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「おむつぐみ」(42)

(どれが気に入ったのかなんて、言われても――)  しょうじき、見ているだけでいたたまれない。15にもなった男が、本当は必要のない紙おむつ――それもわざわざ女児用のものを選ぶなんて、ただの変態でしかない。  赤い顔で歯噛みする和実に、貴子はくすくす笑いながら、小声で揶揄う。 「ふふっ、恥ずかしがることはないでしょう? 『おむつ組』の制服で外を歩いて、来週からは幼稚園に通わなくちゃいけないのに、今さらにもほどがあるわ」 「そ、それでも、恥ずかしいものは、恥ずかしいんだって……!」 「もう15の男の子でしょ、覚悟を決めなさい」 「う……赤ちゃんになる覚悟なんて、そう簡単に決まらないよ……」  泣き言、繰り言の情けなさを判っていながらも、言わずにはいられない。  しかしいつまでもここにいるわけにもゆかず、 「じゃ、じゃあ、これ――」  和実が選んだのは、数あるパッケージの中では一番大人しそうな――前側に小さな花模様の付いた、白い紙おむつだった。サイズもちゃんと、スーパービッグ対応である。  しかし貴子が、そんな曖昧な指示で満足するはずもなく? 「ん? これ、だけじゃ何のことか判らないわよ? 誰が、どれを、どうしたいのか、ちゃんと言ってくれないと」 「う……ぼ、ぼくが、この、紙おむつを、買って、欲しいです……!」 「はい、よく言えました。どれどれ……まぁまぁ、和実ちゃんったら、こんな可愛い女児おむつが欲しいだなんて」  貴子は意地悪に笑うと、そのパッケージを取り上げて、裏返す。そこには紙おむつのお尻側――大きなピンクのハートに、片耳にリボン、腰にはおむつを当てたウサギのキャラクターが描かれていた。  それを見て反応したのは、先ほどベビーフードコーナーを一緒に見ていた赤ちゃんの少女――葉月だった。 「あー! おむうちゃ!」 「お、おむ……?」  訊き返す和実に、葉月の代わりに答えたのはその母親だった。実はすぐ近くにいて、三人の様子を見ていたのだ。 「うん、オムウサちゃんよ~。幼稚園に上がってもおむつの取れない、ウサギの女の子が主人公の、ショートアニメなの~。うちの葉月も好きなんだけど、和実ちゃんも、オムウサちゃんを見てたのね~」 「ち、違います! 表を見たら、シンプルだったから――」  慌てて前で両手を振る和実だったが、 「ふふっ、まさか和実が、そんな幼児アニメを見てたなんてね。ごまかさなくてもいいわ。和実ちゃんの大好きなオムウサちゃんの紙おむつ、買ってあげる。オムウサちゃんと一緒に、いっぱいおもらししましょうね」 「ううー……」  聞く耳を持たない母親に、和実は真っ赤になって唸る。 「さっきも言ったように、我慢してから一気に出すと受け止めきれないと思うわ。本当はせいぜい、幼稚園から小学校低学年くらい向けのおむつで、和実ちゃんの年の男の子よりも、ずっとおしっこの量が少ないんだから」 「は、はい……」  貴子の注意はもっともだったが、改めて自分の年齢と性別――本来対象としている女の子たちよりずっと年上であることを思い知らされる。  紙おむつのパッケージをカートの下の段に入れた後、三人はさらに移動して、紙おむつコーナーから、布おむつとその関連コーナーへ。 「紙おむつはこれでいいとして、幼稚園で使うための布おむつとカバーも、買い足しておいたほうがいいと思いますわ、お母様」 「はい。昨日もかわりばんこに洗濯して使いましたけど、正直もっと数が欲しかったところなんです。でも、このサイズだと――」  母親が首を傾げる。  棚に並んでいるのは、とうぜんベビー用のおむつカバーばかり。ボーダー柄、ギンガムチェック、花柄、リボン柄、フルーツ柄――色柄は豊富だったが、サイズは最大90どまりである。スーパービッグサイズまで用意されている紙おむつと違って、どう頑張っても、和実が着用できるものではない。  しかし貴子はにっこり笑って、 「大丈夫ですよ。ここで好きな色柄を選んでください。レジに持っていけば、和実ちゃんサイズのを出してもらえるはずですから」 「あら、そうなの?」 「ええ。大きい声では言えませんけど、このドラッグストアはうちと提携していて、『おむつ組』の園児用のグッズをそろえてるんです。――さ、和実ちゃんも、欲しいおむつカバーがあったら選んでちょうだい」 「うう、もう、好きにして……」  和実は半ば捨て鉢に言う。さっき自分で紙おむつを選んでかえって恥ずかしい思いをしたため、「選択する」行為を回避しようとする心情が働いたのだ。  母親は仕方なさそうに鼻息をついて、 「仕方ないわねぇ。じゃ、お母さんが選んじゃうわよ」 「うん……」 「ふふっ、どれも可愛くて、みんな買いたくなっちゃうわ。色は――やっぱり女子幼稚園だし、赤とかピンクのほうがいいかしら。まずは、これと、これ――あ、これもいいわねぇ」  あきらめの境地で見守る和実の前で、母親はウキウキと、女の子用の布おむつカバーをカートに入れてゆく。  赤系はリボン柄、イチゴ柄、ギンガムチェック。ピンク系はハート柄に、おむつグッズ柄、ウサギ柄。黄色系はヒヨコ柄に、フルーツ柄に、ひまわり柄。さらにピンク、水色、ラベンダーの無地に、お姫様のシルエットがプリントされたもの―― 「そ、そんなにたくさんっ……!?」  口を出すつもりはなかった和実だが、あまりにたくさん買い込む母親に思わず叫ぶ。  母親は笑顔で、 「ええ。せっかくなら、いっぱい可愛い柄のを揃えたいもの。そのほうが、交換するママも楽しいし」 「う……」  もう少しおとなしいのにしてもらおうと思っていた和実だったが、交換してもらう立場を思い出すと、強く反対もできない。  さらに貴子からも、 「ふふっ、お母様はちゃんと、息子さんが『おむつ組』の園児として生活することに心の準備ができてらっしゃるのね。恥ずかしさはともかく、負担はお母様のほうがずっと多いのに。和実ちゃんも、しっかり覚悟を決めたほうがいいんじゃないかしら?」 「うう……は、はい……」  あまりにも理不尽な「正論」に、肯かざるを得ない和実だった。   (続く)


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