなみにこの間、かなり時間がかかっているのだが、後ろの列からブーイングが上がることはなく、親子連れを含めたほぼ全員が食い入るような目で、和実と、和実がこれから使うことになる大人サイズのベビーグッズとを見つめていた。 貴子は思った以上に円滑な展開にほくそえみつつ、 「さ、和実ちゃん、たっちできる? おもらしおむつを取り替えてあげるから、先生と一緒に、おむつを交換できるお部屋に行きましょうね」 「ぐすっ……は、はい……」 衆人環視の連れ回しから、おもらしと射精――とどめに自分用のベビーグッズを見せられて、和実の心はすっかり折れていた。一方で冷静に、 (ここでぐずっても仕方ないし――何より早くおむつ交換しないと、かぶれてもっとひどいことになっちゃう……) そう判断するだけの理性も残っていた。 貴子の手を借りて立ち上がり、床を見る。さいわい、おしっこが漏れたりはしていないようだ。代わりにブルマーの内側はずっしりと重くなり、もはや何の説明がなくとも、おもらしをした後であることがバレバレな状態になっていた。まともに脚を閉じることもできず、赤ちゃんのようながに股で、いまだ力の萎えた膝を震わせながら歩き始める。 すると貴子はふと悪戯を思いついた顔で、カートに入っていたガラガラを取り上げると、 「さ、ゆっくりこっちに歩いてきてちょうだーい」 そういいながら、ガラガラを振り始めたものである。 からころ、からころ。 小気味いい音を立てる玩具を、和実は情けなさそうににらみつけた。 しかし立ち止まっているわけにもいかず、顔をゆがめて蟹股気味に歩き始める。 「あんよはじょうず、あんよはじょうず」 貴子は魔女のようににんまりと笑って、 「うんうん、ちゃーんと先生についてきてくれるなんて、和実ちゃんは、ガラガラが大好きなのねー。ほーら、からころ、からころ♪」 うそぶきつつ、15の少年に向かってガラガラを鳴らしてつつ歩いていった。 和実は恥ずかしさに唇を噛みながらも、仕方なく貴子の後を追う。 (ガラガラなんてなくても、ちゃんと歩くのに……) (これじゃまるで、ぼくがガラガラに反応してついてってるみたいじゃないか――!) ちらりと周りを窺うと、主婦たちも、子供を抱いた母親も、どこか暖かい目で和実を見送っている。それは完全に、おもらししてしまった幼児が母親についてゆくのを見守る目であった。 (こんな生活が、ずっと続くなんて……!) またも泣きそうになる和実。しかしその思いとは裏腹に、おむつの中の彼の化身は、奇妙に甘く疼くのだった。 (続く)