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「おむつぐみ」(41)

 このドラッグストアではベビー関係は同じ一角にまとめられていて、ベビーフードとおむつの棚は、すぐ同じ並びになっている。  陸奥学園附属女子幼稚園の「おむつ組」に落第した倉石和実は、幼稚園の保育士である水無瀬貴子と、自分の母親とに連れられて、そのおむつコーナーへと移動していた。 (店の中をあちこち連れ回されるよりは、まだましだけど……) (でもやっぱりこの格好、恥ずかしすぎる……!)  ふと冷静になると、自分の格好の異常さをひしひしと実感する。  丸襟ブラウスにピンクのリボン、水色のイートンジャケットに、黄色いギンガムチェックのフリル付き吊りブルマー――しかもその内側には布おむつカバーと布おむつという、幼稚園児ですら嫌がりそうなベビー服まがいの「おむつ組」制服。上半身はジャケットまできちんと着こみ、下半身はおむつとフリルでモコモコフリフリと膨らんでいるのに、太腿からふくらはぎまで丸出しという、なんともアンバランスな着心地だ。昨日から着せられているとはいえ、元男子高校生の和実が、すぐに慣れるはずもなかった。  さらに今では通園帽も、大きなふちの付いた黄色いベビーボンネットで包み込む「おむつ組」専用のものに変わった上、髪型まで、前の一房だけを残してすべて剃りあげられてしまったため、さらにベビー度を上げていた。  幼稚園児というより、完全に赤ちゃん扱いでである。そのくせ名札は青いゾウさん型のものを、よりにもよって股間につけ、中に高等部の学生証を入れるという、「元は男子高校生である」ことをアピールするものになっている。 (恥ずかしすぎて、頭がおかしくなっちゃいそう……!)  羞恥プレイとしてもやりすぎで、家の中でさえ苦痛なほどの「制服」だったが、これからおよそ一年間、この格好で附属女子幼稚園に通園しなければならない。  今日はその下準備として、保育士の貴子に案内され、必要なものを揃えていた。  待ち合わせで「おむつ組」の制服姿を、ご近所さんに晒し。  美容室で前述の専用髪型――新生児のような頭にされた上にベビーボンネットをかぶせられ。  時間つぶしと称してファストフード店でコーヒーブレイクした後で。  次に連れてこられたのが、このドラッグストア。まずは今後の和実の食事――離乳食の数々と粉ミルク、哺乳瓶とその関連グッズを買い込んだところだった。これから「おむつ組」の間はずっと、大人と同じものは口にできない――徹底して、幼稚園児未満の赤ちゃん扱い (ご飯の次は、おむつ――)  すでに心折れそうな和実だったが、貴子たちは容赦なく、おむつコーナーの前に移動する。和実も大人しくあとをついてゆき――その棚に並ぶ商品の数々に、思わず立ちすくむ。  女児向け紙おむつのパッケージ。ベビー用のものから幼稚園児用、さらにもっと大きい女の子用まで、幅広いサイズとデザインがそろっている。新生児用はテープタイプ、立ち上がれるようになったらパンツタイプが主流のようだ。  花柄、ハート柄、女の子のイラスト入り――少年である和実にとっては、見ているだけでお尻がむずむずしてくる光景だ。しかし―― 「どう? 可愛いのがいっぱいあるでしょ? 好きなのを選んでいいわよ。おむつ組の和実ちゃんにはぴったりだもんね」  貴子がにんまりと笑って振り返る。  声も出せない和実に代わって、訊ねたのは母親のほうだった。 「あら、こちらは紙おむつのようだけど、布じゃなくてもいいのかしら?」 「ええ。幼稚園では布おむつが決まりですけど、おうちの中では紙おむつでもいいことになってますから。もちろん、ぜんぶ布で通してもいいですけど、おうちやお出かけでは紙のほうが便利でしょうから」 「たしかに、紙のほうが便利なのよねぇ。おむつカバーもいちいち洗わなくて済むし」 「でしょう? 和実ちゃんなら、女の子用の最大サイズ――35kg用なら十分着用できると思いますわ。おもらしのサイクルを短くすれば、漏れることもないでしょう」 「そうね……和実、どうする? 好きなほうを選んでいいわよ?」 「う、ううっ……好きなほうって、言われても――」  盛り上がった後で話を振られて、和実は返事に窮する。本当なら、紙おむつなんて選びたくないと一蹴するところだが、 「紙おむつが嫌なら、ずっと布おむつでもいいわよ? ふかふかの布おむつのほうが気持ちいいものね。交換しなくちゃいけないのがちょっと大変だけど、そこはおむつとおむつカバーをたくさん用意すればいいから、ママはどっちでもいいわ」 「う、う……」  布おむつに比べれば、紙おむつのほうがまだ、交換などを考えると恥ずかしさが少ないかもしれない。しかしそれを自分の口から言うのは恥ずかしく、胸の前で手を組んで口ごもっていると、 「ふふっ、和実ちゃんは布のほうが好きみたいね。それじゃ、次の場所に――」  さっさと歩き出そうとする貴子に、 「ま、待って!」  思わず大声が出てしまい、遠巻きに見ていた客や店員が一斉に振り返るのに、和実はまた赤くなる。  貴子がにんまりと笑って振り返り、 「どうしたの、和実ちゃん。欲しいものがあったら、ちゃんと自分のお口で、はっきりといってごらんなさい。いまは幼稚園児の特別クラスでも、元は高校生だったんだから、そのくらいできるでしょ?」 「う、ううううう……」  掌の上で弄ばれていることに気付き、真っ赤になって唸る和実。  しかしやがて泣きそうな声で、 「……つが、いいです」 「ん? もっと大きな声で、先生にも聞こえるように言ってちょうだい」 「う……か、紙おむつのほうが、いいです……!」  すでに離れた場所にいる貴子に聞こえるように、ヤケクソ気味に声を張る和実。周囲の人たちにもはっきりと聞こえたようで、くすくすと忍び笑いが漏れ始める。 (は、恥ずかしい……!) (本当はおむつなんて嫌なのに……こんな辱めを受けるなんて……!) 「ふふっ、よく言えました」  貴子は満面に笑みを湛えて、紙おむつコーナーの前まで戻ってくると、 「じゃ、改めて選んでちょうだい。和実ちゃんはどの紙おむつが気に入ったのかしら?」   (続く)


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