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「おむつぐみ」(29)

「まったく、なんであんな夢を……」  額に浮かぶ嫌な汗をぬぐいながら、布団をはねのけて上体を起こすと、 「うっ……昨日の制服と、こんな格好で寝たせいだな……」  布団の下から現れた自分の体が着ているのは、昨日、佐々木楓子にプレゼントされたピンクの丸襟チュニック風ロンパース。短いスカートから覗くその下半身は、中に当てたおむつで膨らんでいる。大きさは悪夢の時ほどではないが、股間からお尻にかけて当たっている布おむつの圧迫感は、いっそう生々しかった。 「まずは着替えないと――って言っても、あの制服も、恥ずかしいなぁ……」  呟きながら起きようとしたところで、とつじょとして部屋の明かりが点き、 「おはよう、和実。ちゃんと寝られた?」  ノックもせずに、母親が入ってくる。  和実は慌てて布団をかぶり直し、ピンクのロンパース姿を見られまいと隠しながら、 「お、おはよう――じゃなくて、お母さん、入る時はノックして――」 「幼稚園児のくせに、生意気言わないの。それより、おねしょしてないわよね?」 「するわけないじゃんか! もう、馬鹿なこと言ってないで、着替えるから出て行ってよ」  本当は着替えたくもないのだが、いちおうそう言って追い出そうとする。  しかし母親は、 「あら、しなかったの」 「なんで残念そうに言うんだよ……」 「だって――じゃなくて、着替える前に、おもらししちゃいなさい。制服でおもらししたいって言うなら別だけど、パジャマで一回出しちゃったほうが楽よ。どうせ着替えるんだし」 「う……お、おもらし、しないと、ダメ……?」  昨日、幼稚園からの指示で、今後の生活ではトイレ禁止――排泄はすべておむつの中にすることになっている。せめて家の中でくらい、普通にトイレでしたい和実だったが、 「ダメだって、言ったでしょ。さ、ここでする? それとも、ベビールームに移動する?」 「あ、あっちに、行く……」  さすがに、小中と男子として過ごしたこの部屋の中で、おもらしをする気にはなれない。渋々ベッドから起き上がり、床に足をついて立ち上がると、 「うっ……」  下腹部に内側から感じる圧迫感に、和実は動きを止める。強烈な尿意は、今にも漏らしそうなほどに強い。ふだんなら急いでトイレに駆け込むところだが、 「ほら、いらっしゃい。おもらししたあと、おむつを交換したら朝ご飯にするから、早くするのよ」  母親にそう言われては、逃げることもできなかった。 「はーい……」  ロンパースのまま廊下に出て、隣の部屋へと移動する。壁紙も床も家具もピンクと白で統一された、少女趣味な「ベビールーム」は、少年である和実にとっては、入るだけでもお尻がむずむずする部屋だ。  しかもドアを開けるとすぐ正面に、瀟洒な姿見が置いてあり――そこに映る自分の姿に、和実は不意を突かれて鼻白む。 「うっ……」  「Sissy Baby」の刺繍が入った大きな丸襟、ふんわりと膨らんだパフスリーブと、白い袖口。フリルがついたチュニックの裾から覗くのは、中に当てたおむつでパンパンになったロンパースのブルマー部分。  15歳の少年としては小柄で女顔なため、見苦しくはないのだが――少年が女児ベビー服を着ているのは、違和感が強かった。ましてそれが自分なのだから、 「やっぱり、恥ずかしすぎる……! 「いいじゃない、とっても可愛いわよ。学ランよりずっと似合ってるわ」 「そ、そんなこと言わないでよ!」  憤慨しながらも、尿意のほうも限界である。大人しくおむつ交換マットの上に移動して、お尻を下ろす。すると―― 「ちょ、ちょっとお母さん!? 鏡を前に置かないで――」 「ダメよ。ベビー服にも、おもらしにも、一日も早く慣れないといけないんだから、ちゃんと自分の姿を見ておもらしして、『おむつ組』としての自覚を持ちなさい」 「めちゃくちゃだよ……!」  先ほど入り口で出迎えた鏡を正面に置かれて、和実は真っ赤になる。ちょうど足を広げてお尻を下ろしたところは、 「うんうん、そうしてるとますます赤ちゃんっぽくて、いいじゃない。そうだ!」  母親は、女児ベビーのような息子の姿にテンションを上げながら、クローゼットの横にあるドレッサーの引き出しを開けると、ピンクのリボンがついたヘアピンを持って来て、 「お母さんがもっと可愛くしてあげるから、大人しくしてなさーい」 「ちょ、やめて、お母さん……!」  後ろに回り込んだ母親に、ヘアピンを留められる。振りほどいて逃げ出したいのはやまやまだったが、尿意のせいで暴れることもできずに、すぐに頭の左右に、ピンクのリボンが付けられてしまった。 「ふふっ、すっかり可愛くなったわね。それじゃ、おもらししちゃいなさい。ちゃんと鏡を見て、両足を広げて――スカートもめくって、ね」 「う、ううっ……はい……」  和実はもはや抗弁する元気もなく、言われるがままに両足をM字に広げ、自らの手でチュニックの前の裾をめくり、鏡を見る。ただでさえ幼いピンクのチュニック風ロンパース姿で、短い髪にピンクのリボンをつけているのは、いっそう幼女じみていた。   (続く)


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