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「おむつぐみ」(35)

 マンション前の路肩に車が止まっていて、そのすぐわきに女が立っていた。  彫りの深いエキゾチックな顔立ちの美人である。タートルネックにタイトスカート、シンプルな装いだが、スタイルの良さが際立っている。 「陸奥学園附属女子幼稚園の年少組担任、水無瀬貴子よ。来週から、あなたの担任をさせてもらうことになってるわ。詳しくは目的地に向かいながら話すから、お母様と一緒に車に乗ってちょうだい」   * 「明日幼稚園のほうで面接があって、その結果次第で、早ければ来週から幼稚園に通ってもらうことになるわ。今日はそのために、いろいろと揃えてもらうことになるんだけど――」  駅方面へと向かう車の中で、貴子は説明を始める。  助手席の和実は大人しくそれを聞きながらも、外が気になって仕方がない。車が走っている国道は、人も車も、住宅街の比ではないほど多い。どちらもいちいち車の中まで見ていないことが多いが、もし見られたらと思うと、座っているお尻がムズムズする。 「まずは髪型ね。『おむつ組』に特別な髪型があるから、まずは園と提携してる美容室で、カットしてもらいましょう」 「髪型も……」 (いったいどんな髪型に……おかっぱとか、ロングとか……いや、長さ的に無理だけど、女の子っぽくされちゃうのかな……ヘアゴムをつけられたり……) 「それと、その帽子は『おむつ組』では使わないわ。美容室のほうに先に送ってあるから、今後はそっちをかぶるようにしてちょうだい」 「は、はい……」  いかにも幼稚園児めいた黄色い安全帽をかぶらなくていいのは、本当なら安堵するべきなのだろうが――よりいっそう恥ずかしいことになるのではと、不安のほうが強くなる和実だった。  そしてやってきたのは、駅前通りからちょっと外れたところにあるお洒落な美容室だった。表はガラス張りで、外からでも店内の様子が一望できる。カット中のお客は5人、待合室に3人。いずれもお洒落な若い女性ばかりだった。  いつもなら入らないような美容室。ましてこんな格好で入ることにしり込みしながらも、逃げ出すわけにもゆかず、和実は貴子、母親とともに店内に入る。 「いらっしゃいませー。あらー、可愛らしいお客様ですね」  応対した店員は、「おむつ組」制服を着た和実にも驚いた様子一つ見せずに、笑顔で出迎える。  しかしお客はそうもいかず、入ってきた和実の姿にぎょっと目を丸くして、 「あの子、格好は幼稚園児みたいだけど……ずいぶん大きくない? 中学生か、高校生くらいにはなってそうだけど」 「それに、下はブルマー……? どういう子なのかしら……?」  ざわつく店内に、いたたまれなくなる和実。  すると貴子は彼の肩を叩いて、 「ほら、和実ちゃん。他のお客さんたちが戸惑ってらっしゃるわよ。きちんと自己紹介して、説明して差し上げなさい」 「は、はい……」  喉を鳴らして、和実は店内を見回す。 「陸奥学園附属幼稚園、特別クラス『おむつ組』の、倉石和実です。この格好は、『おむつ組』の制服で――変かもしれませんけど、よろしくお願いします」  そう言って、ぺこりと頭を下げる。  丁寧な態度に、女性客も好感を持ったようだ。 「へぇー、ほんとに幼稚園児なのね」 「あれ? 声低いけど、まさか男の子?」 「は、はい!」 「うわぁ、男の子なんだ。ふーん……」  和実が少年と判ったとたん、女性客の眼光がさらに粘っこくなる。  待合スペースから一人の女子大生がスマホを持って立ち上がり、 「ねぇねぇ、お姉さんと一緒に、写真撮ってくれない?」 「え、えっと、それは……はい……」  断ったほうがいいのかとも思ったが、これからは写真に撮られることにも慣れないといけない。和実が大人しくうなずくと、女子大生はうきうきで和実の隣に立ち、 「んじゃ遠慮なく取らせてもらうね。はーい、笑って笑ってー。ハイチーズ」  ぎこちなく笑った瞬間、スマホから「カシャ」と音が鳴り、 「わー、かっわいいー! ありがとね、和実ちゃん!」 「次、あたしもいい?」 「あ、私も!」  待合室の女性たちに次々に言われ、和実は恥ずかしい姿を撮影されるのだった。  そして、その裏で、美容室と貴子が打ち合わせを始める。 「連絡は頂いてます、水無瀬様。彼が、『おむつ組』の子なんですね」 「ええ。お伝えした、『おむつ組』の髪型にしてあげたあと、すでにお送りした帽子を――」 「わかりました。ふふっ、ほんとにあんな髪型にしちゃうなんて、『おむつ組』も徹底してますね」  美容師はにっこり笑って、 「あの子がどんな恥ずかしがるか、楽しみです♪」   (続く)


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