「おむつぐみ」(28)
Added 2020-02-29 11:10:26 +0000 UTC奇妙に色彩が乏しい世界の中、倉石和実は中学校に向かっていた。 いつものように詰襟を着て、スクールバッグを肩にかけて。同じ中学の生徒たちと一緒に、長い坂道の先にある中学へとたどり着く。 教室に入り、クラスメイト達と朝の挨拶を交わしながら自分の席に着くと―― 「おはよう、和実ちゃん」 「お、おはよう、藤原さん」 隣から話しかけてきたのは、セーラー服の藤原千代。クラスでも一番人気の美少女からの挨拶に、和実は思わずドキッとするが、 「か、和実ちゃん……って、藤原さん、あの、ぼくは――」 「ん? 和実ちゃんは、和実ちゃんでしょう。ほら――」 千代はにっこり笑って、和実の胸元を指さす。 つられて自分の体を見下ろした和実は、 「え――ええっ!?」 さっきまで着ていた詰襟の制服から一変した服装に、驚愕の叫びを上げた。 紺地に白のラインが入ったセーラー襟と、そこに結ばれた臙脂色のスカーフ。アンダーバストから下はすぐスカートになっていて、裾丈は膝上どころか股下ですらない、股上5センチ。ほとんどチュニックである。 しかも真っ白な太ももの付け根の間から覗いているのは、トランクスでもなく、ショーツですらなく、セーラー服やスカートと一体になったボディースーツ――いわゆるロンパースの、クロッチ部分だった。しかも横一列にスナップボタンが並んだベビー服仕様で、そのことをしめすように、下半身は前も後ろも、まんまるに膨らんでいる。 「えっ、えっ……!?」 制服のようなセーラーロンパース。しかしもちろん、こんなものを着て登校した覚えはない。つい数秒前までは確かに、詰襟の制服を着ていたはずなのに―― 「なにびっくりしてんの、和実ちゃん」 さらに千代の向こうから話しかけてきたのは、吊り目がちのきつい美貌に、赤いリボンで結わえたポニーテールが映える女子――神保詩織だった。 「和実ちゃんの制服は、そのセーラーロンパースでしょ?」 「い、いや、そ、そんなわけが……!」 「いえ、それが和実ちゃんの制服なのよ」 きっぱりとした口調で千代に言われ、和実はいよいよ言葉に詰まるが、 「ほら、ぼーっとしてないで。授業が始まる前に、あたしと千代が和実ちゃんのおむつを取り替えてあげるから、そこに寝っ転がりなって」 「い、いらないよ、そんなの!」 訳が分からないまま叫んで、和実は教室から逃げ出そうとする。 しかしすぐに詩織に背後から羽交い絞めにされ、 「おっと、逃がさないよ! 千代、脚のほうを持って!」 「うん。和実ちゃん、大人しくなさい。ママたちが、おむつを取り替えてあげますからね」 「そ、そんなっ……!」 詩織に上半身を、千代に足のほうを担がれて、教室の中心へと運ばれてゆく。 クラスメイトが輪になって見守る中、和実はそこに置かれた巨大なベビーベッドに寝かされる。両腕は詩織に押さえつけられたままで、逃げ出すこともできない。足元側の柵が下ろされ、そこに立った千代が優しく笑って、 「さぁ、ママがおむつを替えてあげますからね」 言いながら、和実のクロッチに手を伸ばし、そこに並ぶボタンを外して、おむつカバーを丸出しにする。紐をほどき、スナップボタンを外してマジックテープをはがすと、たっぷりと当てた布おむつが露わになり、さらにそれも取り除けられて、つるつるの下半身が露出する。 「かわいいー!」 「あかちゃんのおちんちんみたーい!」 教室から上がる女子の声に、和実は泣きそうになる。 その間に、千代は和実の布おむつを――驚くほどあっさりと――取り替えて、再びおむつカバーを当て直し、ロンパースのスナップボタンも留める。 「これでよしと。それじゃ、そろそろ先生が来る時間だから、和実ちゃんはそこでねんねしててちょうだいね」 「え……こ、このまま……?」 自分の机につかなくていいのか、そもそも何で教室に、こんなベビーベッドがあるのか――あまりにも奇妙な状況だが、今の和実は不思議と疑問に思わなかった。 ただ羞恥と恐慌のままにベビーベッドから降りて、 「い、いやぁっ!」 短いスカートを翻し、大きく膨らんだお尻を振りながら、廊下を走り、階段を降り、下駄箱の前を通って外へ――まだ通学中の中学生たちに見られ、指をさして笑われる恥ずかしさに泣きそうになりながら、それでも自宅に帰りつくと、 「お帰り、和実ちゃん」 裏のお姉さん――佐々木楓子が、可愛らしいピンクギンガムのだるまロンパースを持って出迎えて、 「さぁ、今日はこれに着替えて、公園にお散歩に行きましょうね」 「あ、あ、あ……!」 驚いて立ちすくむ和実。 さらにその両腕に左右から、陸奥学園附属女子幼稚園の制服を着た少女が二人取りすがって、 「和実ちゃん、公園に行きましょ!」 「和実ちゃん、いくわよ」 「早苗お姉ちゃん、香織お姉ちゃん……ぼくは、ぼくは……!」 気付けば服装は、セーラーロンパースから「おむつ組」の制服へと変わり―― 「はっ、はぁっ、はぁっ――」 薄闇の視界に映る見慣れた天井に、和実はようやく安堵して呟いた。 「はぁっ……ゆ、夢か、よかった……」