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「おむつぐみ」(33)

 上村園子と、狩野トワ。  二人の元後輩の励ましに、 (まったく、狩野さんも、気軽に言ってくれちゃって……高校生にもなって幼稚園に通うからって、そんな無邪気になりきれるわけないのに……) (でも――何でもない風に言ってもらえて、ちょっとだけ安心した、かな。そうだよね、もう決めたんだから、あんまり思いつめないようにしないと……)  ほんの少し気分を切り替えることができた和実だったが、 (それはそれとして――)  見回せば、そこは公営住宅の門近く。4棟の集合住宅から表通りに続く道は、実質ただ一つの入り口として機能している。とうぜん朝のこの時間は人の流れも多く、会社員、高校生から近所の小中学生まで、続々と表に出てきていた。  彼らのぎょっとしたような表情と、突き刺さる視線。特に集中するのは、幼稚園の制服としても異様なブルマーのふくらみとフリル、そして丸出しの太腿だ。 (こ、これは、恥ずかしすぎる――!) (さっきまでは二人と話してて気がまぎれたけど……たくさんの人から、変な目で見られちゃってるよ……!)  手で隠そうにも、そもそも隠すべき場所が多すぎる。ブルマーの前も後ろも隠したいし、ブラウスのリボンも、襟元も、頭にかぶっている通園帽子も、足のソックスも――もう全身を隠したい。穴があったら入りたい気持ちでいっぱいだったが、もちろんそんな穴はどこにもなく、マンションから次々と現れる住人に向けられる奇異の目に耐えるほかない。  いや、見送りに出てきた主婦や、登校時間まで間がある小中学生などが、門の付近で足を止め、ひそひそとこちらを見て囁きかわしていた。その数は次第に増えてゆき、たちまち20人ほどにもなって―― (うう、やっぱりこの格好で外に出るなんて、無茶にもほどがあるって……!)  しかし隣に立つ母親はのんびりと、 「そんなにそわそわして、どうしたの? もしかしておしっこ?」 「違うよ! 人に見られて、恥ずかしくって……」 「うーん……それはママでも、どうしようもないわね。早く慣れちゃいなさい」 「うう……ご近所中で噂になって、あれこれ言われちゃう……」 「そうねぇ……」  母親は笑顔になると、胸の前でポンと両手を合わせて、 「なら、いい方法を思いついたんだけど、聞いてくれる?」 「嫌な予感しかしないんだけど……なに?」 「あれこれ言われるのが恥ずかしいなら、いっそ、きちんとした話として伝えちゃえばいいのよ。正確な情報が伝われば、認知されておしまいになるでしょう?」 「そ、それは……確かに、そうだけど……!」 「ふふっ、でしょう? じゃあさっそく――」 「ちょ、お母さん、待って、まだ心の準備が……!」  慌てて止めようとする和実だったが、母親はすでに門の前にたむろしている人たちに向けて近づいてゆき、 「はーい、お集りのみなさーん! いろいろお聞きしたいことがありそうなので、息子のほうから説明させたいと思いまーす!」  言った途端、門前の人々はまたざわめいた。目を輝かせて色めき立つ人、「息子……?」とさらに困惑する人、怖い物でも見るかのように怯える人――反応は様々だったが、立ち去る人はなく、和実の説明を待つ態勢だ。  先行する母親は和実を手招きして、 「ほら、和実、こっちにいらっしゃい」 「ああもう、めちゃくちゃだよ……」  半泣きで言う和実だったが、こうなっては仕方ない。お白州に引き据えられる咎人のような気分で、早くも30人以上に増えたギャラリーに向かって歩いていった。  近づくと、一人一人の顔や表情がはっきりとわかって、ますますいたたまれなくなる。もともと中学時代までは地味で、目立たない生活を歩んできたため、注目の的になるだけでも恥ずかしいのだ。さらには、事の発端ともなった入学式のトラウマまで蘇りそうで、おむつの中で陰嚢がギュッと締め付けられる。 「さ、まずは自己紹介からよ」 「うう……はい……」  和実は泣きそうになりながら、それでもギャラリーに向かって近づいていった。   (続く)


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